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【奥深いカルチョの世界】“永遠の都”ローマで100年の歴史を誇るアマチュアクラブ――ロムーレア

2020.09.04

イタリアの首都ローマで100年の歴史を誇るアマチュアクラブ、ロムーレア [写真提供]=ロムーレア

 “永遠の都”ローマには、ラツィオとローマの2つのプロクラブがある。前者は120年の歴史を誇るが、後者は複数のクラブが融合して設立されたこともあり、創設は1927年と、まだ100年を経過していない。そして市内には、このローマよりも古い歴史を持つアマチュアクラブがある。ローマ建国者で、伝説上の王政ローマ建国の初代王、ロームルスの名を冠したロムーレアだ。

 古代ローマ時代の大建造物、コロッセオから徒歩20分の場所にグラウンドを構える、ローマ市内で最も都会にあるクラブだ。今回、このクラブの会長を務めるニコーラ・ヴィレッラさんにリモート・インタビューを行い、イタリアにおけるアマチュアクラブの現状について話しを聞いた。

ロムーレア

インタビューを快諾してくれたニコーラ・ヴィレッラ会長(中央)。今年6月には、クラブの功績が称えられFIGCのガブリエレ・グラヴィーナ会長(右)とレガ・ナツィオナーレ・ディレッタンティのコジモ・シビリア会長から賞状が授与された [写真提供]=ロムーレア

――ASローマよりも長い歴史を誇るロムーレアは来年、創設100周年を迎えます。クラブのアイデンティティ、哲学を教えて下さい。

ヴィレッラ ロムーレアは1921年に創設され、来年100周年を迎えるローマの歴史あるクラブです。クラブは、ローマの社会にとても上手く溶け込むことができ、100年の歴史を持ちながら、ラツィオ州において常にトップレベルの活動をしてきたことで、この街ではよく知られたクラブとなりました。私たちのアイデンティティは、サッカーを愛するすべての人に知られること。若い選手を育成するだけでなく、日々直面する困難に立ち向かえる人間を作っていくことのできる誠実なクラブとして認められることを望んでいます。

――私は1998年にロムーレアのトップチームのトレーニングに参加させていただきました。サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ大聖堂の聖人たちに見守られての練習は格別なものでした。クラブの生徒さんたちもこのクラブでプレーすることを誇り感じていることではないでしょうか。

ヴィレッラ 多くの子どもたちにとって、ロムーレアのユニフォームに袖を通してプレーすることは名誉であります。ロムーレアはラツィオ州で最も名高いクラブの一つで、子どもたちにとってあこがれのクラブでもあります。特に、競技レベルのコースを始めた子どもたちは、時にプレッシャーを感じることもあります。私たちは、こういった子どもたちに、親しい関係を築きながら、プレッシャーを感じさせないように努めています。

――ロムーレアでは何歳からプレーできますか?

ヴィレッラ FIGC(イタリアサッカー連盟)によって指示されているように、ベーシックコースは5歳からです。一方、競技レベルのコースは13歳から開始されます。

――クラブにはいくつのチームがあるのでしょうか? また、ここ最近は会員も増えてきたと思いますが、どれくらいの子どもたちがプレーしていますか?

ヴィレッラ ロムーレアでは約450人の少年少女がプレーし、ベーシックコースには300人が在籍しています。会員はかなり増えていて、今は限度に達しています。実は、クラブをさらによく機能させるために、外部との協力で新たなグラウンドの使用を模索しているところです。競技レベルコースのチームは5つで、ベーシックコースのチームは20。そのうち3つが女の子たちのチームです。

サマーキャンプでローマと同じ橙色と赤のユニフォームに袖を通す子どもたち。将来のプロ選手を夢見る [写真]=ロムーレア

――クラブの幹部、コーチ、スタッフは何人いるのですか?

ヴィレッラ 約60人います。

――U-19のチームが、2018-19シーズンの『カンピオナート・ユニオレス・ディレッタンティ*』のカテゴリーで全国制覇しました。どれぐらいの試合をこなしたのでしょうか?

ヴィレッラ まずはレギュラーシーズンを30試合。そして州のファイナルステージに進みました。ここを勝ち上がると、全国の州の王者によるファイナルステージを戦います。ここでは、一発勝負の決勝戦を含め7試合を戦いました。

