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【9連覇の軌跡】 マウリツィオ・サッリ時代編 | ユヴェントスの指揮官としての“覚悟”

2021.02.24

サッリ監督のもと、9連覇を果たしたユヴェントス [写真]=Getty Images

 就任1年目から5年連続優勝を成し遂げてチームとしてのセリエA連覇を「8」に伸ばしたマッシミリアーノ・アッレグリは、その役割を終えてクラブを去った。強化責任者であるファビオ・パラティチとパヴェル・ネドヴェド副会長を中心とするフロントが何人もの候補者の中から選んだ新監督は、かつてナポリを率いてカルチョに旋風を巻き起こし、2018-19シーズンはチェルシーを率いてヨーロッパリーグを制したマウリツィオ・サッリ。繊細なルールと規律に基づいてクリエイティブなポゼッションスタイルを体現する“元銀行員”の新監督就任には、世界中から大きな関心が寄せられた。

 1年前にクリスティアーノ・ロナウドの獲得に踏み切ったフロントは、チャンピオンズリーグ制覇に向けた“本気”の補強を継続した。精神的支柱となり得るジャンルイジ・ブッフォンをパリ・サンジェルマンから呼び戻し、同じくPSGからアドリアン・ラビオ、マンチェスター・Cからダニーロ、アーセナルからアーロン・ラムジーを獲得。ナポリ時代からサッリが重用したゴンサロ・イグアインも復帰した。さらに極めつきは、前年のチャンピオンズリーグにおけるアヤックスの快進撃をけん引したマタイス・デ・リフトの獲得である。各国ビッグクラブとの争奪戦を制したこの補強は、ブランド力の拡大とクラブとしてのさらなる“前進”を印象づけた。

デ・リフト

[写真]=Getty Images

 監督が替わり、表現しようとするサッカーがガラリと変わる転換点は、チームにとって“大崩れ”を招きかねない大きなリスクだった。それでもユヴェントスは、ユヴェントスらしく踏みとどまった。

 サッリはさまざまな“形”を試しながら、4-3-3と4-3-1-2を併用。攻撃時には狭いスペースでパスをつなぐ“サッリボール”、守備時にはナポリ時代から続く特徴的なゾーンディフェンスを少しずつ表現するようになり、セリエAでは1敗も喫することなく12月に突入した。もちろんわずかな期間ですべてを表現できたわけではなく、最後は“個の力”で相手を振り切る試合も少なくなかった。それでも、国内リーグで首位争いを演じ、チャンピオンズリーグでは無事にグループリーグを突破するなど“結果”を残した。

サッリ

[写真]=Getty Images

 雲行きが変わったのは第15節ラツィオ戦だった。この試合に1-3で敗れると、同月に行われたスーペルコッパでも再びラツィオに土をつけられてタイトルを逃す。1月にはナポリ、2月にはヴェローナに敗れ、新型コロナウィルスの拡大による長い中断期間が明けるとコッパイタリア決勝でナポリに敗北。懐疑的な声は次第に大きくなっていった。

 しかし、サッリはこの敗戦を機に開き直った。自身のスタイルへのこだわりを一時的に捨てて、ユヴェントスの指揮官としてセリエAとチャンピオンズリーグに勝利するための最善策を探ろうとした。ある意味では雑に、“力”でねじ伏せる試合が増えていったものの、セリエAでは再開後の4連勝でインテルやラツィオを大きくリード。この時点でスクデット9連覇をほぼ手中に収め、超過密日程の戦力マネジメントに注力しながら“最低限の結果”をキープした。第36節サンプドリア戦でついにリーグ優勝を決めたことで、チャンピオンズリーグに集中する環境を整えた。優勝とは言わないまでも、この舞台であといくつかの勝利を手に入れることができれば解任はなかったかもしれない。

 結果はリヨンに敗れてベスト16。ただ、ナポリでもチェルシーでも絶対に譲らなかった哲学の表現を諦めてまで勝利を追いかけたサッリのその姿に、ユヴェントスの指揮官としての覚悟を見た。その結果として手に入れた「9連覇」の事実には、間違いなく特別な意味があった。

サッリ

[写真]=Getty Images

 アッレグリ体制からのさらなるレベルアップを図るという意味において、オリジナリティの強い攻撃サッカーを志向するサッリを招へいするアイデアは決して悪くなかった。手が届きそうで届かないチャンピオンズリーグ制覇を成し遂げるためには、何か特別な一手を打たなければならない。そうした強い意志を感じる人選だった。

 しかし、誰もが想像しえない不運も重なった1年で、期待どおりの結果を残すことはあまりにも難しかった。フロントはU-23への新監督就任が内定していたアンドレア・ピルロを指名し、リーグ10連覇が懸かる新たな1年の大勝負に出た。

文=細江克弥

By 細江克弥

1979年生まれ。神奈川県出身。サッカー専門誌編集部を経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動する。近年はセリエAの試合解説などでもおなじみ。

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