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[中国代表が見据える未来]“サッカー超大国”への30年計画

2017.12.10

中国サッカーは近年、世界中から注目を集めてきた。ただそれは、彼らの競技力ではなく、中国市場に向けられたものだった。では、純粋に競技力を見た時、中国の立ち位置はどこなのだろうか。人口約13億7000人を誇るこの国のポテンシャルは十分。だが、今はまだ、アジアの頂点にも達していない。“サッカー超大国”へと歩き始めたばかりだ。

文=黄志铭(WYFAグループCOO)
写真=ゲッティ イメージズ

■中国代表に絡む文化的背景

 近年の中国代表チームに、大きな進歩があったとは言い難い。中国サッカー協会はこれまでさまざまな戦略を打ち出してきたが、代表が国際大会で残した結果は、決して満足できるものでない。選手が低調なパフォーマンスを続けたことによって、メディアからのプレッシャーや、ファンから大きな非難を浴びた時期もあった。

 世界で最も人気の高いスポーツとされるサッカーは文化的な特色が強く、中国サッカーの発展も、中国社会や政府の方針、また国際社会における経済状況の変化などに影響を受けてきた。中国サッカーの文化には、大きく分けて3つの重要な要素があると考えられる。それは、「物質文化」、「規則文化」、「精神文化」である。

 中国代表チームのパフォーマンスはこれら3つの要素と密接に関連している。過去の代表チームが結果を残せていないのは明白であり、それはこれらの要素の全てに問題があったためだ。だからこそ、こうした文化的な背景を踏まえて整備していき、それぞれを融合させることで初めて、中国代表チームは戦いの質を向上させることが可能となるだろう。

■浮沈を味わった5年間

 過去5年間で、中国代表は大きな浮き沈みを経験してきた。

 2013年には、八百長や国際舞台での不振が続き、代表チームは「史上最悪」と呼ばれる状態まで転落した。上海の西500キロにある合肥で行われた国際親善試合では、若手中心で戦うタイ代表に1-5の大敗を喫した。この結果に落胆したファンは、スペイン人指揮官、ホセ・アントニオ・カマーチョ監督や選手たち、そして中国サッカー協会に対して激しい怒りの声を上げた。代表チームはその試合前にも、オランダに0-2、ウズベキスタンに1-2で敗れていた。結局、2014FIFAワールドカップアジア3次予選で敗れ、W杯の出場権を逃したことで、カマーチョ監督は6月に解任となった。

 14年2月には、今度はフランス人のアラン・ペランが代表チームの新監督に就任。10月にはタイとの親善試合に3-0の勝利を収めた。ペランにとって就任後初の大舞台となった15年のアジアカップでは、サウジアラビアとのグループステージ初戦に1-0で勝利し、勢いそのままに3戦全勝。準々決勝ではオーストラリアに0-2で敗れて4強入りを逃したものの、低調な代表チームを立て直したペランの手腕は、大いに評価された。

 ただし、その後が順風満帆だったわけではない。2018FIFAワールドカップアジア2次予選で満足のいく結果を出せず、6試合を終えて3勝2分け1敗。最終予選への道が険しくなってきたことで、16年1月、ペランも解任された。

 代表チームはそこから、11年以来、2度目の就任となった高洪波監督の指揮の下、同じグループの最大のライバル、カタールに2-0の勝利を収め、最終予選進出を果たした。この躍進は、02年大会以来となる出来事だった。

 高監督を含めてほとんどの選手が、アジア最終予選を戦うのは初めての経験。中国代表は最初の4試合で勝ち点わずか1ポイントしか獲得することができず、W杯出場の望みは断たれた。そうした状況下で、新監督として招しょう聘へいされたのが、イタリアの名将、マルチェロ・リッピ監督だった。

 W杯に出られないにもかかわらず下された、中国サッカー協会のこの決断は、中国が世界のサッカーシーンにおいて「真の成長を目指す」という意思表明だった。

 リッピはそこからの6試合で、中国に勝ち点11をもたらし、10月に発表された最新のFIFAランキングも5つ順位を上げて57位、アジアで4番手という地位を獲得した。W杯出場は果たせなかったものの、代表チームのパフォーマンスは大幅に向上した。

■50年までにサッカー超大国へ

Photo by Getty Images

 中国サッカーの発展は世界中から注目を集め、中国自身も、より世界に目を向け始めている。

 中国サッカー協会はさらなる発展を求めて新たな施策を講じ、中国企業も個人も、世界のスポーツ界で過去に例がないほど存在感を強めている。中国の影響下にあるクラブやエージェンシーの数は過去2年間で大幅に増加し、国内リーグの観客数も増えた。サッカー産業への大型投資が相次いで敢行され、世界的なスター選手の移籍が数多く実現してきた。

 そうした、トップカテゴリーの拡大がある一方で、本当の意味で向き合わないといけないのは、育成カテゴリーを含む、若手選手の育成だ。それこそが、代表チームの基礎を築くものだからだ。

 15年には、国務院と教育部において、「全国青少年校園足球」部門の設立が認可され、サッカーを特色とする学校が、この2年間で実に1万3381校も設立された。それと同時に、69もの地域が「サッカー改革地域」として指定されるまでに至った。

