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【W杯直前!サンクトペテルブルク発】 日本とサンクトペテルブルク・スタジアムの深い関係

2018.04.30

[写真]=FC Zenit

サンクトペテルブルク・スタジアムの設計を手掛けたのは日本人

 間もなく開催される2018 FIFAワールドカップ ロシアで、準決勝及び3位決定戦を含む計7試合が行われる予定のサンクトペテルブルク・スタジアムが、2007年に亡くなった日本の著名な建築家・黒川紀章さん最後のプロジェクトであることはすでに有名な話である。先日、その黒川さんのお弟子さんであり、多くの海外プロジェクトでご一緒に働かれていた建築家の今用雄二さんが、フランスのテレビ番組の取材で完成後初めてスタジアムを訪れた。その際、日本の建築家がどんな思いで設計に携わったのか、スタジアム建設にまつわる貴重なお話をお伺いすることができた。日本とサンクトペテルブルク・スタジアムの知られざる関係、ぜひこの機会に皆さんにもお届けしたい。

[写真]=FC Zenit

2006年から始まったプロジェクトと大事なコンセプト

 そもそも、サンクトペテルブルク・スタジアム建設の話は2006年まで遡る。当時サッカースタジアム建設で世界的に実績のあった5名の著名な建築家の事務所にサンクトペテルブルク市から声が掛かり、指名コンペが行われることになったのが始まりである。多くの著名な作品を手掛けられている黒川さんであるが、豊田スタジアムや大分スポーツ公園総合競技場(大分銀行ドーム)の設計者としても当時世界的に有名であった。

 今回お話を伺った建築家の今用さんは、サンクトペテルブルク・スタジアムの建設で2006年最初に実施されたプレゼンテーション段階からプロジェクトに携わられていた中核メンバーの一人である。11項目の大きなコンセプトを掲げ、始まったこのスタジアムのプロジェクトであるが、メンバーが一番大事にしたコンセプトが「当時の最先端技術を使ったサンクトペテルブルクの美しい街並みに相応しいスタジアムを作る」ことだったそうだ。

[写真]=FC Zenit

 今サンクトペテルブルク・スタジアムは、ロシア中、さらにはヨーロッパ中で多くの人々から「UFOに似ている、宇宙船の様だ」と例えられている。しかし、意外なことに黒川さんご本人は一度もこの「UFO」とか「宇宙船」といった言葉を使ったこともなければ、それを作ろうと狙っていた訳でもなかったそうだ。一方で、大事にされていたのは「海からの見え方を意識し、将来的に完成するハイウェイ(現在は完成済)との調和、地下鉄のクレストフスキー駅から続く広い公園から見ても圧迫感のない形状のスタジアムを作ること。このスタジアムから何か世界中に発信できるようなものを、未来永劫語り継がれるシンボリックなもの作ること」という強い思いだった。そうした背景を踏まえると「このスタジアムを作ることで未来をデザインしようとしていた黒川さんは、皆さんから“スペースシップ”と呼ばれているこの飛ばない宇宙船を別の宇宙船から見下ろして、“にやっと”微笑み、喜んでいると思っています」と今用さんが語って下さったのは印象的であった。

[写真]=FC Zenit

日本とサンクトペテルブルクスタジアムを巡る様々な縁

 ちなみに、黒川さんは24歳の時に世界デザイン会議の議長としてサンクトペテルブルクを訪れているのだが、実はこれが彼にとって初めての海外での仕事だったそうだ。そして、そのサンクトペテルブルクの未来の象徴となっていくスタジアムの設計が、彼の生涯で最後の仕事となった。今用さんも「彼自身も思い入れのあるこのサンクトペテルブルクの街で何かを残したいと思っていたはずです。その証拠にコンペ優勝時には涙を流されていました」と話されていた。加えて、このスタジアム訪問時に今用さん自身にも非常に縁を感じる出来事があった。

[写真]=FC Zenit

 2006年に彼が当時のヴァレンチナ・マトヴィエンコ市長に対して、スタジアムの構想をプレゼンしている姿が現地の新聞に掲載されたのだが、その写真を12年前に撮影したのが今回取材に同行していたゼニトのカメラマンであった。さらに市長の右隣には、セルゲイ・フルセンコ現ゼニト会長の姿も。「2006年の段階で2018年に行われるワールドカップのスタジアムを作るなんて、どれだけ先の話をしているんだ……」と感じていたと、今用さんは語っていたが、12年の時を経て実際に完成したスタジアムを訪れ、人や想い、様々なものが交錯する印象深いスタジアム訪問になったのではないだろうか。

2018 FIFAワールドカップ ロシア開幕まであと50日!

[写真]=FC Zenit

 今シーズンはここまでヨーロッパリーグも含めると、4月18日に行われたディナモ・モスクワ戦まで、サンクトペテルブルク・スタジアムではゼニトの試合がすでに20試合行われている。さらに今週に入ってスタジアムでは、ワールドカップに向けた特別席の増設が始まり、準備はいよいよラストスパートに入った。通常約56,000人収容のスタジアムで、この増席により約68,000人が観戦できるようになるのだ。いよいよである。ワールドカップ開幕まで50日を切った今、日本と深いつながりのあるサンクトペテルブルク・スタジアムで繰り広げられる熱戦を、日本の皆さんにもぜひ楽しみにしてもらいたい。

文=井ノ口孝明

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