FOLLOW US

“金鉱脈”となった名門下部組織の“落第生”たち

2013.04.09

[ワールドサッカーキング0418号掲載]
l9Hyi7LfBanVTbR1365384447_1365384468
文=ヘラルド・ロハス Text by Geraldo ROJAS 
翻訳=池田敏明 Translation by Toshiaki IKEDA 
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

ドイツで旋風を起こしたダニエル・カルバハルの活躍でスペイン2強のカンテラーノは新たな“金鉱脈”となった。名門クラブの狭き門をくぐれなかった“落第生”たちはこの夏に大挙して国外移籍という道を歩もうとしている。

にわかに注目される名門のカンテラーノ

 世界中のスター選手が集結するリーガ・エスパニョーラ。本来スペインは“輸入大国”だったが、最近は“輸出大国”としての側面も見せつつある。ダビド・シルバやフアン・マタなど、プレミアリーグで活躍するスペイン人プレーヤーの顔触れを見れば一目瞭然だ。他にもラウール・ゴンサレスやハビ・マルティネスが評価を高めたドイツ、多くのリーガ出身選手がプレーするポルトガル、資金力のあるロシアやトルコなど、スペイン人プレーヤーの“海外移住”は今後ますます加速するだろう。

 そんな中、今シーズンからレヴァークーゼンでプレーする1人の選手に注目が集まっている。レアル・マドリー・カスティージャから5年契約で移籍した右サイドバック、ダニエル・カルバハルだ。彼は10歳の頃からR・マドリーの下部組織でプレーし、カスティージャではキャプテンを務めたほどの有望株だったが、トップチーム昇格の夢はかなわずドイツに新天地を求めた。そしてレヴァークーゼンですぐさまレギュラーポジションをつかみ、ここまで23試合に出場して1ゴール5アシストと期待以上の成績を残している。

 これまでR・マドリーやバルセロナのカンテラーノたちはポテンシャルこそ評価されていたものの、トップリーグでの経験が乏しいため、即戦力としては評価されていなかった。しかし、カルバハルの活躍によって、今、欧州中のクラブがR・マドリーやバルセロナの下部組織に在籍する若手の評価を見直しつつある。

 このカルバハルに限らず、R・マドリーの下部組織は才能の宝庫であり、将来有望な若者がひしめいている。だが、トップチームはご存じのとおり世界各国のスター選手で構成され、カンテラーノが付け入る隙はほとんどない。今シーズン、晴れて昇格のチャンスをつかんだアルバロ・モラタもトップチームではほぼ出番がなく、放出の可能性が高いと見られている。モラタに対しては今のところ、アーセナルやバイエルン、ライバルのアトレティコ・マドリーなどが関心を示しているという。また、カスティージャ所属ながら、ロシアのA代表に名を連ねるデニス・チェリシェフについても、CSKAモスクワとゼニトが自国の逸材を呼び戻そうと激しい獲得競争を展開している。更に、今シーズン、セグンダA(2部リーグ)で16ゴールを挙げている19歳のヘセ・ロドリゲスも来シーズンのトップチーム昇格がかなわなければ新天地を求めることを示唆。早速、インテルが獲得に名乗りを上げている。

 彼らを獲得する側にとっては、将来性豊かでクオリティーの高い選手を、それほど高い金額を掛けずに手に入れることができるというメリットがある。一方、“生え抜き”を送り出すR・マドリー側は買い戻しオプションを付けることで、「移籍先で結果を残せばクラブに戻す」というメッセージを示しいる。つまり、トップリーグでのプレーを経験して成長を遂げることは、選手、移籍先、R・マドリーの三者すべてにメリットがあるのだ。

バルサの若き逸材が今夏に大量流出?

 同じような状況はバルセロナのカンテラーノたちにも当てはまる。下部組織重視の哲学を持ち、トップチームもカンテラーノ中心の陣容となっているが、それでも昇格を果たせる選手は年間数人足らず。チャビやアンドレス・イニエスタ、リオネル・メッシといった主力が強烈な存在感を放っていることもあり、実力が十分であってもトップチームに上がれず、外に活躍の場を求めざるを得ない選手が多数存在する。

 今シーズン終了後、その去就が最も注目されるのはBチーム所属のウイング、ジェラール・デウロフェウだろう。現行の契約は2014年6月までで、違約金は約10億円。バルサ側は契約更新の準備を進めているが、トップチームの同ポジションは飽和状態にあるため、トップ昇格を果たせる確証はない。この機に乗じて、マンチェスター・シティーやチェルシーが“強奪”を画策しているようだ。加えて、セルジ・ロベルト、セルジ・ゴメス、カルラス・プラナスといったU-21スペイン代表で主力を担うタレントも今夏は移籍という決断を迫られるだろう。

 更にバルサの場合、昨年10月にチキ・ベギリスタインがマンチェスター・CのSDに就任し、来シーズンからはペップ・グアルディオラがバイエルンの監督に就任するなど、クラブ外の“バルサ勢力”が強まっている。今後、彼らが古巣とのパイプを生かしてカンテラーノの獲得を目指す可能性があり、タレントの大量流出も考えられる。アーセナルにセスク・ファブレガスを“強奪”され、取り戻すのに8年の歳月と約44億円を費やした過去を繰り返さないためにも、レンタルや買い戻しオプション付きの移籍といった形態を駆使し、全員のメリットになる交渉をしていく必要があるだろう。

 R・マドリーとバルサというメガクラブでトップ昇格がかなわず、“落第生”と見られていた若手たちは、一転して新たな“金鉱脈”となった。今夏の移籍マーケットを占う上でも、スペイン2強のカンテラーノたちの動きから目が離せそうにない。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO