移民の積極的な受け入れで注目される新クラブ、アフロ・ナポリ・ユナイテッド [写真提供]=アフロ・ナポリ・ユナイテッド
世界が人種差別問題に揺れている。アメリカ、ミネソタ州では白人警察官の暴力により、アフリカ系アメリカ人、ジョージ・フロイドさんが死去。その後、アメリカで抗議デモが激化し、世界中で人種差別への反発が広がっている。サッカー界においても、差別問題は常習化しており、とりわけイタリアのセリエAでは、毎年のように人種差別コールやジェスチャーが試合中に発生し、その度に大きな問題となっている。
イタリアにおいては、アフリカから地中海を命がけで渡る難民の上陸があとを絶たない。受け入れるべきか否か、議論が尽きないなか、移民を積極的に受け入れるクラブが誕生した。アフロ・ナポリ・ユナイテッド。2015年には、クラブのイタリア・サッカー連盟(FIGC)登録を追ったドキュメンタリー・フィルム『Loro di Napoli(ナポリの彼ら)』が制作され、60年の歴史を持つフィレンツェの映画祭『フェスティバル・デイ・ポーポリ』でイタリア映画最優秀賞を受賞し話題となった。新型コロナウイルスにより、クラブは活動停止を余儀なくされているなか、クラブ副会長のフランチェスコ・ファザーノさんがインタビューに応じてくれた。
―――いつからトレーニングを再開できますか?
フランチェスコ・ファザーノ氏(以下、ファザーノ) 実はまだ、イタリア・サッカー連盟(FIGC)がボールの使用を認めていません。サッカーチームが、ボールを使えないトレーニングをしてどれほどの意味があるのか、お分かりになるでしょう。これは、医学会による命令で、我々は従うほかありません。
―――この新型コロナウイルスにより、選手たちは自宅でのトレーニングを強いられていますか?
ファザーノ そうですね。ロックダウンが始まった頃から、私たちはその対策として屋内で行うトレーニングマニュアルを選手たちに配布しました。また、故国に帰れない外国籍選手たちには、一般的なサポートに加え、食事と住居を彼らに保証し続けています。
―――エッチェッレンツァ(5部リーグ)のリーグ戦はどうなりましたか? アフロ・ナポリ・ユナイテッドは6位でプレーオフ進出(2位から5位)に手が届く順位にいます。
ファザーノ リーグ戦は、数日前に正式に打ち切りが決まりました。いずれにしろ、プレイオフ進出の目標は、厳しいところでしたから。プレイオフ進出の可能性は、全くなかったわけではありませんが、とても低いものでした。
―――今、私たちは”分断の時代”を生きています。クラブ創設は2009年ですね。移民の人々を加えるという取り組みはどのように生まれたのでしょうか?
ファザーノ 正式な創設は2009年ですが、それよりもずっと前から仲間たちの間で、多くの移民を含めて試合をしていました。時間が経つにつれて、試合に多くの選手を出場させたいという思いだけでなく、本当のリーグで自分たちの力を試したいという思いが芽生えはじめました。そうして、もう11年も前になりますが、正式にチームが誕生したんです。
―――テルツァ・カテゴリーア (9部リーグ、イタリア・サッカー連盟管轄のリーグとしては最も低いリーグ)に登録する前には、愛好家のAICS(イタリアスポーツ文化連盟の独立リーグ)に参加していました。テルツァ・カテゴリーアとはとても異なるリーグでしたか?
ファザーノ AICSには、私たちの会長が直接知人がいたほか、どんな選手も身分証明書を提示するだけで、出身、年齢など一切関係なく参加が認められていました。このため、滞在許可書を持っていない大部分の私たちの選手たちが、リーグに登録することができたんです。
―――テルツァ・カテゴリーア(9部リーグ)に在籍したときから、クラブは選手やコーチ陣に報酬を支払っていたのでしょうか?