*『カンピオナート・ユニオレス・ディレッタンティ』は、日本で知られている、所謂プリマヴェーラ、U-19のカテゴリーだ。ここで頂点に立つリーグが「カンピオナート・プリマヴェーラ1(16チーム)」、その下が「カンピオナート・プリマヴェーラ2(24チーム、2リーグ)」と続く。この2つのカテゴリーには、トップチームがセリエAとセリエBに所属しているU-19のチームが参加でき、トップチームの所属カテゴリーに関係なく、昇格降格がある。ちなみにミランは2019-20シーズンのカンピオナート・プリマヴェーラ2で優勝し、昇格となった。この2つのプリマヴェーラに続くのが、「カンピオナート・ナツィオナーレ・ダンテ・ベッレッティ」という長い名称のリーグ。通称、ダンテ・ベッレッティと呼ばれ、ここではトップチームがセリエCに所属するチームが参加しており、上位下位リーグとの昇格降格はなく、トップチームの所属カテゴリーに依る。そして、セリエDの「カンピオナート・ユニオレス・ナツィオナーレ」、ロムーレアが2018-19シーズンに優勝を果たした「カンピオナート・ユニオレス・ディレッタンティ」と細分化されている。

ロムーレア

2019年6月、ロンバルディーア州王者ヴァレジーナとのカンピオナート・ユニオレス・ディレッタンティ決勝を3-2で制したロムーレア。クラブの努力が実った瞬間だ [写真提供]=ロムーレア

――カンピオナート・ユニオレス・ディレッタンティを制した選手たちはその後もプレーを続けているのでしょうか?

ヴィレッラ 多くの選手が別のクラブでプレーを続けています。大部分の選手はアマチュアのチームで、中にはプロとしてプレーしている選手もいます。というのも、2015年からトップチームの所有を断念しました。その理由はユース部門を強化するため。クラブのグラウンドに地下鉄の駅の開発計画が持ち上がったことで、クラブの消滅の可能性が浮上し、クラブの質が低下してしまったので、ユース部門を強化しなければなりませんでした。その強化が実り、U-19チームが州と全国を制覇することができたのです。今はもう一度、トップチームを登録する準備を進めています。

――トップチームを運営していくのは難しいのでしょうか? 私がトレーニングに参加した1998年も、翌シーズンにトップチームはリーグの登録を見送っていましたね。

ヴィレッラ トップチームは非常に経費がかかります。そのためユース部門に特化した多くのクラブが、トップチームを持つことをあきらめていますね。

――クラブには外国人の選手はいますか?

ヴィレッラ あまり多くはありませんが、大部分はEU(欧州連合)の国籍の子どもたちです。U-19ではガンビア国籍の少年がプレーし、とても優秀な選手でした。

――第二次世界大戦後、ローマ市が『カンポ・ローマ』を練習場で提供していますね。無償で譲渡したのでしょうか?

ヴィレッラ グラウンドの所有者はローマ市で、1年ごとに使用料を支払っています。

グラウンド後方にそびえるのは、ローマの4大教会の一つとして数えられるサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ大聖堂。1929年にはラテラーノ条約が締結された場所としても知られる [写真提供]=ロムーレア

――ロムーレアのトレーニング施設は、アマチュアクラブの質を超えたものだと思います。イタリアではこのような施設を持ったクラブが多く存在するのでしょうか? 日本でこれほどの施設を所有するクラブを私は見たことがありません。

ヴィレッラ イタリアではすべてのクラブが施設を持っています。グラウンドは、多くのクラブが私たちロムーレアのように市からのレンタルで使用しています。民間の企業からグラウンドを借りて運営しているクラブもありますね。イタリアにはFIGC によって認可されたクラブが約9000あり、サッカーグラウンドは12000あります。

――2007-08シーズン、グラウンドの場所に地下鉄の駅の建設計画が持ち上がり、クラブは消滅の危機にありました。どのようにこの危機を乗り切ったのでしょうか?

ヴィレッラ とても難しい状況にありました。それでも、私の父、ヴィート元会長が相手側と交渉してくれたおかげで、この危機を乗り越えることができました。近隣に駅を作ることで、グラウンドをなくすことなく解決しました。その頃の5年間はとても辛く、グラウンドが使用し続けられると決まったときは感無量でした!

二重の虹がかかる「カンポ・ローマ」。地下鉄の駅の候補に挙がる危機を乗り越え、クラブはこの歴史あるグラウンドとともに2021年に100年の創設を迎える [写真提供]=ロムーレア

――そして、インテルとの提携が訪れますね。どういう経緯があったのでしょうか?

ヴィレッラ インテルはイタリアでも、世界でも最も重要なクラブの一つです。そして、ユース部門を強化しているクラブでもあります。彼らはイタリア全土の子どもたちに関心を持っていることもあって、ローマにあるクラブとのコラボレーションを必要としていました。そんなとき、ロムレーアの元コーチ、アンドレア・ストラマッチョーニがインテルのトップチームの監督に昇格したこともあり、インテルが彼を介して私たちとコンタクトをとってきました。彼らとの関係はとても強固なものとなっています。

――ロムーレアはローマ市のクラブで、クラブにはロマニスタやラツィアーレも多いのでは? そういった人たちから、インテルと提携することに反発がありそうですが……。

ヴィレッラ それはありませんでしたよ。インテルはロムーレアに信頼を寄せていることをすぐに理解させてくれました。それに、ローマとラツィオはアマチュアクラブとの協力を考えていませんから。ただ、インテルとの協力はとても難しくもあります。彼らの本拠地ミラノはローマからとても遠く、イベントを企画するのが難しいからです。それでも、これほど世界に名が知れたクラブが、ローマでのパートナーとして私たちのクラブを選択してくれたことを誇りに思っています。

――ストラマッチョーニのほか、ロレンツォ・デ・シルヴェストリ、ダヴィデ・モスカルデッリ、ヴァレーリオ・ヴェッリ、ファビオ・リヴェラーニといったOBがいますが、彼らとは今も連絡をとっていますか?

