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かけがえのない“カルチョ”のために…イタリアサッカー界がコロナウイルスとの戦いに立ち上がる

2020.03.25

“カルチョ”のために立ち上がったイタリアサッカー界のレジェンドたち [写真]=Getty Images

 多くのイタリア人にとって、カルチョは人生そのものだ。2016年に行われたStageUp社の調査では、約3170万人もの人たちが、サッカーに関心があると分かっている。イタリアの人口は約6043万人だから、実に半分以上の人たちが、サッカーに関心を寄せていることになる。

 私は昨年のラグビー・ワールドカップ開催前に、ラグビーイタリア代表のアテンドを行なったのだが、驚くことに彼らもまた、セリエAのサポーターであることを知った。トレーニングのあとには、サッカーの鳥かごでクールダウン。2メートル近い大男や100キロを超えた巨漢たちが、小技を見せる。練習にはいつもサッカーボールを携えていた。トレーニングの合間に、選手たちとバスで市内観光をした時は、車内でもサッカーの移籍話で盛り上がっていた。隣の席にいたパルマ出身のスクラムハーフ、ティト・テバルディに問いかけた。「ラグビー選手もみんな、サッカーが好きなの?」すると彼は「イタリアでサッカーを抜きに生活することなんてできないよ。俺はユヴェンティーノで、こいつはインテリスタ、それから……」と笑顔で話してくれた。サッカーとラグビーは時に”敵対関係”にあることもある。どちらが素晴らしいスポーツか、などと議論に熱が入ることもあるから、ラグビーの代表選手がこれほど熱心にサッカーを追いかけていることは新鮮だった。

トレーニング後にサッカーの鳥かごでクールダウンするラグビーのイタリア代表。彼らの話題の中心もサッカーだ [写真]=Norikazu SATO

 オリックス・バッファローズに所属した野球イタリア代表のアレッサンドロ・マエストリにインタビューをした際にも、インテリスタだと満面の笑みを浮かべて答えてくれた。サッカーの話題になると目を輝かせていたことは印象的だった。インタビューは2012年のことで、その当時日本代表監督で、インテルの監督を務めた経験もあるアルベルト・ザッケローニに会いたいと話していた。ちなみに2人は、エミーリャ・ロマーニャ州のフォルリ・チェゼーナ県出身である。

インテリスタと目を輝かせて語ってくれた元オリックス・バッファローズのアレッサンドロ・マエストリ。現在は豪州でプレー [写真]=Norikazu SATO

 国民的スーパースターのMotoGPレーサー、ヴァレンティーノ・ロッシのインテル好きは有名な話だ。インテルが好不調にかかわらず、注目を浴びることとなるとご意見番の一人としてロッシがメディアに担ぎ出されることはよくあることだ。イタリア人として初めて全英オープンを制したプロゴルファー、フランチェスコ・モリナーリもトリノ出身ではあるが、ミラノに本拠地を置くインテルのサポーターだ。彼が初めてメジャータイトルを獲得した際は、インテルが公式に勝利を祝っている。

インテリスタとして有名なヴァレンティーノ・ロッシ(右)とフランチェスコ・モリナーリ(左) [写真]=Getty Images

 サッカーとは異なる競技をするアスリートたちが、サッカーの虜でもある。要するに、イタリアにおいて、サッカーの影響力は絶大なのだ。ピンクの紙面でお馴染みのスポーツ日刊紙『ガッゼッタ・デッロ・スポルト』は連日、20ページも割いてサッカーを報じる。毎日発行しているとは思えない圧倒的な情報量だ。2018年ワールドカップは、自国の代表、アッズーリが出場を逃したにもかかわらず、フランスvsクロアチアの決勝戦の視聴占拠率は66.6パーセントに達し、約1100万人が優勝の行方を見守った。

 そのサッカーが、新型コロナウイルスの影響により、イタリアで今、停滞している。週末になれば誰もが次節の試合の話題に花を咲かせ、試合が終われば、専門家顔負けの見識を発揮する。サッカーの試合がないことで、そういった話自体ができなくなってしまっているのは、サポーターにとって、心苦しいものでしかない。まるでおもちゃをとりあげられた子供たちのような心境だろう。もちろん、サッカーだけでなく、全てのスポーツやコンサート、オペラ、映画などあらゆる娯楽が休止に迫られ、イタリアの人々は外出禁止を強いられている。イタリアだけでなく、感染は欧州全土に拡大。イタリア国内ではとりわけ北部が感染者、死者が激増し、ネガティブな意味で世界の注目を集めてしまった。外交的で、人と接することが大好きなイタリア人にとって、外出禁止はあまりにも辛い。それでも、ベランダ越しに、会話をかわして励ましあったり、歌をうたったりする陽気な彼らの姿を見ると、絶望的な数字が並ぶ中で、ついつい笑みがこぼれてしまう。

