ネイマールは連続ゴールが3試合で止まったものの、ウルグアイ戦では2アシストを記録。チームの決勝進出に大きく貢献 [写真]=FIFA via Getty Images
まさに、大黒柱に相応しい活躍ぶりである。
ウルグアイとの南米決戦となったコンフェデレーションズカップ準決勝。王国ブラジルは、1点リードで迎えた48分に同点ゴールを許した。きっかけは、キャプテンを務めるチアゴ・シウヴァのミスだった。
ペナルティエリア内で混戦が発生する中、マルセロに繋ごうとしたパスをかっさらわれ、エディンソン・カバーニにゴールネットを揺らされた。チアゴ・シウヴァの犯した痛恨のミスから追いつかれたブラジルの動揺ぶりは、傍目から見ても明らかだった。手を叩いて仲間を鼓舞することも、大声を張り上げることで切り替えを図る選手も皆無だった。
無理もないだろう。相手は難敵ウルグアイ。ホームの圧倒的な声援を背に受けながら、よりによって精神的支柱のミスから追いつかれてしまった。
ただ、王国がすがったのは藁ではなく、背番号10を背負う21歳の若者だった。失点直後からの数分間、ブラジルはとにかく左サイドに、エースにボールを集めた。動揺したチームが頼りにした存在は明白だった。
実際、開幕からの活躍ぶりを考えれば、それも頷ける。
日本との開幕戦では開始早々に右足での強烈な一撃を突き刺し、メキシコとの2戦目でも開始9分に左足のボレーシュートで先制点を挙げ、試合終了間際には2点目をアシストしている。グループリーグ最終戦となったイタリア戦でも、先制点に繋がるFKを蹴り、自身もチーム2点目となる直接FKを蹴り込み、3連勝に大きく貢献していた。
大会前は、9試合連続無得点だった自身の出来とともにチームの不調も重なり、国民から注がれる視線は厳しいものだった。しかし、懐疑的な見方を自身の両足で跳ね除け、3試合連続でマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。
ウルグアイとの準決勝でも試合開始から存在感を消されていたが、前半終了間際の41分に左サイドから一旦中央のルイス・グスタボにボールを預けると、突如としてギアを上げ、並走していた2人のDFを一気に振り切る。折り返しを受けてのシュートはGKに阻まれたが、こぼれ球をフレッジが押し込んだことで、待ち望んだ先制点をもたらした。
そして、86分の決勝点である。
直前に交代で退くウルグアイのアルバロ・ゴンサレスに挑発を受けながらも、CKからパウリーニョのヘディングをアシストして、劇的な勝利を引き寄せた。
ゴール裏でパウリーニョの得点に湧く仲間から外れ、センターサークルではチアゴ・シウヴァが1人、胸を撫で下ろすかのように何度も顔をユニフォームで拭っていた。勝利を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、多くの選手がチアゴ・シウヴァに駆け寄ったことを思うと、エースの活躍がチームとともにキャプテンを救ったと言っても差し支えないだろう。
苦しいとき、最も得点が欲しいとき、何よりすがる思いで頼るとき、彼は決定的なプレーでチームをけん引してきた。ただ、彼とてはじめから絶対的な存在だったわけではなかった。
2011年に隣国アルゼンチンで行われたコパ・アメリカでも、彼は新生ブラジルのエースではあった。しかし、得点できずに交代を告げられ、観衆から嘲笑ともとれるブーイングを浴びて退く姿は、期待の若手ではあるものの、決して王国の大黒柱と呼べる存在ではなかった。
あれから、2年。彼は逞しく、そしてかくも力強く成長を遂げた。
ウルグアイ戦後のミックスゾーンでは、キャプテンらしさを取り戻して淡々と記者の質問に応じるチアゴ・シウヴァの横に、キャップを後ろ前にかぶりながら不敵な笑みを浮かべて彼が姿を現した。手にはオレンジジュースと一粒のイチゴを持ち、両耳に大振りなピアス、右手にはシルバーに光を放つ腕時計。若者らしい出で立ちながら、幾重にも囲む取材陣の数で、彼が特別な存在ということを再認識させられる。
今大会での活躍や、チャンスメークからフィニッシュまで一手に引き受けているプレーぶりから、ブラジルの命運は彼の両足にかかっていると言っても過言ではない。それでも、王国が待望する6度目の世界王者に導くには線の細さも否めない。
ただ、コンフェデレーションズカップの決勝戦。そして、ついに果たされた欧州移籍。待ち構えているバルセロナでの1年間で、加速度的に成長してきた彼がどれほどのものを吸収して身に付けるかのだろうか。
彼、ネイマール・ダ・シウヴァ・サントス・ジュニオールは王国の大黒柱に変貌を遂げながら、成長する場がまだまだ残されている。
文●小谷紘友