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ストイコビッチ「国境を越えた日本人選手の活躍は20年における日本サッカー成長の証」

2013.04.09

Jリーグサッカーキング5月号 掲載]
世界的なビッグネームが次々に日本に新天地を求めた草創期、ストイコビッチもまた、生まれたばかりのJリーグに強い関心を抱き、大きな希望と決意を持って足を踏み入れた。あれから約20年、Jリーグの変化を見守ってきた彼の目に映る、日本サッカーの“現在地”とは。
ストイコビッチ
インタビュー・文=大島久之介 写真=鷹羽康博

20年における日本サッカー成長の証

名古屋グランパスの選手としてピッチに立った94年からの7シーズンで、日本サッカーのレベルにおける変化は感じられましたか?

ストイコビッチ 現時点においてもそうですが、日本サッカーは着実にレベルアップしています。それは、私が日本にやって来た頃とは比べものにならないほどの進歩と言えるでしょう。その進度については、日本代表の結果を見れば明らか。日本は98年のフランス・ワールドカップ以来、連続してW杯に出場し続けていますが、これは決して簡単なことではありません。これもひとえに、Jリーグ、あるいは日本サッカー全体の発展の賜物と言えるのではないでしょうか。世界のサッカー全体が進歩している中で、日本も決して遅れをとることなく、進歩を続けているという印象です。もっとも、完璧な選手や完璧なサッカーなど存在しませんから、努力を怠らず、より高いレベルを目指すことが重要であると思います。

現役時代、対戦相手として印象に残っているチームはありますか?

ストイコビッチ ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)は素晴らしいチームでした。多くの日本代表選手と素晴らしいブラジル人選手がハイレベルで融合していましたからね。また、名古屋にとっては鹿島アントラーズも常にライバルとして立ちはだかる相手でした。彼らとの試合はいつも難しいものだったと記憶しています。

では、選手ではいかがでしょうか。

ストイコビッチ 特定の選手名を挙げるのは難しいですね。何しろ、数え切れないほどの良い選手がいましたから。

名古屋にも有望な若手が数多く所属していたと思います。

ストイコビッチ そうですね。例えば、小倉隆史は素晴らしい選手でした。彼の場合はケガなどもありアンラッキーでしたが、将来を嘱望された選手の一人であったことは間違いありません。それから平野孝や岡山哲也も恵まれた才能の持ち主だったと思います。私も含めて、当時の名古屋グランパスは非常に素晴らしいグループを形成していたと思いますよ。

01シーズンを最後に現役を引退されてから、08年までの7年間はヨーロッパを拠点に活動されていました。その期間もJリーグの結果などは気にされていたのでしょうか。

ストイコビッチ もちろんです。常に気にかけていました。すべての試合結果や内容をフォローできていたわけではありませんが、優勝クラブや活躍した選手の情報などは意識的に得るようにしていました。

その間、ヨーロッパから見てJリーグの印象は?

ストイコビッチ 私が選手としてプレーした7年間と同じく、急速な進化を遂げていったという印象です。ポジティブな印象しかありません。私が思うに、サッカーにおいて最も重要なのは「オーガナイズ(組織)」。確固たる組織を形成し、すべてにおいて最善の準備をする。これは決して簡単なことではありませんが、日本人のメンタリティーとして浸透している「オーガナイズ」に対する理解力は特筆すべきものであると思います。だからあなたも日本人でいられることをラッキーだと思うべきですよ(笑)。日本人は非常に規律正しく、互いへの尊敬、尊重の心を持っている。加えて強い向上心も備えています。Jリーグに関わるすべての人が、成長したい、レベルアップしたいという意欲を持っています。これは本当に素晴らしいことです。そうした意欲こそが、Jリーグをここまでのリーグに育てたのだと私は思います。

現時点でのJリーグをヨーロッパや南米のリーグと比べるといかがでしょうか?

ストイコビッチ Jリーグはとてもクリーンでフェアなリーグです。これは世界に誇れるファンタスティックな側面だと思います。それはまるで山から流れ出る水のように、清く美しいものと言えるでしょう。それ自体が非常に大きな成功であり、だから私は日本という国とJリーグが大好きなのです。

スタジアムや周辺環境はいかがでしょうか?

ストイコビッチ どこを見ても素晴らしいですね。とりわけスタジアムへのアクセスはとてもよく整備されていて、ファンの皆さんが分かりやすくスタジアムに到着し、試合を中心としたスタジアムでの時間を楽しみ、安心して帰路に就くことができる。もちろんこれも、Jリーグという“オーガナイズ”の側面です。私はサッカーが世界で一番美しいスポーツだと思っています。もちろん他の多くの競技に最大限の敬意を払っていますが、それでもサッカーに勝るスポーツはないでしょう。その素晴らしいサッカーを、ファンの皆さんが十二分に楽しむことのできる充実した環境が整っていると思っています。

平均入場数という点でイングランドやドイツなどヨーロッパのトップリーグと比べていかがですか?