ヴィレッラ ストラマッチョーニとはよく連絡をとっています。彼はロムーレアの友人ですから。同時に、リヴェラーニとデ・シルヴェストリとも関係は続いています。モスカルデッリ、ヴェッリとは今は関わりがありませんが、また連絡がとれるようになればいいなと思っています。

――eスポーツのチームも設立しましたね。

ヴィレッラ このカテゴリーにどのように参入すべきか検討をしているところですが、真剣に進出したいと考えています。ヨーロッパのいくつかの国ではすでにこのカテゴリーが発展を遂げていて、イタリアはとても遅れをとっています(注:イタリア代表は5月に開催されたサッカーのeスポーツ欧州選手権で初代王者に)。それでも、これから成長するカテゴリーで、すぐにブームが到来すると思っています。そのときにロムーレアがイタリアのトップクラブの一つになれるようにと願っています。

――コロナウイルスにより、トレーニングができない日々が続いていましたが、いつから再開できるのでしょうか? また、政府、市町村、FIGCはからの財政的援助はあるのでしょうか?

ヴィレッラ 9月からようやくトレーニングが再開できるようになります。FIGCからの援助はわかりませんが、政府はスポーツの世界で働く人たちに月に600ユーロの給付をしてくれています。また、クラブはスポーツ専門の貸付機関から2万5000ユーロの融資を得ることもできます。

――この危機も乗り越えられると信じています。今回はこのような機会を与えていただきありがとうございました。

 私がロムーレアのトレーニングに参加させてもらったのは1998年3月。中田英寿がペルージャに入団する数カ月前のことだった。ローマには語学留学で訪れ、気楽にできるサッカークラブを探していた。イタリア入りしてから1カ月が経過していたとき、ホームステイ先のローマ市内の地図を広げると、近くにサッカーグラウンドがあることがわかり、すぐに向かった。午後から練習を見ていると、練習に参加している子どもたちの年齢が徐々に高くなり、夕方になると大人たちがピッチに現れた。彼らの練習が終わり、監督に声をかけてみる。「一緒に練習をさせていただけませんか?」。二つ返事で了承していただき、翌日から練習に参加させてもらえることとなった。スポーツ日刊紙『コリエレ・デッロ・スポルト』には、試合の結果だけでなく、記事も出ていた。本拠地「カンポ・ローマ」での公式戦に足を運ぶと、入り口で関係者に呼び止められる。「チケットを買いなさい」。すぐに、監督が寄ってきた。「この青年は私たちと一緒に練習をしているからお金をとらないであげてくれ」。練習参加をお願いしたときに話しただけの監督が、自分を仲間として扱ってくれたことも嬉しかったが、それ以上に自分が参加しているチームが、観戦料を徴収することもまた嬉しかった。プロのような気分を味わったからだ。

 トレーニングに参加した期間はわずか1カ月で、当時、このクラブの多くを知ることはなかったが、ここで練習参加していることを留学中に知り合ったローマっ子に話すとすごく驚いていたので、ただのクラブではないということを理解できていた。帰国後、ロムーレアのことをインターネットで調べ、長い歴史を持ち、プロ選手を何人も輩出したクラブだと知った。気軽に参加させてもらったクラブがこれほどの歴史を持ち、ローマで愛されているクラブだとは知らなかった。

 イタリアには、ロムーレアのように、長い歴史を持ちながらプロクラブの道を歩まず、若手の育成に力を注ぐクラブがいくつもある。近年はイタリア人選手がセリエAでプレーする割合は4割しかないが、こういった数多くの小さなクラブがイタリアのサッカーを支えている。セリエAだけでなく、その下のカテゴリーにも関心を持ち、いつかまたイタリアとの往来が自由になったとき、こういったクラブの試合を観戦するのも面白いものだ。6000万の人口を持つイタリアは、その国民の半分がサッカーに関心を持つカルチョの国。どんな小さな町にも、サッカーグラウンドがある。そこでは、日本では見られないようなサッカーに熱狂する人々の姿を目にすることがきっとできるだろう。

企画・インタビュー=佐藤徳和/Norikazu SATO

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