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東洋大FW仙頭啓矢、京都橘高時代の“トラウマ”を克服したある試合とは

2016.11.02

中央大戦では2つのPKを成功させる [写真]=藤井圭(スポーツ東洋)

文=藤井圭(スポーツ東洋)

 サッカー少年が一度は憧れる全国高校サッカー選手権大会という舞台。第91回目の同大会決勝戦は2-2で延長を終え、PK戦までもつれた。その国立競技場のピッチに立った京都橘高校の仙頭啓矢は、1人目のキッカーを任される。大観衆が見守る寒空の下、右足から放たれたボールは、無情にも右ポストに直撃。ネットを揺らすことはできなかった。

「(外した瞬間)頭が真っ白になった。それ以外は何も覚えていない」

 その後は全員が成功し、 一人目の失敗が響いた京都橘高は、準優勝で大会を後にしたのである。責任を感じたエースは、人目をはばからず涙を流した。表彰式でも嗚咽を吐き続け、1人で立ち上がることもままならなかった。それでも京都橘高が選手権の決勝へ進んだのは、その年が初めての快挙だ。仙頭は5得点で大会得点王に輝き、チームを牽引。決勝でも得点を決めており、仙頭の活躍なしに決勝進出はありえなかった。「京都橘を選んでくれてありがとう」。当時の恩師、米澤一成監督からかけられた言葉が彼の傷を癒す唯一の特効薬だったのかもしれない。

 京都橘高躍進の象徴であった男は、その後に東洋大学への進学を選択する。しかし、大学時代の仙頭には“決勝での悪夢”が付きまとった。決勝で外したという外からのイメージとも戦うこととなる。あの時に体験した記憶は予想よりも大きく本人の心に残っていた。学年が上がり上級生になるにつれてPKを蹴る機会も増えていく。もちろん確実に決めることもあるが、外してしまうシーンも少なくはなかった。そんな仙頭がトラウマを克服したのが今季でのある試合だった。

 2016年6月4日、川口市青木町公園総合運動場で行われたリーグ戦の第10節。相手は昨年、最終節まで昇格を争った関東学院大学。この日は東洋大の集中応援日であり、観客席には多くの人が駆けつけた。その試合で仙頭は自らファウルを受け、PKのチャンスを得る。真ん中へ勢いよく蹴られたボールは、ネットを豪快に揺らして先制点となった。

「天然芝のグラウンドで、重要視していた試合だった。それで自分で蹴ることになって、あの時は思いっきり蹴って決めることができて、自分の中で何か吹っ切れるものがあった」。

 選手権の決勝に比べれば、重要度も注目度も高いとは言えない。それでも本人の中で、気持ちが晴れるものがあった。その試合の1週間前の第9節、青山学院大学戦でも仙頭はPKのチャンスを得たが、外してしまう。「これを外したらPKはダメだという意味で、逆に思い切って蹴れた」。関東学院大との試合後に蹴るときの心情をこう話していた。だからこそあの場で決めたという安心した気持ちと、確かにつかんだ自信が彼の過去の悪夢を振り払った。

 それから約1カ月後の天皇杯予選では中央大学にPK戦の末、勝利を挙げている。この試合で先制点となるゴール、さらに1人目のキッカーとしてPKを2つ成功させる。その試合後に、東洋大の10番は胸を張って「PKは関東学院大戦で克服した」と話した。「苦手といってもどこかで当たる壁ですし、克服しなければいけない」。すでに後期リーグでも明治学院大学戦、東京国際大学戦とそれぞれPKで得点を決めている。高校時代の最後に背負ってしまったトラウマは、大学サッカーという新たな舞台で、ひたむきにサッカーと向き合ったからこそ、克服できたものなのだ。

 大学時代に成長したものはPKだけではない。3年時には創部初となる総理大臣杯に出場し、大学でも全国の舞台を経験した。「関西から来ているので関西のチームには負けたくない」。その思いを胸に大阪体育大学を撃破するなど快進撃を見せた。仙頭は4年間で一番変わったことに「考えてサッカーをやる」部分を挙げる。

「自分はボールを触らないとリズムを作れないが、高校時代とか大学1年でやりすぎてる部分があったので、そこをコントロールできるようになった」

 確かに今の仙頭は、前で受けて攻撃の起点となるだけの選手ではない。低い位置まで下がってボールを供給したり、空いたスペースへ飛び出したりと、ボールを持っていない場面での動き出しも目立っている。京都サンガF.C.へ練習参加したときには「プロになると外国人選手も入ってくる。そういう選手を活かしてほしい」と言葉をかけられた。大卒からプロへ入る選手は、1年目からの活躍が期待される。世界を見ても22歳という年齢は、すでに代表のレギュラーに定着してもおかしくない。

「大卒ということは代表に入る年齢でもある。そこを目指して高い目標を持ちたい」

 仙頭が見据える先は、京都での活躍、そして日の丸を背負う自らの姿だ。そのためにも、東洋大で、有終の美を飾ってほしい。彼がボールを持つと“仙頭ならきっと何とかしてくれる”と期待感を持たせるようなプレーを披露する。「自分たちがやるべきことはあと3試合全勝」。高校、大学と紆余曲折を経て、プロという夢を叶えた。残りの学生生活、昇格へ向けて、最後まで仙頭から目が離せない。

試合レポートや選手のプロフィールはスポーツ東洋のホームページ(http://sports-toyo.com/news/detail/id/5284)をご覧ください!

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