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【インタビュー】小林祐希の成長を支える人間力「俺は人間らしく生きていきたい」

2017.08.10

「年上の人と話をするのが好きですし、年上の人の心を鷲づかみにするのはうまいんですよ」

 その言葉どおり、まんまと心を鷲づかみにされた。正直、これまで抱いていた印象は、ビッグマウス、やんちゃ、生意気……。つまり、“好印象”ではなかったのだけれど、そんな先入観はたった20分の会話できれいさっぱり消えていた。小林祐希のことだ。

 結論から言うと、今回のインタビューではサッカーの話がほとんどできなかった。日本酒やお米作り、陶芸に茶道という意外なエピソードに笑い、巧みな話術に魅了され、気がつけば、私の小林に対する印象は「なんて面白いヤツなんだ!」に変わっていた。

 ヘーレンフェーンの話が聞きたかったという方がいるかもしれない。しかし、この夏の体験談を通して見えた彼の人間くささや真っすぐさこそが、サッカー選手としての成長を支えていると気づくだろう。

小林祐希

インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力・写真=ナイキジャパン

■今でも負けず嫌い、でも“良い”加減に調整できるようになった

――取材をするにあたって、小林選手のインスタグラムを拝見したのですが、日本酒を作ったり、茶道をやったりと面白いことをされていますね。
そうなんですよ。日本酒作りには以前からとても興味があって、知人に酒蔵の方を紹介してもらったのがきっかけです。日本で作っているものを世界に広めたくて、日本酒も作ってみたいと思っていました。その話を酒蔵の方にしたら、快く引き受けてくださって。そこから一緒にお酒作りを始めました。オランダにいる間もやり取りをしながら、ボトルや箱を選んだり、ラベルのデザインを考えたりして、やっと完成したんです。

茶道は、この夏に初めて体験しました。風の音や匂いを感じながら、一つひとつの所作を言葉なくして伝えるんですよ。生意気に聞こえるかもしれませんが、オランダに行って、言葉の壁をほとんど感じずにサッカーをできたのは、こういうことなのかなと。茶道をやりながら、自分のやってきたことは間違いではなかったと思えた。それがすごくうれしくて、楽しくて、早速セットを買いました(笑)。

――え? 茶道セットを一式購入されたんですか?
オランダでも毎日やりたくて(笑)。お茶をたてていると、自分の心が整えられる気がしたんですよ。道具に対する「ありがとう」という姿勢も素敵で、日本の伝統や文化をもっと世界に伝えていきたいと思いました。

――そういう気持ちが強くなったのは、オランダに行ってからですか?
そうですね。海外で生活を送るようになって、日本や日本人の良さ、日本食の質の高さを感じることができました。今は農家の方と一緒にお米や野菜も育てています。実際に話を聞いているうちに自分でやってみたくなるんですよ。「田植えがしたい!」「野菜を作りたい!」と言って、すぐに現地に飛んで行くので、農家の方ともすぐに仲良くなりますよ(笑)。

――行動力がすごい。
俺は出会いを大事にしたい。出会った人を大事にするのは、プロ選手としても、人間としても大切なことだと思う。僕は出会ったすべての人と、いい関係を築いていきたいんです。

――昔からそういう考えを持っていたのですか?
いや、まったく(笑)。小さい頃は「誰にも負けたくない」という気持ちが強くて、どんなトレーニングをしているのかさえも知られたくなかった。だって、それを真似されて、他の人がレベルアップしたら困るでしょう? という考えでしたから(笑)。トレーニング内容をSNSで発信している選手を見て、「どうして教えるんだろう? 自分だけやって、自分だけ強くなればいいのに」と思っていました。でも、サッカーは11人でやるスポーツなんですよね。全体のレベルが上がらないと、チームは強くならない。自分がいいと思っていることは、周りにも提供すればいい。そういう考え方に変わったのは、3年前くらいかな。

