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欧州の敏腕代理人が語る、日本人選手の「魅力」とJリーグの「課題」

2020.07.14

 新型コロナウイルスの影響により、欧州のほとんどのクラブが財政的に厳しい夏を迎えた。移籍マーケットも様変わりすることが予想されるが、移籍金や選手報酬の高騰に歯止めがかかり、例年より動きが少なくなる状況は日本人選手にとって追い風となる可能性がある。

「日本人選手は世界で最も過小評価されている。欧州のクラブから見ると移籍金が安く、ローリスクで魅力的だ」


 そう語るのは、イングランド代表のデレ・アリトッテナム)やジェームズ・マディソンレスター)らをクライアントに持つ英国の大手エージェント事務所「ベース・サッカー」の代理人、ジョエル・パニック氏だ。吉田麻也サンプドリア)や酒井宏樹マルセイユ)といった日本人選手を担当し、フェルナンド・トーレスのサガン鳥栖への移籍も仲介した。日本と欧州をつなぐ最前線で活動している彼は、「ここ2、3年は欧州中のクラブがJリーグの若い才能に注目している」と言う。欧州クラブの日本人選手を見る目が変わったと感じているようだ。

「これまでは技術があっても、言葉を話せずに成功できなかった選手も多くいた。クラブ側にとっては、日本人が文化や言語の違い、新たなサッカースタイルに適応できるかという点がリスクとなっていたが、最近は中島翔哉(ポルト)、堂安律PSV)、冨安健洋ボローニャ)、南野拓実リヴァプール)のような成功例が増えたことで、Jリーグは安く買えて、数年後に高く売れる可能性を秘めた原石を発掘できると認識されるようになった」

ジョエル・パニック

取材に応じたパニック氏

 近年は、Jリーグから欧州の中堅クラブを経由してステップアップする道が主流のモデルケースとなっている。「移籍金の相場が比較的低いポルトガルやオランダ、ベルギーのクラブにとって50万ユーロ(約6千万円)の価値があるのは、いきなり25ゴールを決めるなどチームに変化をもたらすような選手か、数年後に2~3倍の値で売れる可能性がある選手だ」。こうした評価基準で日本人は後者にあたることが多く、伸びしろや将来性が重視される。

 一方で、Jクラブが移籍金を低く設定し、選手の海外移籍という夢を後押しするようなこれまでの風潮は変わりつつあるという。パニック氏は「義理や人情も大切にしながら、クラブがよりビジネスマインドを持つようになってきた。もし選手に300万ユーロ(約3億6千万円)の価値があると思えば、100万ユーロ(約1億2千万円)で売るようなことはしなくなるだろう」と分析する。特に今季は変則的でタイトな日程になったことで、Jクラブも選手を手放すことに慎重になると見込んでいる。

 Jリーグを熟知するからこそ、問題点も鋭く指摘する。例えば、Jクラブと代理人の交渉術もその一つ。「普通はクラブ側から我々に『185センチ以上で左利きのセンターバックを探している』など条件を提示してくるが、日本のクラブは『どんな選手がいますか?』と聞いてくる。そうすると知らない代理人を通じて欲しかったDFを獲得することより、旧知の代理人の仲介で求めていなかったMFと契約するようなことが起こる。人脈や信頼関係は大事だが、それに縛られるのは健全ではない。実際、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督は我々のクライアントであるが、彼の就任後は選手の移籍を一つも仲介していない」と自らの経験をもとに力説する。

 また、ベテランや外国人が若手の出場機会を奪っていることにもどかしさを感じるという。「年長者を敬う文化的背景があるとはいえ、同じレベルの18歳と30歳がいたら、30歳の選手を起用する理由はない。もし18歳の選手をシーズン25試合で使えば成長速度が上がるだけでなく、市場価値も高くなる」。J1、J2のクラブが約30人もの選手をトップチームに登録していることも、若手の芽を摘む一因として問題視している。

 これは以前から外国人の指導者や関係者がしばしば指摘してきた点ではあるが、Jリーグが欧州から見て魅力的なマーケットであることに変わりはない。パニック氏が「少し前までは日本人といえば運動量豊富なサイドバックや10番タイプのテクニシャンが多かったが、今は違う」と言うように、小柄で俊敏といった従来のステレオタイプはもうない。「私が担当するシュミット・ダニエルシント・トロイデン)は2メートル近い長身GKだし、吉田、酒井、冨安は全員6フィート(約183センチ)以上あるDFだ。どんなポジションにもいい日本人選手はいるということが、欧州でも知られ始めている」

「ベース・サッカー」はU-23日本代表の齊藤未月湘南ベルマーレ)をはじめ若手Jリーガーもクライアントに持っているが、今夏に海外挑戦する場合は渡航制限によって直接サポートできない可能性があると選手に伝えている。パニック氏は「通常なら最初は同行して家や車、銀行口座の手配といった身の回りの世話をするが、今はそれができないかもしれない。そういう状況になっても一人で乗り切れる精神的なタフさが必要」と話す。コロナ禍による混乱が続くなかでも新天地に順応して活躍する選手が出てくれば、欧州における日本人の存在価値はさらに高まるかもしれない。

文=田丸英生(共同通信社)

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