2012.08.07

【番外編】激戦を制した鹿島が得たモノと南米王者のプライド

文=池田敏明
写真=野口岳彦

 鹿島アントラーズとウニベルシダ・デ・チリ(チリ)が対戦したスルガ銀行チャンピオンシップ2012 IBARAKIは、予想していたとおり非常に内容のある試合となりました。攻撃性を出し合うスリリングなゲームで、お互いに良さを出せたと見ています。

 コパ・ブリヂストン・スダメリカーナ2011王者のウニベルシダ・デ・チリは、最終ラインからしっかりとボールをつなぎ、1タッチ2タッチでテンポ良くパスを回すサッカーを展開しました。サイド攻撃が彼らの特長ですが、この試合では“智将”ホルヘ・サンパオリ監督が鹿島を分析し、鹿島の攻撃的な右サイドを狙い、左サイドから攻撃を仕掛けてきました。

 ただ、鹿島が初対戦の相手ということもあって、序盤はやや苦しんだ印象があります。ビデラやチャルレス・アランギスのマークが浮いてしまい、守備面で誰が誰につくのかがはっきりせず、そこを鹿島にうまく突かれて18分にセットプレーから先制点を許してしまいます。

  先制点を奪われこそしましたが、試合に慣れてきたところからの試合巧者ぶりはさすがでした。鹿島がボランチでゲームをコントロールすることを察知すると、パスの出どころとなる最終ラインではなく、ボランチにボールが入った瞬間に連動した激しいプレスを仕掛けていきます。チームとしての仕掛けどころが分かってきたところからペースを握り、中央で潰して数的有利を作り出し、分厚い攻撃を展開していきました。

 鹿島はレナトがカウンターから抜け出し、相手のマークがサイドを気にした瞬間に左足を振り抜いて27分に追加点。個人技を生かしてリードを広げますが、ここで終わらないのが南米王者の意地なのでしょう。鹿島のレナトとドゥトラがサイドバックをカバーする守備をしていない点に気付き、サイドでうまく2対1のシーンを作って相手陣内に攻め込みます。40分にオウンゴールで1点を返したシーンは、完全に左サイドを崩してのゴールだったと言えます。このオウンゴールで息を吹き返すのではないかと感じました。

 鹿島は興梠と大迫がもう少し周りを生かすようにしたいところでした。相手がオフサイドトラップを仕掛けてきたことで、自分が裏のスペースへ飛び出すことを狙いすぎてしまったので、ウニベルシダ・デ・チリのDF陣にとってはやりやすかったのではないかと思います。

 後半、鹿島は運動量が落ちて攻撃が単発になり、守備的な戦いを強いられます。対するウニベルシダ・デ・チリは高い位置で奪って縦に仕掛ける攻撃が効果的でした。交代枠が6人だったこともあり、リードを許した早い時間に攻撃的な布陣を敷き、さらに持ち味を出してきます。ただ、鹿島はディフェンディングサード(相手にとってのアタッキングサード)でうまく対応し、失点しない対応ができていました。

 後半、ウニベルシダ・デ・チリがPKで同点に追いつき、試合はレギュレーションで延長戦を行わず、そのままPK戦へ。ここで6人ずつがミスなく決め合い、7人目を曽ヶ端準がセーブ。そして西大伍が右足で力強く蹴り込み、鹿島がタイトルを獲得し、カシマスタジアムには選手たちによる歓喜の輪ができていました。

 

  ちなみに、この試合は南米中で生中継されていたそうです。PKを外したフランシスコ・カストロは泣き崩れ、チームメートに抱えられながらピッチを後にしていました。試合中の球際の激しさも含めて、このタイトルに懸けていた南米王者のプライドを垣間見た気がします。ウニベルシダ・デ・チリは若い選手が多く、末恐ろしいチーム・今回はエースのアンジェロ・エンリケスがU−20チリ代表選出で不在でしたが、彼がいたらどんな結果になっていたか分かりません。今後も注目しておきたい素晴らしいクラブです。

 一方、鹿島にとっては海外クラブと対戦することで、Jリーグでは得ることのできない経験を積めたのではないでしょうか。もし可能であればですが、ホーム&アウェイで対戦しても面白いですね。今回、チリまで取材に行かせてもらいましたが、あの雰囲気の中で鹿島の選手たちがどんなプレーをするのか、そして何を得るのかも見てみたいと思いました。

 何はともあれ、僕の敵情視察=現地リポートとスカウティング=が少しでも鹿島のプラスになっていたらうれしいですね。現地でも鹿島の強さを存分にアピールしてきたので、まずは結果オーライといったところでしょうか。

 南米王者が本気で臨んでくるスルガ銀行チャンピオンシップ。今後もどんなチームが来日するのか楽しみでなりません。