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前橋育英の“ダブルリーダー”大塚諒&長澤昂輝 初制度がもたらした成果

2017.01.08

ボランチでコンビを組む前橋育英の長澤(左)と大塚 [写真]=兼子愼一郎

 最も短い夏に終わったチームが、最も長い冬を過ごしている。昨年のインターハイで県予選初戦敗退を喫した前橋育英は、リベンジを誓って臨んだ第95回全国高校サッカー選手権大会で決勝進出を果たした。

 主力に2年生が多い現在のチームを支えているのは、ボランチを務める3年生の大塚諒と長澤昂輝だ。今季から中盤でコンビを組む機会が増えた二人は、抜群の信頼関係で攻守において効果的なプレーを見せている。

「あまり声を掛けなくても目と感覚で分かり合えている。僕が前に顔を出す時間もあれば、その逆もある。今大会に入っても1試合1試合、関係は良くなっている」(長澤)

 今季の前橋育英は山田耕介監督の判断により、初めてキャプテンと部長を別々の選手が務める「ダブルリーダー制」が採用された。「スタッフから見て、152人を束ねる強烈なキャプテンシーを持った選手がいなかったんだと思う」(長澤)という中、選手たちの投票により大塚がキャプテンに、監督の指名で長澤が部長に決まった。

 大塚は、選手権で同校史上最高成績の準優勝に終わった2年前のようなチーム作りを目指した。当時は鈴木徳真(現筑波大)がキャプテンを務め、渡辺凌磨(現インゴルシュタット)ら個性の強い選手がそろっていた。

「徳真さんは声を出せるし、プレーでも周りを引っ張ることができる人で、当時のチームはすごくまとまりがあった。プレースタイルでも競り合いの強さやセカンドボールへの反応など良いものをたくさん持っていて、徳真さんに憧れていた」(大塚)

 2年時には同学年で数少ないレギュラー選手としてプレーし、「3年生ばかりの中でプレーして、ものすごく言いづらい部分があった」という経験をしていた大塚は、「今年はそういう上下関係をなくさなければいけない」と考えた。しかし、最初からうまくはいかなかった。

「最初はなかなか周りに強く言えなかった。勇気がなかったし、甘かったと思う」(大塚)

「学年」という明確な上下関係がある組織を束ねるのは簡単にはいかない。当初はトップチームに入った2年生の中に「浮ついた雰囲気もあった」(大塚)という。また、「諒は優しいから、強く言えなかったと思う」(長澤)という性格上の要因もあった。

 しかし、大きな転機が訪れた。6月に行われたインターハイの県予選で初戦敗退。「ここで負けたことで、僕と諒はキツいことも話し合えるようになった」(長澤)。二人の中にリーダーとしての強い自覚が芽生えた。

「チームが変わるためには、言うしかなかった。陰で反発している声も耳にしたことはあったけど、気にしていたらキャプテンは務まらない。ピッチの中に入ったら学年は関係ないので、2年生も意見を言うようにと強く伝えた」(大塚)

 夏には全部員で数日間かけて異例の大ミーティングを実施。サッカー面は大塚、私生活面は長澤が中心となって、チームの目指す方向性を決めた。「自主練の量を増やしたり、運動直後におにぎりを食べたり、寮生活を見直したり」(大塚)と、細かな課題を一つひとつクリアしていくうちに、チーム全体が成長。また、サッカーにおいても基本に立ち返って球際やコンビネーションを徹底的に磨いたことで、結果が伴うようになった。

「強いキャプテンシーを持った選手がいなかったから」。キャプテンとしての「力量不足」とも取れるダブルリーダー制の採用について、大塚は今となってこう語る。

「逆に部長がいたことで、『部長よりももっとやらなきゃ』というライバル心を持ってやることができた。昂輝はずっと切磋琢磨してやってきたライバルでもあるし、お互いの気持ちを分かっているパートナーでもある。だから、僕にとっては良い制度だった」

 二人だからこそ、乗り越えられた大きな試練。苦労の先に待っていたのは、どのチームよりも長い冬だった。全国でたった2校だけがたどり着く、選手権決勝の舞台。9日に行われる青森山田戦は、前橋育英の一員として、大塚と長澤がコンビを組んでプレーできる最後の試合だ。

「諒と一緒に出るのも、このチームでやるのも次が最後。良いコンビだったと思えるように、悔いがないようにしたいし、良い結果を出したい」(長澤)

 泣いても笑ってもあと1試合。ピッチ内外でチームを牽引し、互いに支え合ってきた二人が、前橋育英の新たな歴史を作る。

文=平柳麻衣

By 平柳麻衣

静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。

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