ファザーノ テルツァ・カテゴリーアのとき、定期的な給料の支払いは行ってはいませんでしたが、必要な選手に応じて、手当を支払っていました。支援が必要な選手もいれば、それがなくてもやっていける選手もいたので。そういった支援の精神ははっきりしたもので、固いものでした。プリマ・カテゴリーアに昇格して以降、特にトレーニングの数や負担が増えてからは、手当は全員に支払われるようになっています。
―――昨シーズンは、昇格を逃しました。エッチェッレンツァは厳しいリーグでしょうか? シーズン終了ごとに、チームを強化、あるいは刷新していますか?
ファザーノ プロモツィオーネの最初のシーズンも1年で昇格はできませんでした。勝った負けたにかかわらず、私たちは常に組織の改善を目指しています。シーズン中から、来季のためでもありますが、中長期の未来に向けて、クラブをより一層強固なものとするために、若手選手やまたスタッフ、経営陣の人的資源に集中するという大きな方向転換を行いました。選手は入団・退団を行いますが、組織は残り続けます。そのため、常に高みを目指す上で、組織は、未来への土台を作るベースとなるものなのです。こういった選択にたどり着いた訳は、私たちのライバルチームが、経済的により豊かで、選手層の厚いチームを構成することができるということもあるからです。また、スポンサーの獲得だけでなく、多くのサポーターを呼び込むために、数多くの町の後ろ盾を得るためでもありました。私たちのクラブが世間に知れ渡るように、ヒントを得たのはセリエAのアタランタです。彼らは、持続可能な現実的なシーズンを送っているなかで、結果を残しながら、成果も出すことができるチームを築きました。そういった現実的な考えに着想を得たのです。
―――もし、今後セリエDに昇格した場合、必要な条件はあるのでしょうか?
ファザーノ 現在は、新型コロナウイルスの影響があり、セリエDの多くのクラブが、リーグへの持続が不可能な状況となっています。そのため、私たちがこの夏にセリエDに昇格することが提案されることもあり得ます。もちろん、綿密に精査しなければなりませんが。それでも、クラブの年齢、サッカー連盟への支払いを遵守していることなど、私たちがセリエDに昇格できる必要条件は既に満たしたものとなっています。
イタリア・リーグの構造
イタリアのリーグは、20チームから成るセリエAを頂点に、プロとアマを含め9つのリーグで構成されている。セリエAの下のリーグは、セリエB(20チーム)、次にセリエCと続く。セリエCは2014年まで、セリエC1とセリエC2の2つのリーグがあったが、財政難に陥り、存続困難となったクラブが多くなったため、1つのリーグに編成された。現在は20チームずつの3ブロックで、リーグ戦が繰り広げられている。ここまでがプロクラブで、これ以降はアマチュア組織となるが、4部リーグのセリエDは実質セミプロとして十分に生活できる報酬を得ている選手も少なくない。ここでは9ブロック、166チームがしのぎを削っており、昨年、不正が発覚し、プロリーグからの抹消が言い渡されたパレルモは、2019-20シーズンをこのセリエDから再スタートしている。その下位のリーグは、エッチェッレンツァという名称で5部リーグにあたる。州ごとに分けられ、28ブロック、463チームが登録している。6部リーグはプロモツィオーネ。53ブロック、866チームが昇格を争う。それ以降は、プリーマ・カテゴリーア(7部リーグ)、セコンダ・カテゴリーア(8部リーグ)と続き、テルツァ・カテゴリーア(9部リーグ)が最も低いリーグとなっている。この9つのリーグの登録しているチームの総数は、7381チーム。日本サッカー協会の第1種登録数(社会人・大学のチーム)が、2019年度は5079であり、イタリアの人口は約6000万と約1億2000万の日本の人口の半分であることから、イタリアでサッカーがいかに重要なスポーツであるということが分かるだろう。
後半に続く
取材・文=佐藤徳和/Norikazu SATO
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