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FC東京U-18監督 佐藤一樹インタビュー「自立した選手に」

2015.07.05

インタビュー=安田勇斗 写真=兼子愼一郎

 昨年、監督初経験ながらFC東京U-18を2011年以来となるプレミアリーグEAST昇格に導いた佐藤一樹。彼はプロを目指す選手たちの育成、指導を図る上でどういった要素を重視しているのか。気鋭の指揮官がユース年代の育成論を語ってくれた。

何が足りないのかを考え、自主的に動ける選手であってほしい

――早速ですが、FC東京の育成方針を教えてください。
佐藤 やはりトップチームで活躍できる選手を数多く送り出すことです。

――入ってくる選手によっても変わると思うのですが、どのような選手の育成やチーム作りを目指しているのですか。
佐藤 僕自身の選手経験も踏まえ、自立した選手に育ってもらいたいなと。周りの指示を待つのではなく、自分に何が足りないのかを考え、自主的に動ける選手であってほしいと思います。もちろん私生活においても自分を律して、ピッチ上で最大限のパフォーマンスを示すと。そういう個の集団になってもらいたいですね。

――何か具体的に取り組んでいることはありますか。
佐藤 今の子供たちは、ある程度自分で考えることができるので、僕ら指導者は「こういう選択肢もあったんじゃないのか」とヒントを掲示しつつ選手のプライドを刺激してあげて、選手自身に火をつけるという作業にエネルギーを注いでいます。一昔前の師弟関係のようにペナルティーを設けて選手を動かすのではありません。選手自らが自身を奮い立たせて、前向きに練習に取り組んでいく責任がFC東京U-18にはあります。やはり下のカテゴリーから選び抜かれ、トップチームを目指している個、そして集団ですからね。そういう自覚を持たせるためにも、トップの選手たちのプレーを間近で見られるのはとても良い環境だと思います。

――そのような指導スタイルは、いつ頃から意識的に取り組んでいるのですか。
佐藤 指導者になりたての頃は、チームや土地柄、選手の資質などに応じて指導やアプローチの方法を変えなければいけないと思い、いろいろと勉強しました。だけど、知識が増えてくると、伝えることばかりに一生懸命になってしまい、自分だけが満足していた。それで選手は変化しているのかというと、さほど変化していなくて。そして指導がうまくいかないと、今度は力強く伝えるようになってしまいました。強く伝えることで変わる選手もいるけれど、本当に伸びる選手というのは、受け入れる姿勢が整っていれば強く伝えなくても納得するんですよね。なぜこのプレーが必要なのか、なぜこう考えたほうがいいのか。そういったことをいろんなトーンで伝えてあげることが大事だと。

――キャリアを重ねていくうちに変わっていったのですね。
佐藤 だから、今の指導では、伝えたい知識が100あるとしたら、そのヒントとなる10を選手に与えます。すると、選手が気づいて自分で変化していくので、選手の中に残りやすい。それは僕も学生時代に経験しているのですが、前橋商業高校時代は厳しく、筑波大学時代は自由が多い環境でした。その大学時代をとおして、自分で考えることの大切さを学び、自分自身が変化できたからこそ、今でもサッカー界に携われているのかなと思っています。ただ、メンタル面が鍛えられ、どんな状況でもブレない強さが身についたのは、高校時代の厳しさのおかげ。だから僕はその両方をミックスして選手たちに伝えなければいけないなとも思っています。自立を促すばかりでなく、時には理不尽なものも与えていくと。そのためには信頼関係が重要になるので、日頃から積極的に選手とコミュニケーションを取るようにしています。

――ユース年代はサッカーだけでなく、人間形成の指導も重要だとよく言われます。
佐藤 今のFC東京U-18は選手それぞれが違う学校に通い、家庭環境も全く違います。他のクラブのように全員同じ学校で、全寮制で管理することにもメリットはありますが、FC東京U-18の選手たちは自分自身で誘惑などに打ち勝って練習に参加し、3時間という限られた時間の中でいかに力を発揮できるかという部分で、プロに近い感覚を経験できていると思います。プレーとオフ・ザ・ピッチというのは、全くかけ離れてるものではないんですよね。学校生活やあいさつ、ロッカーの整理整頓も、すべてがサッカーにつながっています。ある高校の指導者が「選手権で勝てる年の選手は学力も高い」と言っていました。それが絶対かどうかはわからないですが、サッカー以外も大事にする人というのは、集中していろんなことを頑張れる証だと思うので、一理あるのかなと。選手たちには「学校生活や授業を疎かにしていたら絶対どこかでボロが出る。そんな甘い世界じゃない。サッカーを取って一人の人間として見られた時、何が残るんだ?」といった話もしています。