ストイコビッチ イングランドやドイツと比較するのはフェアではありません。彼らには長年の歴史に裏づけされた成熟したサッカー文化が存在します。一方、Jリーグはまだ20年。ドイツやイングランドに比べたら、まだ小学校を卒業したばかりの段階に過ぎません。Jリーグにも時間が必要です。次の20年で高校を卒業し、さらにその次の20年で大学を出て、という具合に少しずつ成長していけばいいのではないでしょうか。また、ヨーロッパと比較した場合は経済的な事情も大きく異なります。ヨーロッパではテレビ放映権を始めとする莫大なお金が動いていますし、中東やロシアから流入するプライベートマネーの力も働いていますからね。従って、現在の約1万7500人という平均入場者数は決して悲観すべき数字ではありませんよ。現実的に、プレミアリーグやブンデスリーガを比較対象とするのではなく、まずは平均2万人をターゲットとするべきでしょう。この目標を超えることができれば、Jリーグは世界のトップリーグの水準に達したと言えるはずです。Jリーグに関わるすべての人がJリーグがより魅力的なリーグになるよう努力をしていますし、多くのクラブが若年層との接点を積極的に作ったり、育成に注力したり、ホームタウン活動に力を入れたりすることで、非常に効率的にJリーグ全体のプロモーション活動を行っていると思いますから。

Jリーグのスタジアムには家族連れや女性のファンも多く見られます。これもリーグ全体としての特徴の一つだと思います。

ストイコビッチ そのとおりですね。素晴らしいことですよ。ファンの皆さんの振る舞いも素晴らしく、スタジアムはいつもピースフルな雰囲気に包まれています。私は日本のスタジアムの雰囲気が大好きです。それはリーグのイメージという点においても世界に誇れるポイントだと思います。

Jリーグのポジティブな側面をお話しいただいたことをうれしく思います。とはいえ、Jリーグには改善すべき点が多く残されているように感じるのですが、それについてはどのように思われますか?

ストイコビッチ もちろん、クラブ運営やプロモーション、少年少女の育成など、考えられる課題を挙げればキリがありません。しかしそれは、そうした課題に直面している我々が、力を合わせて取り組んでいくべきことです。先ほど、2万人の平均入場数を目標にすべきとお話ししましたが、それを達成するための努力を続けていけば、そう遠くないうちに目標を超えられるでしょう。しかし、そこで満足してはいけません。常に満足することなく努力を続け、Jリーグをさらに魅力あるリーグにする。それはJリーグに関わる人々の義務であり、責任であると私は思います。

近年は多くの日本人選手がヨーロッパのクラブでプレーしています。この状況についてはどのように見ていますか?

ストイコビッチ 20年前では考えられなかったことですよね。当時、日本人選手がマンチェスター・ユナイテッドやインテルでプレーする時代が来ると言ったら、周囲から冷ややかな視線を向けられたことでしょう。しかし、時代は変わりました。多くのヨーロッパのクラブが日本人選手に注目しています。その証拠に香川真司がマンチェスター・ユナイテッド、長友佑都がインテルでプレーしていますし、多くの選手がブンデスリーガでプレーしています。それは日本のサッカーにとって素晴らしいことです。それから、ヨーロッパでプレーしている選手は皆、日本、あるいはJリーグを代表する存在として責任感を持ってプレーしているように思います。それはある意味彼らに課せられた使命と言えるかもしれませんね。もちろん彼らはヨーロッパでプレーするに値するクオリティーを持った選手たちです。スポンサー獲得など商業的な側面を期待する移籍と揶揄されることもありますが、決してそうではなく、実力的にもヨーロッパで十分活躍できるレベルにあると断言できます。多くの選手が結果を残し、自分の価値をヨーロッパの舞台で証明しています。それが何より、日本サッカーとJリーグがこの20年間で大きく成長した証と言えるでしょう。

ファンの皆さんへ

ストイコビッチ

 私は日本のサッカーファンの皆さんのことが大好きです。まさにサッカーを愛する皆さんのおかげで、Jリーグがわずか20年という期間でここまで大きく成長したことは間違いありません。

 私からファンの皆さんにお伝えしたいのは、「スタジアムで会いましょう」ということ。

 先ほどお話ししたとおり、日本には各地に素晴らしいスタジアムと、観戦に適した環境があります。だからぜひ、一人でも多くのファンの方にスタジアムに足を運んでもらいたい。そして、そこで行われる素晴らしいサッカーを楽しんでいただきたい。愛するクラブをサポートし続け、愛するクラブのために声を張り、歌い続けてほしいと思います。そして、これからもスタジアムの素晴らしい雰囲気を作り、より一層、Jリーグを盛り上げていただきたいと思います。

 皆さんのそうした声が、選手たちのハイレベルなパフォーマンスを引き出し、試合のレベル、ひいてはJリーグ全体のレベルを押し上げることは間違いありません。ファンの皆さんあってこそのサッカーです。

 これからも共に、世界に誇れるJリーグと日本サッカーの未来を作り上げていきましょう。

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