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「褒めない」監督が流した2度の涙 佐野日大が選手権で手にした、勝利よりも大事な物

2017.01.08

佐野日大はOBの海老沼監督が率いる [写真]=鷹羽康博

取材・文=森田将義(提供:ストライカーデラックス編集部)

 立ち上がりから両者、素早い切り替えを披露し、拮抗した展開が続いたが、前半30分に角田涼太朗が左前方にフィードを展開。ペナルティーエリア左に飛び出した飯島陸のクロスをゴール前の高沢颯がダイレクトで合わせて、前橋育英が先制した。後半に入ってからは運動量が落ちた前橋育英のスキを突いて、佐野日大がカウンターから好機を演出。後半14分に長崎達也が決定機を迎えたが、DFに阻まれるなど同点弾が奪えず、前橋育英が1-0で逃げ切り、決勝進出をつかんだ。

 チーム最高成績となるベスト4進出を果たすなど躍進を果たした佐野日大。大会で海老沼秀樹監督が流した2度の涙からは、白星を積み上げること以上の喜びが感じられた。和歌山北との1回戦を1-0で制すると、2回戦では米子北戦と対戦。「10回やって1回勝てるかどうかという相手」(海老沼監督)だったが、前半を無失点で終えると、後半22分にオウンゴールで先制。終盤にはパワープレーを受けたが、気持ちのこもった守りで逃げ切り勢いに乗ると、以降も「ひとりひとりの質はトップレベルより劣るかもしれないけど、お互いにカバーし合ったり、みんなで汗をかく姿勢が少しずつ良くなっている」(海老沼監督)と成長を続けた。

 この日の準決勝では全国屈指の強豪、前橋育英と対戦。先制点を許したが、後半は粘り強い守りと鋭いカウンターを披露し、敗れはしたものの、前橋育英に最後までプレッシャーをかけ続けた。

 今年の3年生は、OBである海老沼監督とともに佐野日大の門をたたいた世代。初年度はコーチを務めていたため選手と接する時間も長く、想い入れは強い。入学時は1年生大会で優勝を果たし順調なスタートを切ったものの、海老沼監督が指揮官となった昨季は「少しワガママな部分というか、自分が好きなプレーしかしない部分がこれまではあった」(海老沼監督)という課題が露呈し、メインターゲットであった選手権出場を果たせず。今季も思うような結果を残せずにいた。

 転機となったのは、インターハイ予選だ。準決勝で矢板中央に完敗したのを機に、これまでの4バックから5バックへと変更。「うちの子たちは守るのを嫌がる子たち」(海老沼監督)ながらも、「守ることを楽しめ」などと声をかけながら、チームのため仲間のために耐えて勝つ姿勢を求めた。選手同士の間では敗戦後、「俺たち最弱世代かも」という会話もあったというが、「このままではダメだ」と奮起し、指揮官が求めるサッカーを受け入れ始めたこともチーム力を押し上げる一因となった。

 選手権予選を勝ち進むにつれ、たくましさを増した選手は全国に進むと、さらに成長。2回戦の試合後には「自分たちの前では絶対に涙を見せない」(中村一貴)という海老沼監督が、「勝つことよりも選手の成長が感じられたことが私としてはいちばんうれしい。試合に出ている子だけでなく出ていない子たち、登録の30人から外れた子、ベンチ入りから外れた子がチームのために一生懸命やってくれた。人間的な成長を感じられたことが私にとっての幸せ」と涙を流した。この日も試合後の記者会見で「私はあまり褒めたことがない先生なのですが、厳しいことやツラいことをしっかり乗り越え、私を信じて乗り越えてくれたことが結果につながった。こういう舞台に連れてきてくれた選手にありがとうを伝えたい」と再び涙。今大会での佐野日大は、4度の歓喜とともに試合ごとに選手のたくましさを増す姿が印象的だった。

(試合後コメント)

前橋育英
山田耕介監督
今日のゲームは、前半の立ち上がりから予想していたとおりの展開が続きました。ウチがポゼッションで主導権を握りましたが、相手にブロックを敷かれたためスペースがなく苦しみました。ミスパスを狙ってくるから選手に焦れるなと伝えていましたが、ただどこかでアクションを仕掛けないとゴールは奪えず、いろんな策を講じましたが、2点目が奪えませんでした。後半は疲れてしまい、ラスト20分は完全に相手のほうが上でした。

3番 角田涼太朗
ここまで5試合無失点。これまで決められてもおかしくないシュートもありましたが、みんなで体を張って守ることができたのが要因です。今まで1点も与えていないことは自信になりますし、次の試合もゴールを与えるつもりはありません。青森山田との決勝でも、切り替えを速くし、自分たちがやられなければ負けませんし、チャンスを少しでも多く作ることができれば勝てると思います。

佐野日大
海老沼秀樹監督
最後はこういう結果となり、泣き顔も出てしまいましたが、選手はここまでよく頑張ってくれました。前橋育英さんはお手本にしたいチーム。私も現役時代に対戦しましたし、駆け出しの指導者のころからいろいろとお世話になりました。これまでも強さを肌で実感してきましたが、素晴らしい舞台で対戦し、いろいろ難しい状況もありましたが、こういう経験をさせてもらい感謝しています。

7番 野澤陸
監督には我慢すれば絶対にチャンスが来ると言われていたので、辛抱強く我慢を続けてきました。最後にゴールを決めきれず悔しいです。相手は予測がすごく上手だったので、前半から相手の動きを見て逆を取ろうと頭を使ってプレーしました。負けている時間にチームメートが応援してくれる姿を見たから頑張れたし、最後まで走り切ることができました。

ストライカーDX高校サッカー特集ページ

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