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【コラム】海外挑戦を決意したリオ世代のリーダー・遠藤航…新天地ではボランチで勝負へ

2018.07.23

浦和からシントトロイデンへ移籍することが決まった遠藤航 [写真]=J.LEAGUE

「ロシア(ワールドカップ)では、日本人の良さは出せた。チームとして戦うことは当たり前だけど、それを上回るだけの組織力が日本にはあった。ただ、ベルギー戦の最後にカウンターでやられたように最後の個の力、90分でもあれだけのスプリントができるってところは日本に足りない部分なのかもしれない。あのカウンターには自分の見てきたものが集約された感があった。個を伸ばせば組織力も上がるという考え方をすれば、自分のやるべきことは自ずと見えてくると思います」

 フランスの優勝で閉幕した世界舞台直後に行われた18日のJ1第16節・名古屋グランパス戦。この一戦で豪快な2つのヘッドを決めた浦和レッズの背番号6・遠藤航は、しみじみとこう語っていた。この2発に新たな4年間への強い決意が表れていたようにも見えた。


 大きな一歩からわずか3日後の21日、彼のベルギー1部・シントトロイデン完全移籍が発表されるに至った。ロシアで同じく出番なしに終わった植田直通(セルクル・ブルージュ)が「外へ出なければ本当のサッカーを知ることはできない」と本田圭佑に言われて海外挑戦を決断したように、遠藤も同じことを感じたはず。ここで海を渡らなければ、2022年カタール・ワールドカップでのリベンジはあり得ない。そんな覚悟で新たなチャレンジに踏み切ったに違いない。

「海外志向はプロになる前からありました。年齢的にも、最低でもこのタイミングで行きたいというのが自分の中にあった。浦和レッズというチームでプレーして、日本代表としてロシアに行けたという結果があるので、Jリーグがすべて悪いとは思わないですけど、もう1回『対世界』って考えた時に自分のいるべきところは海外なのかなと。そのタイミングでオファーが来たので、決断しました」と遠藤は浦和ラストマッチとなった22日のセレッソ大阪戦後に神妙な面持ちでこう言った。

 2016年1月にユース時代から過ごした湘南ベルマーレを去り、浦和へ赴いて2年半。2016年のヴァンカップ、2017年のAFCチャンピオンズリーグなど数々のタイトルを手にしたこの時間は大きな意味を持つものだった。その反面、熱望するボランチでプレーさせてもらえない歯がゆさが伴う2年半でもあった。2016年リオデジャネイロ・オリンピックの後から招集されるようになったA代表ではボランチと位置付けられたが、そのポジションを所属クラブで極められなければ他のライバルたちに勝つのは難しい。ロシアで出番なしに終わった時、本人も厳しい現実を痛感したはずだ。

遠藤航

ロシアW杯では出番なしに終わった [写真]=Getty Images

「個人的にはいろんなポジションをやっていますけど、ボランチで勝負したくて、今回そういったオファーをいただいた。僕は守備的な選手なので中盤のつぶし屋としての能力をしっかりと磨く必要があると思っています。一方で攻撃に出ていけるように攻守両面の質を上げてないと。『ボックス・トゥ・ボックス』という話はよく出ますけど、運動量とクオリティの両方を上げていかないといけないと思ってます」と遠藤は自分に言い聞かせるように話していた。

 8年間キャプテンを務めた長谷部誠(フランクフルト)が代表引退を表明した今、守備的ボランチを担えるのは山口蛍(C大阪)と遠藤、そして21歳の三竿健斗(鹿島アントラーズ)くらいしかいない。ただ、山口も4年後は31歳。年齢的にはギリギリだ。その山口も「次のカタールを考えたら、航たちの世代が中心となってやっていかないといけない」と強調していただけに、リオ世代のリーダーである彼には大きな期待が寄せられる。25歳での海外挑戦というのは決して若くないだけに、ベルギーの環境にすぐに適応し、試合に出て、実績を残すことが強く求められる。彼にはそこまで多くの時間的余裕はないのだ。

「ベルギーリーグはあまり見ていないし、先に行っている裕也(久保=ヘント)とかから話も聞いてないから、具体的な印象はないですね。ただ、いろんな選手を輩出しているし、若い選手が多いイメージがある。僕が行くシントトロイデンも若くて、ベテランが何人かいるだけみたいなので、たぶんみんな『ここで活躍して上のリーグに行きたい』とギラギラしていると思います」と遠藤は言う。

 その通り、若い選手たちはエゴをむき出しにして練習から激しいバトルを仕掛けてくるはずだ。彼らから信頼を勝ち取り、チームの軸を担っていくためにも、コミュニケーションは欠かせない。すでに英語学習を継続的に行っているという遠藤だが、やはり心がけるべきなのは、先に合流している冨安健洋、関根貴大という日本人選手2人と絡みすぎないこと。そこは清武弘嗣(C大阪)、酒井宏樹(マルセイユ)とハノーファーで「日本人トリオ」を結成した経験を持つ山口も指摘していた点である。

「僕らは3人で固まっちゃうところがあった。でもやっぱり1人でもがいて苦しんで得るものは大きいと思う。自分はキヨ君と宏樹に甘えてしまうことが多くて、失敗したなと感じているので、航にはそうならないようにしてほしい。能力的には十分やれると思うので、大いに期待しています」

 インテリジェンス溢れる遠藤なら、先輩ボランチのアドバイスをしっかりと糧にできるはず。異国に赴けば思い通りにならないことも少なくないだろうし、出場機会がコンスタントに巡ってこない可能性もある。その壁を乗り越えてこそ、彼は一回りも二回りも大きくなれる。リオ世代の成長なくして、4年後のカタールでの成功はない。その強い自覚を持って、彼には新天地でタフに戦い抜いてほしいものだ。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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