 見えない敵、新型コロナウイルスに対して立ち上がったのは、イタリアの英雄たちアッズーリだ。2006年にドイツ・ワールドカップを制して世界王者となったメンバーがイタリア赤十字を通して、募金を呼びかけている。当時のカピターノだったファビオ・カンナヴァーロは、「私と一緒に2006年の世界王者のメンバーたちが、新たな戦いに勝つために、もう一度ピッチに立つ」と、新型コロナウイルスの終息に向けて一役買っている。現イタリア代表監督のロベルト・マンチーニはSNSを通じて、連帯を積極的に呼びかけている一人だ。欧州選手権が1年延期が確実となる(開催は2021年に正式決定)と、「仮に今年行われたとしても優勝しただろうし、来年の開催でも我々が優勝する」と、明らかに通常とは違うトーンで力強いメッセージを送った。

2006年W杯を制したイタリア代表 [写真]=Getty Images

 現時点におけるイタリアの英雄は、サッカー選手ではなく、医療関係者だ。3月24日までに、人々の命を救おうと24人の医師が、新型コロナウイルスとの戦いで命を落とした。マンチーニ監督も、粉骨砕身して治療にあたる医療関係者に敬意を表し「終息したら、男女の代表選手と医師、看護師たちと親善試合をしたい。彼らは凄まじい戦いをしている。人々の命を救うため戦っている」と医療関係者の懸命の治療をねぎらい、試合の開催を提案している。

ミラノ郊外の医療現場で働く医師 [写真]=Getty Images

 この冬にミランに復帰したズラタン・イブラヒモヴィッチも支援に乗り出した。「新型コロナウイルスを蹴っ飛ばし、この戦いに勝利する。もし、新型コロナウイルスが俺のところにやってこないなら、俺の方から行ってやる」と“イブラ節”をぶちかまし、感染者が多い場所の一つ、ミラノのウマニタス総合病院への募金を呼びかけている。そのミランで、かつて名誉会長を務めた元首相のシルヴィオ・ベルルスコーニは1000万ユーロ(約12億円)もの寄付をポケットマネーで行なっている。寄付は地元ミラノの見本市会場を急遽、病院に改装中の工事に充てられる模様だ。

私費で1000万ユーロの寄付を行ったシルヴィオ・ベルルスコーニ [写真]=Getty Images

 SNSでは、サッカー選手が、リフティングでチャレンジを行い、イタリアの病院への寄付を呼びかけている。#chefaticalavitadabomber(ストライカーとしての人生はなんて辛いものだ) をクリックすると、クラウドファンディングのページが現れ、寄付できる仕組みとなっている。間も無く、目標金額の5万ユーロ(600万円)に達する見込みだ。

 今月9日にイタリア全土の外出禁止令が出され、すでに2週間が経過した。自宅に引きこもるだけでもかなりのストレスを引き起こしかねない。とりわけ、遊び盛りの子供たちにとっては、フラストレーションがたまる日々だ。そんな中、パルマは、一風変わった取り組みを行なっている。公式サイトではサッカーにまつわる書籍や映画を紹介。また、選手たちが、20世紀のイタリアにおける最も重要な児童文学作家、ジャンニ・ロダーリの童話を、インスタグラムで読み上げるキャンペーンを行なっている。そのパルマは、「パルマよりも強いチームを救おう!」と、年間シートの無観客試合となったチケット代の返金を医療チームに寄付することをサポーターに求め、すでに10万ユーロ(1200万円)が集まった。もちろん、パルマだけではなく、多くのクラブや選手たちが、新型コロナウイルスと戦う医療関係者のために支援を行なっている。

 未曾有の危機はいつ終息するのか。新型コロナウイルスに感染していることを明かしたミラン幹部のパオロ・マルディーニは「セリエAはシーズンを確実に終えることができる。ただ、いつ終わるのかは分からない」とリーグ再開の見通しが立っていないことを話した。当初は、4月3日にはリーグが再開する予定であったが、もはや絶望的な状況となった。現在はこの日からチームとしてのトレーニングが行われることとなっているが、これほどの状況では、この日程も危うい。リーグを打ち切る話も浮上しているが、今はただ、何よりもこの新型コロナウイルスとの戦いに勝つことが先決だ。

 イタリアは、アッズーリが、ワールドカップで何度も窮地から這い上がり、感動的な戦いを見せてきた。それが彼らの魅力でもあり、その戦いぶりに日本でも多くの人たちが魅了されてきた。私もその一人だ。今度もこの見えない敵との戦いで、イタリア人が持つ団結力の強さを持って打ち勝てるはずと信じている。彼らにとってかけがえのないカルチョも再び脚光を取り戻す日がくるはずだ。

文=佐藤徳和/Norikazu SATO

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