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玉野光南MF新地猛、一度はサッカーから離れた男がチームを全国出場に導く

2015.10.31

文・写真=安藤隆人

 一度は離れたサッカーから戻ってきた男の『最大の武器』が、チームにあまりにもドラマティックな展開をもたらした。

 3年生MF新地猛は0-1で迎えた56分にMF桑田大樹に代わって投入されると、左のワイドに入った。思いきりの良い飛び出しと、ファーサイドまで届くロングスローで攻撃を活性化させると、後半アディショナルタイム。右サイドでスローインを得ると、彼の強肩が火を噴いた。ライナーで届くボールを、ゴール前で作陽高校DFが必死でクリア。このこぼれに反応したMF塩田晃大がダイレクトでクロスを送ると、これをゴール前で待ち構えたFW片山知紀が、これもダイレクトでジャンピングボレーシュート。これがゴール左隅に突き刺さり、玉野光南高校が起死回生の同点弾を奪った。そしてドラマはこれだけでは終らなかった。

 延長後半アディショナルタイムにGK栗尾純平のゴールキックから、ヘッドで繋つないだボールを、新地がさらにヘディングでバイタルエリアのエースFW土居晃貴につなぐ。これを土居はDFを背負いながら胸トラップをすると、右足で浮かせてDFの頭上を越え、反転からノーバウンドで右足ループシュート。鮮やかな弧を描いたボールは、ゴール左隅に吸いこまれた。

 この直後、タイムアップの時を迎え、玉野光南が劇的な逆転勝利で、浦和レッズ入団内定のMF伊藤涼太郎を擁する作陽を下し、2年ぶり8回目の第94回全国高校サッカー選手権出場を決めた。
岡山において、名門・作陽と双璧を成す存在なのが玉野光南だ。その玉野光南に憧れて、門を叩いてくる選手達は多い。その中で一人、異質の存在が新地だった。

「小学校でサッカーを始めて、僕が住む玉野市にある玉野光南のサッカー部に、姉の友達が行って、選手権などに出ていたんです。それを見て、『光南でサッカーをしたい』と思っていたんです。ですが、中1で一回サッカーを辞めたんです」

 小学校時代からスピードとロングスローが武器の彼は、中学時代は陸上に明け暮れた。中学時代は地元のクラブチームに居たが、「サッカーのためになると思って」と、入学と同時に通っていた中学の陸上部にも入部した。しかし、中学1年生の秋からサッカーのために始めた陸上一本のみとなってしまった。

「ハードルと高飛び、リレーをやっていました。でも高校進学のときに、一度は玉野光南に入学したら、陸上をやろうと思ったけど、やっぱりサッカーがやりたくて、サッカー部に入りました」

 当然現実は厳しく、当初は県内の能力の高い選手がくるチームにおいて、大きなブランクがある彼は、1年生主体のチームのメンバーに入ることすら出来なかった。しかし、「最初は周りについていけなかった。でも、技術では敵わないけど、武器であるロングスローとスピード、左足のキックだけは絶対に負けたくないと思った」と、彼は劣等感に屈すること無く、自分のストロングポイントを徹底して磨いた。さらに「今の自分があるのは、乙倉健二監督が自分の特徴を理解してくれて、それをチームとして活かしてくれた」と新地が語ったように、乙倉健二監督は彼のストロングポイントをチームのストロングポイントとすべく、彼自身の奮起を促し、チーム全体に共通理解を深めた。

 2年生から頭角を現すと、3年時も磨き上げた強烈な武器を持った切り札的な存在に成長。「あいつを入れたら、もう守備は免除。その分周りが彼をケアして、どんどん良さを出させるようにしている」(乙倉監督)と、深まった共通理解と共に、彼の存在感は増した。そして、大一番でその輝きを放った。

「乙倉監督、仲間のために、もっと武器を磨いて、全国で発揮したい」と新地は語った。

 選手権まであと2ヶ月。更なる大舞台で、より怖さを増した『切り札』の存在が、見られるかもしれない。

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