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東洋大の古川監督が語る育成の現在地…Jリーガー輩出の要因は「少人数指導」

2015.07.22

インタビュー・写真=平柳麻衣

 東洋大学サッカー部を率いて4シーズン。チームを1部で戦える集団へと変貌させ、創部初となる全国大会の出場権をもたらした古川毅監督に聞いた、育成の「今」とは――。

人生の分岐点に立たされた時に、選択肢の準備を

――大学生を指導するにあたって、特有の難しさは感じますか?
古川 やはり年齢的にはもう大人の入り口です。これから社会に出た時に、自分で決断したり、責任を負うことが求められていくので、その前段階である大学生のうちにいろいろと自分で考えて、自分自身をマネジメントしていく、時間をマネジメントしていくことを身につけてほしいなと。自主練習も、無理してやらなくてもいいんです。ただ、自分がなりたい将来像、選手像に近づくためには、すべてやらされるのではなくて、自分からそこに向かってアプローチしていくことで選手自身が成長しますし、サッカーだけでなく人間的にも成長していくと思っています。

――学生の指導においては、人間形成の部分も非常に大事だと言われています。
古川 つい先日も選手たちに話したのですが、才能や感覚的なことだけでプロになろうとしてるのであれば、もうその時点で大学に進んだりせず、高校卒業後からプロになってると。大学に通っているということはやはり何か自分で考えたり、いい習慣を作ったりなど意識を持ってやらなければ、彼らに追いつくことも追い越すこともできないんじゃないかと話しました。今の4年生は、ただ何となく練習に出てきて感覚的にプレーして帰るのではなく、何を意識してトレーニングに臨んで、何を意識してポジショニングを取って、何を意識してタイミングを図って、というところを常に練習から意識して取り組むことができていますし、それが今シーズンの結果につながっていると思います。

――大学生の指導というと、ピッチ外の部分に対してどこまで監督が介入するのか難しいところだと思います。
古川 例えば、就活に関しては私よりも大学の方が力を入れているのでお任せしていますが、サッカーでの進路に関しては、基本的には協力できる範囲内でサポートしたいと思っています。ただ、こちらからいろいろと売りこむことも可能ではあるのですが、最終的には本人の実力がなければ、仮にプロに入ったとしても1年、2年で終わってしまうと思います。私としてはクラブから選手に興味を持っていただいたり、練習参加の打診があった時には包み隠さず選手に伝えるようにして、選手本人の方から希望があった時にはクラブにコンタクトを取る、といった姿勢でいます。

――サッカー選手としての就活と一般企業への就活の両立に関してはどのように指導しているのですか? 特に2013年度卒業生の石川俊輝選手(湘南ベルマーレ)や藤井悠太選手(大宮アルディージャ)などはプロ内定の時期が早かったと思います。
古川 彼らの場合は早いタイミングで話が決まりつつあったので、一般企業への就活はほとんどしてないと思います。ただ、例を挙げれば、ギラヴァンツ北九州に行った市川恵多の場合は、企業から内定をもらった上でサッカーに集中して取り組んだ結果、最後の最後にオファーが舞いこんだ形でした。私が思うに、彼のように選択肢があるのは大事なことだと思います。卒業生の中には「逃げ場を作りたくない」と言って就活を全然しないで、年が明けても進路が決まらず、「やっぱり就活しておけば良かった」と後悔していた選手も実際にいました。彼らも最終的にチームが決まったので良かったのですが、やはり就活をすることで学べることや成長できることもありますし、人生の中で分岐点に立たされた時に、いくつかの選択肢の中から選べる状況の方が次のステップに進みやすいと思うので、選択肢は削らずに準備しておいてほしいですね。

少人数指導は強豪校にない東洋大のメリット


写真=濱野陽子

――そういったプロの道に進んだOB選手と現役の学生たちが接する機会は設けているのですか?
古川 こちらからは設けていないのですが、自分たちの試合や練習がない時には、後輩たちのリーグ戦を見に来てくれています。年末にはOBの選手たちも練習に混ざることもありますし、その時に食事に連れていってくれたり、自分の経験などを話してくれているようです。

