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大会随一の“イケメン”…笑いあり、涙ありのサウジアラビア代表指揮官に注目

2022.11.30

サウジアラビア代表を率いるルナール監督 [写真]=Getty Images

 28年ぶりの決勝トーナメント進出を目指すサウジアラビア代表。30日に行われるメキシコ代表とのグループステージ第3戦に勝利すればベスト16進出が決まる。

 そのサウジアラビア代表を率いるのは“白いシャツの魔法使い”と呼ばれるフランス人のエルヴェ・ルナール(54歳)だ。グループステージ初戦では、驚きのハイラインを敷いてFWリオネル・メッシを擁するアルゼンチン代表を下して今大会最大のサプライズを起こしてみせた。

 そんな大胆な采配に加え、ファンから「次のジェイムズ・ボンド」と呼ばれるほど端正なルックスを持ち合わせるルナール監督は、今大会、最も話題を集めている監督の一人だ。しかし、彼が魅力を発揮するのは試合中だけではない。彼は記者会見での言動でも注目を集めているのだ。それでは、笑いあり、涙ありの“ルナール劇場”を見てみよう。

 2-1の逆転勝利を収めたアルゼンチン戦では、試合後にサウジアラビアサッカー連盟がSNSに投稿したハーフタイムの映像が話題を呼んだ。0-1とリードされて控え室に戻ってきたルナール監督が選手たちに檄を飛ばしたのだ。「これをプレスと呼ぶのか! アル・マルキ。メッシがボールを持っているのに、お前はDFラインの前に突っ立っている。こうやって追いかけるんだ。お前らは何も感じないのか? これはワールドカップだぞ。全てを出し切れ!」

 そのスピーチが選手たちを奮い立たせ、後半の逆転勝利につながったように思えるが、監督は手柄を独り占めしなかった。第2戦のポーランド代表戦の前日会見にて動画について聞かれたルナール監督は、いつも通りユーモアを交えながら答えた。

「あのビデオは1分程度だよね。広報には戦術部分の話は載せるなと言ってあるからね! 今回はうまくいった。でも、上手くいかなかったときだってある。だからラッキーだったね」と笑みをこぼした。そして、こう言い切った。「アルゼンチン戦の勝利は、医療班、広報、シェフ、用具係など、みんなが素晴らしい準備をしたからだ。あの映像は、その過程のほんの一部に過ぎない。だから私は、あの勝利について関わっている全てのスタッフを称えたい」

 さらに、動画が世界中に拡散されたことについて「自分ではあまり見たくないんだ。普段は優しいときもあるのに、あの映像ではずっと叫んでいたからね」とこぼした。

エルヴェ・ルナール

[写真]=Getty Images

 そのポーランド戦の前日会見では喜怒哀楽が見られた。フランス語で質問を受けると「申し訳ないがアラブ諸国の人たちのためにも英語で答えさせてください」とフランス人指揮官は断りを入れた上で「前回、フランス語で喋ったら(サウジアラビサッカー連盟の)広報が怒っていたのさ!」と笑いを誘った。

 そして、初戦でメキシコとゴールレスドローを演じたポーランドの監督が少し批判を浴びていたが「何か助言があるか?」と質問を受けると「FIFAランク51位のチーム(サウジアラビア)の監督が、26位のチーム(ポーランド)の監督に助言できるだろうか」と軽く冗談を飛ばしてから真剣モードに入ると「私は他の監督にアドバイスを送るような、おこがましいことはしない」と言い放った。「難しい仕事だと分かっているからね。それに私は、メディアの前で他のチームにアドバイスを送るような監督が嫌いなんだ。言うだけなら簡単だからね」

 他にも真剣な表情を見せるシーンがあった。一部のマスコミでは、アルゼンチン戦に勝利したことで、皇太子から選手たちに高級車ロールスロイスが贈られるという報道があった。それについて質問を受けたのは、監督と一緒に登壇していたFWサレー・アル・シェフリだ。アル・シェフリが少し困った表情を見せて「そんなことはない」と答えると、ルナール監督がすぐに救いの手を差し伸べた。「私にも答えさせてくれ。我々は真剣だし、上層部も真剣だ。この時点で何か貰うようなことはない。まだ1試合しか終わっていないんだ」ときっぱりと報道を否定したのだ。