 こうしたサッカースクールとサッカー地域の広がりは、より多くの指導者の必要性を意味する。現状では、年代やトレーニングの目的に応じて、プロからユースカテゴリーまでを育成できる経験が、中国には不足している。レフェリーを含めて、指導者の養成というところも、早急の課題である。

 学校教育における選手の育成は、中国の近代化に際して取り残された課題でもあった。これも国民性なのだろうか。スポーツに対する興味を育むことよりも、大会での「勝利」が目的になるという、慢性的な問題を抱えていたのだ。

 プロサッカー選手を目指すプレーヤーの層も限定的なものとなり、プロの“候補生”も減少する悪循環となっていた。

 こうした事態を受け、中国サッカーが着手した新たな発展政策には、小中学校レベルでの育成も、目標に含まれることになった。サッカーに特化した育成プログラムを普及させていき、プロのサッカーコーチの質、量を両方同時に向上させる。加えて、そこに女子サッカー選手の育成も促す計画だ。

 中国サッカーが掲げた包括的な目標は、「50年までに、世界のサッカー超大国になること」だ。その中期的な目標には、FIFAランキングを上げていき、「30年までにアジア最高クラスのチームになること」が設定された。そうした目標を見据える中で、短期的には、競技人口の増加を目指す。現状の競技人口は極めて少ないと言える。だからこそ、サッカースクールをさらに設立し、指導者養成プログラムを発展させていくことで、「20年までに競技人口を5000万人に増加させること」を目標にしている。

 中国の規模感は、日本とは比較にならないほど広大だ。政府が企業によるサッカー産業への投資を優遇していることもあり、30年までに2万カ所を超えるトレーニングセンターと、7万面以上のピッチが建設される予定だ。

■期待される大学カテゴリー

 代表チームの強化に目を向けると、即戦力となる大学サッカーにも期待が寄せられている。日本や韓国でも、大学サッカーが長年にわたってサッカー界を支えてきた背景があり、大学カテゴリーが国内の競技レベルを引き上げる可能性は大いにある。中国の大学には、高い技術を持つ未発掘のサッカー選手があふれているため、大学リーグは、そうした選手がさらにスキルを向上させ、経験を積むための優れたプラットフォームとなる可能性を持っているのだ。

 大学サッカーの指導者は、主要大学やプロサッカークラブの出身者が多く、しかも彼らは、高水準の教育を受けてきている。

 先進的なサッカー理論を携えた指導者は、選手のパフォーマンスが低いからといって、そのポジションを簡単に失うことはない。つまり大学は、ハイレベルなメソッドを実戦で試す場所となるのだ。しかも、長期的なチーム構築ができることで、選手だけでなく、指導者自身の能力や、戦術、戦略の引き出しも増えていくだろう。

 もう一つ、レフェリーの育成という点でも、大学はうってつけの場所だ。トップカテゴリーのような過度な利害関係やしがらみが生じないことで、審判は“ピッチ外”に影響されることもなく、純粋に試合に集中してジャッジできるからだ。

■次世代の担い手を探す

 最後に、リッピのタスクにも触れておきたい。中国の“真の成長”の担い手として手綱を握るリッピには、A代表だけではなく、次世代の若手選手育成も託されている。A代表の平均年齢が高すぎるという現状があり、UAEで19年に開催されるアジアカップや、カタールで開催される22年のW杯を見据えたチーム作りが急務だからだ。そのため、リッピはリザーブチームの構築を重視している。

 彼は、潜在能力を秘めた若手選手をリザーブに選び、長期的な成長を視野に入れて、代表チームの改造に取り組み始めた。その最たる例として、リザーブチームとは別に、U-22代表とU-22代表を組織したことが挙げられる。

 17年12月に、EAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会(前回までの東アジアカップ)が、日本で開催される。

 中国は過去6回の大会で、2回の優勝経験がある。特に05年大会の優勝は、国際舞台での初タイトルとなった。今大会も、3度目の優勝を狙うと同時に、代表グループの戦術強化や国際経験を積む絶好の機会となるだろう。

 ロシアへの切符はつかめなかったが、リッピとともに戦ったW杯アジア最終予選で、中国代表は大きな自信を手にした。韓国、カタール、ウズベキスタンというアジアの強国に勝てたことは、まさに称賛に値するものだった。スムーズなパス交換や相手のプレッシャーを外すすべを覚え、攻撃では、相手DFの背後を突くラストパスからゴールを陥れる新たな戦術オプションを獲得した。だからこそ、今持てる力に磨きを掛けるために、実戦経験を通した代表強化に、時間を割く必要があるのだ。

 そして今大会のもう一つのテーマは、中国サッカーの次世代を担う選手の発掘だ。リッピの直近の目標は19年のアジアカップであり、E-1では、若手選手の起用を考えているという。特に、現在のA代表をキャプテンとして支え続ける鄭智の後継者候補を見付けられるかどうかが、リッピに求められる役割だろう。

 中国の可能性は、広大だ。“サッカー超大国”を目指す戦いはすでに、始まっている――。

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