――近年、毎年数名ずつJリーガーを輩出していることは、有望な高校生が入学を希望してくるきっかけにもなるのではないでしょうか?
古川 はい。少なからずそれはあると思います。もちろんチームとしての成果も上げていかなくてはなりませんが。

――スカウティングや選手の獲得方法について教えてください。
古川 こちらもシーズンを戦っている中なのでなかなか手広くというわけにはいかないのですが、大学の公式戦と重ならない範囲で週末のプレミアリーグやプリンスリーグ、クラブユースの全国大会、あと近場で開催されている時にはインターハイも見に行きます。 その時に「この選手はちょっと質が違うな」と感じた選手には、もうそのタイミングで監督さんに「ぜひ欲しい」という話はさせてもらっています。あとはセレクションの中で目を引いた選手に来てもらうこともあります。

――ご自身で足を運ぶことが多いのですね。
古川 そうですね。他の大学の中には、スカウト専任のスタッフを置いている大学もいるそうですが、うちはコーチの数も限られているので。場合によってはコーチにスカウティングに行ってもらって情報を聞くこともありますが、最終決断は私がするので、一度自分の目で見たいなと。あとは、極力間違いのないようにとは思っています。良かれと思って来てもらっても、4年間出場機会を得られずに卒業してしまうのは寂しいですし、特に遠方から声をかけて呼ぶ選手に関しては、せっかく来てもらって後悔してほしくないので。

――ちなみに、第91回全国高校サッカー選手権大会で活躍した仙頭啓矢選手が入学に至った経緯は?
古川 東洋大のスポーツ推薦は8月いっぱいである程度の選手選定をしなくてはいけないのですが、仙頭もその最終選考に来てもらいました。 

――選手権の全国大会はスカウティング対象ではないということですか?
古川 選手権は後追いのような形で、入ってくれる選手が即戦力になるのか、それとも最初はBチームでスタートさせるべきなのかという判断の基準になるので、仙頭の時も3試合くらい京都橘の試合を見に行きました。もちろん次の年のスカウトという目的もあります。ただ、選手のスカウティングは非常に難しく、どこの大学も苦労していると思います。まず良いなと思った選手はプロにいくことが多いので、大学サッカーはプロにギリギリ届かなかった選手の取り合いになります。その中でやはり関東1部の強豪校から優先的という部分があったりするので。

――では、1部の強豪校にはない東洋大の魅力とは?
古川 チームで共有する部分や、意識の部分は挙げられると思います。人数的にも一学年15人以内という基準を設けて活動しているので、全員が全員の顔と名前を覚えていますし、指導のところもまだまだ行き届かない部分もあると思いますが、最低限のことはしてあげられているのかなと。あとは、少人数だからこそ学年隔てなく仲が良く、そこは東洋大のメリットの一つだと思います。

――最後に、プロ生活を経験してきた古川監督から、今プロを目指している学生たちへのメッセージをお願いします。
古川 私たちの年代の時のプロと今の世代のプロは、位置づけが少し異なると言いますか……昔だったらある程度のレベルならばプロに入りこめたところが、今の選手たちは小学生の頃からセレクションでふるいにかけられて、生き残っていかなければならないので、大変だと思います。Jリーグも創設から20年以上が経って、全国各地に点在するJクラブの育成機関も整備され、開幕当初のような「選手不足・指導者不足」という状況ではなくなりました。その中で特別な存在でなくてはなりません。今はJ3ができたりして、Jリーガーになれる環境はあると思うのですが、プロとしての待遇は難しい状況だと思っています。また、サッカーだけを追いかけて大学に進んだり、プロになることがゴール地点になっている選手が見受けられることも危惧しています。夢を追いかけることは大事ですが、現実逃避ではいけません。何を学びたいかまで考えて大学を選び、就活も行う。そしてプロになるからには10年近くはプレーして、引退した時に少しでも経済的に余力を持った上でセカンドキャリアに進んでいけるような実力と人間力を身につけた上でチャレンジしてほしい。本当にサッカーで生活をしていきたいと思っているのであれば、覚悟を決めて、高いレベルまでたどり着いてほしい思っています。

By 平柳麻衣

静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。

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