小林祐希

――とはいえ、今でもかなりの負けず嫌いですよね?
負けず嫌いですけど、加減がうまくなったんですよ。「俺は負けず嫌いだ!」という気持ちを少し隠せるようになったというか。“いい”加減ではなく、“良い”加減に調整できるようになったのが、今の俺の強みですね。

――そこはバランスを取ろうと意識した?
そのほうが面白いじゃないですか。表情や声のトーン、言葉の使い回しも全部サッカーに関わってくる。負けず嫌いな一面も、相手や状況に応じて出す度合いを変えるんです。いつでもトゲを出せる準備だけはしていますけどね(笑)。

――そういった変化は、酒蔵や農家の方など年上の人たちと接する機会が増えたことも影響していますか?
それはありますね。元々、年上の人と話をするのが好きですし、年上の人の心を鷲づかみにするのはうまいんですよ。ガッとつかんで、一生離さない(笑)。反対に、俺も一生好きでいてもらうために頑張りますよ。俺は人間らしく生きていきたい。

――人が大好きなんですね。
人と関わったり、話したりすることが好きですね。長所も短所もすべて個性に見えるので、「こいつは嫌い」というのがないんですよ。きっと俺のほうが「こいつ調子乗ってるな」とか、「イケイケだな」と思われていますからね(笑)。

茶道や陶芸の先生も、俺のすべてを受け入れてくれたんですよ。茶道をする時に「サッカーをやっているので、ひざを痛めないように足を崩してもいいですか?」と聞いたら、「もちろんです。自分の商売道具を大事にしてください」と言ってくれて。

――もっと作法に厳しいと思っていました。
俺もそう思っていたので、その対応だけでもうれしかったのに、「いい道具を使って、いい着物を着て。今はみんな形だけで、心が見えないんですよ。でも、私には祐希さんの心が見えましたよ。あぐらをかいてお茶をたてる人は初めて見ましたけどね(笑)」と言われて、俺は泣きそうになりました。この夏に出会った人たちは、俺のことを一人の人間として見てくれました。それが本当にうれしかったですね。

■移籍1年目は、進もうとして、進んだ

――個性の主張が強いと言われる海外ではどうでしたか?
オランダでも俺のスタンスは変わらなかった。チームにも早く馴染むことができましたよ。まあ、打ち解け方も知っているんでね。

――どんな方法ですか?
いかにバッドワードを覚えるか。いかにうまくイジられるか。その2つですね。

――ああ、なるほど。
まず、悪い言葉を3つくらい教えてもらって、それをスポンサーの人たちが出席していたパーティーの挨拶で言ってやりました。全国に生中継されていたんですけどね(笑)。でも、「ユウキすげえ!」、「あいつ、本当に言ったよ」、「あいつはクレイジーだ」とチームメートからは拍手喝采で。俺としては完璧な入り方でしたね。

――それはすごい(笑)。
ウインターブレイク明けのキャンプでは、みんなの前で椅子の上に立って、アリシア・キーズの有名な曲を大熱唱しました。俺、歌唱力はまあまああるみたいで(笑)。そこからさらに仲良くなっていきましたね。まあ、日本だったら絶対にしないですけど。

小林祐希

――やっぱり海外だから?
海外仕様のメンタリティを作り上げてからオランダに行きましたからね。恥ずかしがらない、嫌がらない。それを覚悟して行きました。

――恥ずかしがり屋には見えませんけど……。
うん、恥ずかしがり屋ではない。でも、人前で悪い言葉を使ったり、大声で歌ったりするのは恥ずかしいじゃないですか。日本では絶対にやらなかった。でも、今はそれをイジってくれて構わない。

――そういうキャラクターを作り上げたと。
そうです。上から偉そうにするよりも、「小林祐希って、こんなに面白いんだよ」というスタンスで近づいていったほうが、チームメートも距離を縮めてくれる。今では、1日に10回は「ナイスガイ」と言われますから。「クレイジー」も褒め言葉ですね。「ユー アー クレイジー」って言われたら、「サンキュー!」と答えていますよ。