 そして涙腺が緩むシーンまであった。記者からMFヤセル・アル・シャハラニの容態について質問が出たときである。アル・シャハラニは、初戦のアルゼンチン戦の終了間際にGKと接触して腹部と顔面を負傷。サウジアラビアに戻って二度も手術を受ける大ケガを負ったのだ。

「まずは、彼について話す機会を与えてくれてありがとう」とルナール監督は記者にお礼を言った。そして「彼は試合の数時間後にドーハからリヤドに飛んだ。そしてすい臓の手術を受け、次には顔の手術も受ける」と説明しながら、涙ぐんで声を震わせた。「彼は本当に大切な選手なんだ。我々は彼のことを思い、彼のために戦う」

 さらにポーランド戦では、ルナール監督の“ルーツ”が話題になった。ルナール監督はフランス生まれのフランス人だが、彼の祖父母はポーランド出身。81歳になる母親もポーランド生まれで、フランスに移住してからルナールを生んだのだ。カタールまで応援に来てくれている母親について、ルナール監督は「母はサッカーが大好きで毎週2、3試合くらいはサッカーを見ているよ」と切り出し、「母の旧姓はケミンスキで、母の両親はポーランド出身なのさ。だからポーランド戦は特別な試合になる。でも、明日の試合ではサウジアラビアのユニフォームを着て応援するので安心してね!」と笑って見せた。

 結局ポーランド戦は、何度もチャンスを作りながら、GKヴォイチェフ・シュチェスニーにPKを止められてしまい無得点で0-2の敗戦を喫した。試合後の会見でルナール監督は「今日も母がスタンドにいたんだ。母は私に腹を立てているかもね! (敗戦について)母に説明しようと思うが、ファンはなかなか理解してくれないことがあるからね」と白い歯を見せた。

 アルゼンチンに勝利したあとの会見では、ほとんど冗談を言わなかったルナール監督だが、ポーランド戦に敗れたあとはリラックスした表情でユーモアを連発した。

 ポーランド人記者から質問を受けると「君のチームには素晴らしい選手が3名もいるね。シュチェスニー、ジエリンスキ、レヴァンドフスキ。特に(PKを止めた)GKシュチェスニーは素晴らしい仕事をしたね」と語り「でも、今日初めて彼を知った人なんていないよね! 彼は素晴らしいキーパーだね。今日、我々は彼を仕留められなくて残念さ!」と笑みをこぼした。さらに1得点1アシストのFWロベルト・レヴァンドフスキについては「彼について話すと1時間以上になるよ」と冗談を放った。

エルヴェ・ルナール

[写真]=Getty Images

 次は、運命の第3戦だ。メキシコに勝てば28年ぶりのグループステージ突破となる。そんな大一番を翌日に控えた前日会見でも、“ルナール節”は健在だった。監督キャリアで最も重要な一戦かと聞かれると、普通の監督ならば「間違いなくその1つだ」と答えるだろうが、ルナール監督は違った。「3番目だ」と明確な順位を発表したのだ。「2012年と2015年の(アフリカネイションズカップ)決勝に続いて3番目だ」。

 ルナール監督は2012年にザンビア代表を初優勝に導き、2015年にはコートジボワール代表でもアフリカの頂点に立っているのだ。そして、モロッコ代表を率いて前回の2018年ワールドカップに出場した実績も持つ。

 さらに対戦相手のメキシコ人記者から「警戒する選手は?」と質問を受けると「メキシコの先発メンバーが知りたいのかい? 私が教えてあげようか」と笑ってみせた。そして、フランス人の記者からは、勝ち上がれば決勝トーナメントでD組のフランス代表と当たる可能性があるという質問を受けた。するとルナール監督は「勝ち上がることが全てだ。明日の試合で全てを出し切ることしか考えていない」と答えたうえで「明日の夜、試合後にもう一度同じ質問をしてくれれば、私は満面の笑みで『フランスと対戦できるのは素晴らしい』と答えてあげるよ!」と語った。

 端正なルックスでお茶目な発言を連発するルナール監督は、間違いなく今大会の主役の一人だろう。ポーランド戦の前日会見では、会見後に監督とのセルフィーを望む記者の列ができた。ルナール監督は約5分間、笑顔を作ったり、親指を立てたり、その一人一人の要望に応えてみせたのだ。

 さて、サウジアラビアは、そしてルナール監督は決勝トーナメントに進むことができるのか? 30日に行われるメキシコとの運命の一戦に注目したい。

(記事/Footmedia)

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

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