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バルサに学び、日本が世界に挑むために必要なものとは?/U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016

2016.08.30

バルセロナvs大宮の決勝戦の様子 [写真]=本田好伸

 バルセロナの2年ぶり3回目の優勝で幕を閉じた『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016』。大会の最大の意義は、世界的なビッククラブの育成組織で凌ぎを削る選手と日本の育成年代の選手が、文字通り真剣勝負できるところにある。

 日本の選手が、日頃のリーグ戦や国内大会では味わえないレベルを体感し、そこで何を感じ、どのように将来につなげていくのかを考える上で、指導者にとっても願ってもない舞台だろう。今大会に参加した多くのチームが、これ以上ない大きな収穫を手にしたに違いない。それは、試合に敗れ、人目もはばからずに大泣きした多くの選手を見ていれば明らかだった。優勝にあと一歩まで迫った大宮アルディージャジュニアの選手たちは、表彰式が始まっても涙が止まらなかった。彼らはきっと、この悔しさを忘れることはないだろう。では今大会で、日本の選手たちが感じたであろう“世界との違い”とは何だったのか——。

■最後まで打ち破れなかった個人技術の壁

 一つは、個人技術の高さ。今大会でバルセロナが喫した失点は7試合で「2」。多くのチームが決定機を作ったシーンもあったが、最後まで個人の戦いで競り勝つことができず、ゴールをこじ開けることができなかった。組織力で戦うチームも、彼らの個人技術の壁を超えることはできなかった。その象徴的な試合が決勝だった。

 大宮の森田浩史監督は、「チームでの戦い方は、ギリギリだったが手応えをつかめた」と、より守備にフォーカスした組織的な戦略が奏功したことを感じていた。バルセロナのセルジ・ミラ監督や選手たちも、「相手の秩序が保たれた守備に対して、ゴールに辿り着くのが難しかった」と振り返っている。それでも森田監督は、個人技術の差を痛感していた。「個人のところでどれくらいの差があるのか、もしくはどれくらいやれるのかを体感してもらうために最後はリスクを掛けたが、その1対1でやられてしまった。球際の強さ、速さ、そしてボールを扱う技術など、すべてを含めた個人レベルがバルセロナのほうが上だった」。

 ただこうした顕著な違いがあった一方で、セルジ・ミラ監督が「日本の選手はプレーが速く、テクニックもある。そして秩序を守りながらプレーしている」と称したように、日本の選手のスピードや技術が、必ずしも海外の選手に劣っているわけではなかった。事実、個人技術の高いマンチェスター・Cに真っ向勝負を挑んだ川崎、東京都U-12が勝利し、ヴァンフォーレ甲府U-12も予選リーグで引き分けに持ち込むなど、日本のチームも十分に強さを示していた。それでも、バルセロナには及ばなかった。ではその理由とは何なのだろうか。それは、大まかに言うと「個人戦術」にあるのではないかと感じた。

■個人技術だけでは超えられない個人戦術の壁

 ここで言う「個人戦術」とは、自分の特長を最大限に生かすために、もしくは味方の特長を最大限に引き出すために必要な、個人レベルでできる攻守の駆け引きのこと。それは試合中、意識的にせよ無意識的にせよ、常に考え続けてプレーしなければならないことであり、それを踏まえていない限りは、いくら個人技術が高かったとしても相手を上回れない。その点において、バルセロナとその他のチームの間には、オンザボール、オフザボールにおけるポジショニングに、大きな違いがあった。

 指導者や選手の間ではよく、海外選手の球際の強さや激しさが話題に上る。海外の選手は、より的確にマイボールを保持し、逆にルーズボールでは素早くボールにアプローチしてマイボールにする能力に長けているという。ただし、このプレーのポイントはスピードやパワーではなく、事前の準備や、判断、実行力にある。たとえばボールが転がった場合、その事象が起きるワンテンポ前にはそのシーンを想像し、反応する必要がある。バルセロナの選手は、あらかじめ次のプレーへの準備をした上でポジションを移動しているために、ボールや自分のマーカーに対して最短距離でプレッシャーを掛けられるのだ。

 これはいわゆる「トランディション」にも付随してくる。守備から攻撃、攻撃から守備という攻守の切り替えだけではなく、攻撃から攻撃のギアチェンジ、守備から守備のラインコントロールやカバーリングなど、常に味方と相手の状況を見ながらプレーできることが重要であり、それを踏まえた準備ができることで、トランディションのロスを限りなく少なくできる。それを実行するためには、視野の広さや自分がイメージしたプレーに対して誤差なく動けるボディバランス、ボールを扱う技術、ボールがないところでの動き方やフリーランニング、マーカーの逆を突いてフリーになる技術などが必要になる。ここでは、そうしたことの総称として「個人戦術」と表現したが、これはバルセロナが日頃のトレーニングで培ってきたものに他ならない。

 セルジ・ミラ監督は、指導の際に意識しているポイントを次のように話す。「基本的にはずっとボールを持てることが我々のプレーの前提としてあるので、トレーニングの際も、プレーしながらどこにスペースがあるのか、どこに数的有利があるのか、どこに相手がいるのか、どこに味方がいるのかなど、その状況に応じて的確に判断できるようなことを選手に伝えている」。より実戦をイメージしたトレーニングを繰り返す中で、選手の個人技術、個人戦術が磨かれているのだろう。

■世界基準を日頃から常に意識しておけること

 今大会に参加したチームの中では、川崎や甲府、東京ヴェルディジュニアなどは、よりボールを保持した戦いを意識する中で高いパフォーマンスを発揮したが、バルセロナとの比較で見ると、次のプレーに対する準備ということでは後手を踏んでいた。それでも、彼らは本気で戦ったからこそ気付いたことがあるに違いない。今大会には、本気で挑まないと体感できない“世界レベル”があり、それで始めて自分たちの現在地を知ることになる。そのことを理解した選手たちはきっと、この先の舞台で花開いていくはずだ。大会2日目に、街クラブ選抜チーム「大和ハウスDREAMS」を率いた中西哲生氏が試合後、「悔しい気持ちを持たないといけない。そしてここで感じたことをこの先も忘れず、日々の練習から高い意識を持ってやっていかいないと世界のクラブと戦っていけない」と選手に伝えた。今大会で体感したことを、日頃のリーグ戦やトレーニングなどにいかに落とし込み、日々、世界基準を意識しておけるかが大切なのだろう。

 バルセロナは常に、世界の最先端を走り続けている。それでもなお、彼らは学ぶ姿勢を崩さない。セルジ・ミラ監督は、今大会で学んだことを問われてこう話した。「我々は常に、試合や練習を通じて、何かを学ぶ気持ちでやっている。この大会でも、相手がやってきたプレーや陣形など、それがうまくいかなかった時にどうやって解決するかを考え、その一つひとつのことは我々の成長を手助けしてくれた」。彼らがこの姿勢で突っ走る限り、日本はさらにその上を行く姿勢で挑み続けなければ、永遠にその背中を捉えることはできない。その意味で、バルセロナという世界レベルとの距離を知り、そして日本の育成シーンが前進していくためにも、今大会はやはり重要なものだと、改めて痛感している。

文=本田好伸

By 本田好伸

1984年10月31日生まれ。山梨県甲府市出身。日本ジャーナリスト専門学校⇒編集プロダクション⇒フットサル専門誌⇒2011年からフリーとなりライター&エディター&カメラマンとして活動。元ROOTS編集長。2022年から株式会社ウニベルサーレ所属。『SAL』や『WHITE BOARD SPORTS』などに寄稿。

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