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“首位肉薄”のラツィオと“独走”のベネヴェント…期待が高まるインザーギ兄弟のダブル制覇

ともに指揮官としてのキャリアを歩むインザーギ兄弟 [写真]=Getty Images

 2人のインザーギが、それぞれのカテゴリーで主役を演じている。セリエAで首位ユヴェントスに勝ち点差1と肉薄するラツィオを率いる弟・シモーネ。セリエBで2位スペーツィアに勝ち点差17をつけて首位を独走するベネヴェントの指揮官、兄・フィリッポの2人だ。



 シモーネのラツィオは今季、スタートダッシュに失敗。SPALに敗北を喫するなど開幕から8試合で3勝3分け2敗の勝ち点12で7位とつまづいた。だが、第9節のフィオレンティーナ戦から火がつき、怒涛の8連勝。1月26日の第21節ローマ・ダービーと、スーペルコッパの開催のため、先送りされていた2月5日の第17節ヴェローナ戦の2試合で引き分けただけで、フィオレンティーナ戦から無敗街道を突き進む。11月10日開催の第12節レッチェ戦に4-2で勝利を収めて3位に浮上。12月7日の第15節ではユヴェントスを3-1で打ち負かし、さらに2月16日の第24節、インテル戦で2-1と逆転勝利を収め、今季初めて2位に浮上した。ホーム戦では負けなし。序盤戦から徐々に観客数も増え始め、インテル戦では6万2500人の大観衆がチームを後押しした。前半終了間際にアシュリー・ヤングに先制点を許すものの、50分にチーロ・インモービレのPKで同点とすると、69分には、ミリンコヴィッチ・サヴィッチが逆転弾を流し込み、2-1とした。試合をひっくり返す6分前、ホニーとフェリペ・カイセドを下げて、マヌエル・ラッツァリとホアキン・コッレーアの2人を投入して、一気に勝負に出たことが功を奏した形となった。「とても満足している。素晴らしい夜だった。とても強い相手に勝利にふさわしい結果を手繰り寄せることができたけど、まだ、多くのチームがわずかな勝ち点差にひしめきあっている」と語ったシモーネ。絶妙な采配を見せた同監督だが、まだ”優勝”の二文字は頭にないようだ。過去3シーズン、終盤に失速したことが脳裏にあるのだろう。今はただ首位ユーヴェに食らいつき、優勝争いから脱落しないように神経を尖らせているのかもしれない。

 1976年4月5日にエミーリャ・ロマーニャ州のピアチェンツァで生を受けたシモーネは、町と同名のクラブに所属しながら、下部リーグの小クラブを転々とし、1997-98シーズンに在籍したセリエC1(3部リーグ)のブレッシェッロで10ゴールをマークしてブレイク。すると、翌シーズン、当時セリエAを戦っていたピアチェンツァに呼び戻され、15ゴールを挙げる活躍を見せる。そして、1999年夏、この頃、欧州を代表するクラブであったラツィオに引き抜かれ、1999-20シーズンにリーグ戦で7得点、コッパ・イタリアで3得点を奪い、2冠達成に貢献。さらには、チャンピオンズリーグで11試合9得点を挙げる獅子奮迅の働きを披露する。国際舞台に初めて出場にもかかわらず、輝かしい戦いっぷりだった。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いはこの1年だけ。23歳でプレーしたこのシーズンが、数字的には、シモーネにとって頂点だった。このシーズンを上回る数字を残すことができず、サンプドリア、アタランタへのレンタル移籍を経て、34歳の時にラツィオで現役を引退。2004-05シーズンから引退する2010年までリーグ戦でマークしたゴールはわずか2得点と寂しいものだった。セリエAでは通算43得点。同157得点を記録した兄と比較してしまうと、大きく見劣りしてしまうのは否めない。けれども、それは現役時代に限った話だ。

 2010年にラツィオで現役生活に別れを告げると、そのまま指導者の道を歩む。ユース世代の地域リーグ、同全国リーグ、プリマヴェーラと着々とキャリアを築くと2016年4月3日、解任されたステファノ・ピオリ(現ミラン監督)に代わって、トップチームの指揮官に大抜擢される。経験がないことが不安視されるが、クラウディオ・ロティート会長の信頼を徐々に勝ち取っていく。そして、5年目の今季、ついに優勝を狙えるほどのチームに仕上げ、その手腕は高く評価されている。以前からユヴェントスの関心は噂され、インテルを撃破したあとは、ミラン、さらにはバルセロナも興味を示していることが明るみに出た。今季の開幕前の大方の予想順位は、チャンピオンズリーグ出場権獲得ができるか否か。それが焦点だった。しかし、蓋を開けてみれば、優勝争いを演じ、2位に位置する。誰もが思いもしなかった快進撃だ。ラツィオを2度目のスクデット制覇に導いたスウェーデンの名将、スヴェン・ゴラン・エリクソンも、かつての教え子の良い意味で裏切る成功に驚きを隠さない。「現役時代に、マンチーニやシメオネは監督としても成功を収めることができると思っていたけど、シモーネに関してはこれほど素晴らしい監督になるとは思っていなかったよ。それでも、一週間ごとに成長していく姿が見て取れる。よくやっているね」。また、父、ジャンカルロは、シモーネの性格についてこう語る。「以前、(ヴェスレイ)フート(現在ロイヤル・アントワープでプレー)が、試合に出れないことに不満を示した。そうしたらモネ(シモーネの愛称)は、血相を変えて怒ってね。翌日、フートは、考えをはっきりとさせようとしたようだが、息子は一週間、彼とは口を聞かなかったそうだ。結構な性格の持ち主だよ」。一見穏やかな性格のように見えるが、かなりの頑固もののようだ。そして、兄のフィリッポは「シモーネからは学ぶことしかない」と謙遜する。「ヨーロッパで最も優れた監督の一人。ピッチの上での采配のみならず、選手たちをまとめ上げる統率力も優れている。兄弟の関係以上に私たちは強く結ばれている。彼のような監督がいることはイタリアのサッカーにとって極めて重要だ」と、1日に3度は連絡を取っているという弟を手放しで称賛する。