――話は変わりますが、2012年にコーチとしてFC東京に来た経緯を教えてください。
佐藤 もともとはサンフレッチェ広島ユースでコーチを務めていました。現役時代から家族ぐるみで付き合いがあった森山佳郎さん(現U-15日本代表監督)に、引退後すぐに誘っていただいて。3年間コーチを務め、その後は日本サッカー協会のナショナルトレセンコーチに就任し、中国地方5県のチーフをやらせていただきながら代表にも携わりました。その間にJFA公認B級、S級コーチライセンスを取得し、もう一回現場でやりたいという思いが強くなってきた頃に、FC東京から話をいただきました。広島ユースとFC東京U-18といえばライバルクラブ。どんなチームなのか興味がありましたし、僕は群馬県出身で同じ関東圏のFC東京というクラブ、育成にすごく可能性と魅力を感じていたので、ぜひそこで成長したいと思い、環境を変えることを決めました。

――そして監督就任1年目の昨シーズンは、第38回日本クラブユースサッカー選手権 (U-18)大会で準優勝。高円宮杯U-18サッカーリーグ2014プレミアリーグ参入戦でも勝ち抜くことができ、11年以来のプレミアリーグEAST復帰という成績を残しました。手応えはありましたか。
佐藤 昨年の3年生は1、2年の時にまったく結果を残せていなかった代だったので、目標達成への意欲や向上心がありました。僕もそこに乗っかる形で、ブレそうになったら軌道修正するという作業を。出ている選手だけではなく、チーム全体として勝利への執念を持った集団にするため、和や一体感を大事にしました。彼らは1年生の頃から僕が見てきた選手たちだったので、個々の特徴も理解していましたし、信頼関係も築けていたと思います。もともと選手たちに力があることは知っていたので、戦術や起用法を含め、彼らの力を引き出すことができたのかなと。

今年はチャンピオンシップ、クラブユース、Jユースカップの3冠獲得が目標


――今年のチームは、ここまでプレミアリーグを戦ってみていかがですか。
佐藤 いい時と悪い時の波が見受けられますが、技術や伸びしろを考えた場合、もしかしたら昨年のチームを上回るポテンシャルを秘めているとも感じています。あとは、勝利への執念、球際の激しさ、ハードワークという昨年から積み上げてきたものを当たり前のようにピッチで表現できるか。結局、勝敗を左右するのはサッカーのうまさよりも、メンタルの問題だと思っていますからね。そのことは今後も口を酸っぱくして伝え続けていくつもりです。リーグ戦をはじめとする様々な大会を通じて、選手自身がメンタル面で成熟してくれれば、おのずと結果がついてくるはずです。

――FC東京はアカデミーからトップ昇格している選手がたくさんいますが、トップチームとの連携はどのように取っているのでしょうか。
佐藤 強化部が必ずU-18の試合を見に来てくれるので、試合後に選手の特徴や伸びしろについて話し合っています。そのやり取りの中で、トップチームのメンバーが足りない時にはトップの意向に沿う選手を練習に参加させたりしています。

――最近は武藤嘉紀選手や権田修一選手といったアカデミー出身選手の話題性が高まっているので、アカデミー自体も注目を集めていると思うのですが。
佐藤 U-18の試合だけでもサポーターの数が多いですし、SNSなどでも頻繁に情報交換されたりしています。また、クラブとしても広報がU-18の試合に帯同してホームページ上で試合内容を発信しているので、自分たちの活動が見られていると実感できます。そういう意味では選手もやりがいを感じているはずですし、僕も含めて身が引き締まりますね。

――では、今後の目標をお願いします。
佐藤 毎年シーズンの目標は選手たちが立てるのですが、昨年はプレミア昇格と日本一でした。プレミア昇格は達成しましたが、クラブユースは準優勝、Jリーグユース選手権は3位。なので、今年はチャンピオンシップ、クラブユース、Jユースカップでの3冠獲得を目標に掲げていて、僕もその目標に一緒に向かっていきたいと思っています。

――最後に、ご自身の夢を。
佐藤 僕個人の願いとしては、FC東京のアカデミーで育った選手には、もちろんトップで活躍してほしいという気持ちがありますが、さらにその先、日本を背負って世界で活躍できる選手になってもらいたい。選手にはもっと大きな夢を抱いて、日々の練習に励んでほしいですね。今の(高校)3年生はちょうど東京オリンピックを狙える世代。本当に恵まれている年代だと思いますから、これからも彼らのやる気を高めていきたいと思います。そういう世界の舞台を経験し、ここから頻繁にトップへ、世界へ羽ばたいてくれる選手が育ってくれば、それがチームの価値、クラブの価値にもつながってくるはずです。武藤のように海外クラブからも注目を浴びる選手が頻繁に出てくるようなチームにしたい。そして僕自身も願わくばトップの監督として、できるだけ多くのU-18の教え子たちとともにタイトルを目指して戦うことができれば最高ですね。

佐藤 一樹(さとう・かずき)
1974年6月27日生まれ、群馬県出身。
現役時代は横浜FMや横浜FCなどでプレー。その後は広島ユースなどのコーチを経て、12年にFC東京U-18のコーチに就任。同チームの監督に就いた14年には日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会で準優勝、プレミアリーグ参入戦でプレミアリーグEASTへの参加資格を勝ち取った。


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