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【コラム】勝敗の行方を左右するセンターバック、時代の流れとともに変わった役割とは

2017.07.06

S・ラモスは現代のCBに求められるもの全てを兼ね備えていると言ってもいいだろう [写真]=Getty Images

「良いストライカーがいればゲームに勝てるが、良いセンターバックがいればタイトルが取れる」

 1998年、当時アストン・ビラ(イングランド)を率いていたジョン・グレゴリーの名言だ。現代におけるセンターバックの価値を、とてもシンプルに言い表している。

 別の言い方をすれば、それだけ理想の人材が少ない、ということでもあるだろう。だから、トップレベルで活躍するセンターバックは選りすぐりのエリートと言ってもいい。

 そもそもセンターバックは、過酷な宿命を背負ったポジションである。何しろ、彼らが相手にするのは、これ一つで大金を稼げる、というくらいの強力な武器をもったスペシャリストばかりだ。

 空域を我が物にする巨人、高速で駆け抜ける韋駄天、こつ然と姿を現す伏兵、さらには蝶のように舞い、蜂のように刺す魔人……。多士済々の大駒を向こうに回して、自軍の玉(ゴール)を守り抜かなければならない。

 したがって、どんな相手にも出し抜かれない、すぐれた対応力が必要だ。相手が高ければ高いなりに、速ければ速いなりに、巧ければ巧いなりに、知恵を働かせ、適当なスキルや駆け引きを用いながら、刺客を危険地帯から締め出していく。

 一対一の強さだけではない。相手の企図を見透かし、危険な「共謀」(数人が絡むコンビプレー)を防ぐ、深い洞察力も必要だ。これもまた、センターバックの良し悪しを左右する要件かもしれない。

 アタッカーなら、90分のうち1回でもチャンスをものにすれば英雄になりうるが、センターバックはわずか1回のミスで戦犯扱いされかねない。ゴールキーパーと同様、失点に直結しやすいポジションの難しさだ。精神的にもタフでなければ務まらないだろう。

 かつては90分、敵にべったり張り付いて、仕事をさせないマンマーク専門のストッパーもいたが、いまや絶滅危惧種に近い。ひと昔前と比べても、センターバックに求められるハードルは、きわめて高いのだ。

 アタッカーの高速化、大型化が加速している。それに対抗するだけのサイズや運動能力がなければならない。加えて、攻撃側に有利なルール改正(バックパスの禁止、オフサイド基準の緩和、ファウルの厳罰化など)も、センターバックの仕事を難しくしてきた。

 さらに、現代では「攻撃の始点」としても相応の能力が求められている。球を奪うまでは一流でも、せっかく奪った球を簡単に失うようではまずいわけだ。

 かつての基準に照らせば、当代の最高峰にあるセンターバックは「超人」と言ってもいい。その代表格が、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリード)だ。

 速い、強い、高い、巧い——。

 三拍子どころか、四拍子がそろった「怪物」だろう。身長183センチと現代の基準では決して高くはないが、そのハンディを補って余りある運動能力の高さをもっている。

 若い頃にスペイン屈指のサイドバックとして鳴らした走力と攻撃センスは抜群。後ろからの組み立てを難なくこなし、スピードスターにも競り負けず、巨人がひしめく空中戦でも無双の強さを誇る。事実、これまでに何度も価値あるゴールを決めてきた。

 球際で激しくファイトする闘争心も別格。勢い余ってカードをもらうこと以外に、これという死角が見当たらない。現代でもっとも完成されたセンターバックだ。

 同じ万能系としてチアゴ・シウヴァ(パリ・サンジェルマン)の名前を挙げてもいい。S・ラモスほどの尖った個性はないものの、目立った弱点がなく、こと安定感では世界でも一、二を争う存在だろう。

 S・ラモスに「速さ」で勝るのは、ラファエル・ヴァラン(レアル・マドリード)だ。スピードスターの天敵で、火消しに回る疾風のカバーリングも出色。このヴァランのようなタイプがいれば、最終ラインをぐっと押し上げて戦うことも難しくない。

ジェラール・ピケ

優れたテクニックで相手を圧倒するピケ [写真]=Getty Images

 攻守の両面で「巧さ」が際立つと言えば、ジェラール・ピケ(バルセロナ)だ。敵のターゲットゾーンに先回りする危機察知能力はもとより、後方から長短のパスを使い分け、局面を有利に進めるビルドアップのセンスは当代随一だろう。

 よく似たタイプとしては、マッツ・フンメルス(バイエルン)やレオナルド・ボヌッチ(ユヴェントス)がいる。高さはもとより、予測の早さでスピード不足を補う頭脳派。しかも、ピケのように一本のパスで局面を変える力を持っている。

 言わば、後方の司令塔だ。一発で最前線につけるフンメルスの速く、鋭いグラウンダーの縦パスや、敵のプレスをまとめてスキップし、最終ラインの裏へ巧みに落とすボヌッチのロングフィードは、思わずヒザを打つような代物だろう。

ダヴィド・ルイス

昨シーズン、チェルシーに復帰したD・ルイス(右)。プレミアリーグの年間ベスト11に選出された [写真]=Arsenal FC via Getty Images

 前線からのプレスが常態化する流れにあるとすれば、こうしたタイプのニーズはさらに高まるのではないか。その意味では、ロングパス、大胆な攻め上がり、点を奪うヘッド、直接FKといった複数の攻撃ツールを備える異端派ダヴィド・ルイス(チェルシー)は、次世代型センターバックの一人かもしれない。

 S・ラモスもそうだが、このクラスになると、最前線でターゲットマンの役回りを演じても、それほど違和感がないはずだ。本職のセンターフォワードと比べて足りないとすれば、ボールを扱う技術くらいだろう。

 かつてのチリの英雄イヴァン・サモラノはセンターバックからストライカーに転身して大きな成功を収めた。案外、ストライカーとセンターバックは、1枚のコインの裏表かもしれない。

 別の国や違う時代に生まれていたら、スケールの大きなボランチやセンターフォワードになっていたのではないか。現代を代表するセンターバックとは、それくらいの潜在能力を秘めた「万能人」なのだと思う。

 サッカー界のゼウスか、レオナルド・ダ・ビンチか。時代の要請にこたえ、日々進化を遂げる、現代最強のトータルフットボーラーを見逃す手は、ない。

文=北條聡

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