稀代のストライカー、指導者としては“都落ち”も…兄・フィリッポの現在地

現在はセリエBベネヴェントで指揮を執るフィリッポ・インザーギ [写真]=Getty Images


 もう一人のインザーギ、そのフィリッポは現在、華やかなセリエAから都落ちし、セリエBでの戦いだ。昨季はボローニャの監督となり、ミランを指揮した2014-15シーズン以来となるセリエAで采配をふるった。10位に終わったミラン時代のリベンジの場でもあったが、第21節終了後に解任。わずか2勝しか挙げることができず、志半ばで、監督の座を譲ることとなった。さらに、後任のシニシャ・ミハイロヴィッチがチームを劇的に立て直し、長く降格圏にあったチームを最後は10位でフィニッシュさせたこともあって、フィリッポの株は著しく下がった。ヴェネツィアを率い、レーガ・プロ(3部リーグ)で優勝、セリエBでは5位でプレーオフ進出させるなど、手腕を発揮したが、トップリーグでは勝手が違ったようだ。まだ成熟した指揮官ではないというのが世間の評価だった。それでも、フィリッポは、情熱の人であることを証明する。またしても、下位リーグからのチャレンジを受け入れるのだ。フィリッポほど現役時代に華々しい成績を残した人間にとって、容易な決断ではない。

 そのクラブは、2017-18シーズンにクラブ史上初めてセリエAを戦った南部カンパーニャ州のベネヴェントとなった。同名の町には、ストレーガ(魔女)の伝説がある。それゆえ、このクラブのロゴにも魔女の姿が描かれている。今季、フィリッポが指揮するベネヴェントは、まるでその魔女の魔法がかかったかのように、凄まじい勢いを見せている。23試合を終えて勝ち点は54。これは、2006-07シーズンにカルチョ・スキャンダルによりセリエBを戦ったユヴェントスの50を上回るハイペースだ。2位スペーツィアには17もの勝ち点差をつけ、もはや後方を走るものの姿は見えない。41得点、13失点もともに最多・最少記録。爆発的な攻撃力を誇るが、驚くのは、チーム最高の得点者が中盤の司令塔、ニコラス・ヴィオラであることだ。しかも、彼の7得点もゴールランキングで首位を走るペルージャのピエトロ・イエンメッロの17得点とは大きく離されている。2トップのマルコ・サウとマッシモ・コーダがそれぞれ6得点と、いささか物足りない数字となっているが、特定の一人に依存したチームではなく、どこからでも得点が奪えるチームが作られている。ナポリやサンプドリアでプレーした実績を持つ38歳の主将クリスティアン・マッジョは、フィリッポが率いるチームをこう分析する。「秘訣は組織力。失点が少ないのはFWが最初の守備陣であるからだ。コーダが犠牲を払ってプレーしてくれている。戦い方が機能していて、個々の性格が引き出されている。強固な守備のおかげで、どこからでも得点が奪えるチームとなった」。ミラン時代もボローニャ時代も、攻守のバランスを欠くチームだったが、このベネヴェントは極めて完成度が高い。よっぽどのことがなければ、昇格を逃すことはないだろう。となれば、期待が高まるのは、インザーギ兄弟によるセリエAとセリエBのダブル制覇だ。フィリッポにとって敵は慢心だけだろう。大崩れしなければ、優勝は間違いない。そして、シモーネのラツィオ。首位ユーヴェに勝ち点差1としたとはいえ、それでも相手は8連覇中の絶対王者だ。4月下旬に予定されている第34節のユーヴェとの直接対決が、今季のハイライトとなりそうだ。宿敵ローマとのダービーとインテル戦を終えたとはいえ、まだ道のりは長い。今季は、下位に低迷するチームも上位陣を相手に“ジャイキリ”を度々見せている。油断はならない。果たして、シモーネとフィリッポの2人が勝利の美酒に酔いしれることになり、この春、イタリアで最も幸福な家族は、インザーギ家となるのか。久しぶりに壮絶な優勝争いが繰り広げられているセリエAのみならず、セリエBの行方からも目が離せそうにない。

文=佐藤徳和/Norikazu SATO

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