それでも、彼らの我の強さには驚きました。俺がパスを出さなかったら、4、5人が「おい!」と怒りのジェスチャーをしてくるのに、自分がシュートを外したらこちらには顔も向けずに手を軽く挙げるだけですよ。最初は「こっち向いて、ごめんって謝れよ!」と思いました。それが一番の衝撃でしたね。

――ジュビロ磐田の中では、小林選手が我の強いほうに入りますよね?(笑)
そうそう。でも、全員に超えられていましたね(笑)。

――プレー面では、ユルゲン・ストレッペル監督が「ユウキはヘーレンフェーンの頭脳だ」と評価していました。
決まりごとが多かったので、プレーの自由度は低かったですけど、オランダのサッカーを知ることができた1年でしたね。その分、他の国のサッカーを経験したいと思ってしまいましたけど。

――さらに欲が出てきてしまった。
そうですね。今はいろいろな気持ちが心の中にあって、それを落ち着かせるのが大変です。

――移籍1年目はトップ下ではなく、アンカーのポジションでプレーすることが多かったですけど、そこにストレスは感じませんでしたか?
そりゃあ、最初はやりたくなかった。でも、「このポジションの楽しみ方って何だろう?」と考えるようになってからは、すごく楽しくなりましたね。「前の選手がこういう動きをしてくれたら楽なんだな」というのが、この1年間でかなり分かりました。攻守のバランスもつかみつつあるんです。ここはファウルでいくところなのか、センターバックのカバーに任せるのか、今は自分が前に出ていってもいいところなのか。プレーの幅が広がったし、結果的には面白かったですよ。

この前、茶道の先生に質問をしたんです。「お茶の道でずっと生きてきて、そのモチベーションを駆り立てるものは何ですか?」って。そしたら、「こうして指導している時、“教えている”とは思っていないんです。その人から何かを吸収しようと思って、いつもお茶をたてています。だから常に楽しいんです」という答えが返ってきました。その言葉を聞いて、俺は口が開いちゃって(笑)。一つのことを極めている人でもそうなのか? って。

同時に、俺の考えは間違いではなかったと思うことができた。やりたくないポジションをやらされて、日本代表に呼ばれない時期があって……。それでも、自分のやるべきことを楽しもうと思ったし、心がブレることはなかった。その原点を再確認できたのは良かったですね。

小林祐希

――この1年の収穫ですね。
大きな収穫だと思います。日本に帰ってきてから「表情が変わった」とか、「目力がすごい」と言われるんですよ(笑)。別に意識はしていないし、作っているわけでもないので、やっぱり何かしら変わったんでしょうね。このシーズンオフに日本の文化や自然に触れることによって、自分が成長した理由が明確に分かった気がします。

――話を聞いていると、何事も楽しんでいるのがすごく伝わってくるのですが、あれもこれもやって、疲れませんか?
全然、疲れないですね。だって、みんなが俺に100パーセントを注いでくれるから、俺は寄りかかっているだけ。俺も100パーセントで向き合えば、お互いのバランスが取れますよね。それで「人」という字になっているんでしょう? っていうのは、今思いつきましたけど(笑)。

――きれいにまとめましたね(笑)。最後の質問です。移籍1年目のシーズンを一言で表すと?
去年の目標が「進」だったんですけど、今年の総括も「進」ですね。進もうとして、進んだ。そして、これからも進む。深いでしょう?(笑)


 移籍1年目、小林はすぐにチームに溶け込んだ。本来得意とするポジションではなかったにもかかわらず、ヘーレンフェーンの軸としてリーグ戦30試合に出場した。そんな小林の成長を支えたのは、彼自身の人間力に他ならない。小林祐希は面白い男だ。欧州での2年目はどこまで進んでいくのか、期待せずにはいられない。

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