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ピッチ上では“イブラ効果”が表れるも…低迷するミラン、再建はまだ道半ば

今冬、約7年半ぶりにミランへ復帰したイブラヒモヴィッチ [写真]=Getty Images

 “怪物”がミランに帰ってきた。ズラタン・イブラヒモヴィッチが、2012年夏以来、7年半ぶりの復帰を果たした。

 ロサンゼルス・ギャラクシーとの契約が切れたイブラヒモヴィッチとは、2020年6月30日までの半年間の契約を締結。『コッリエレ・デッロ・スポルト』紙によると、350万ユーロ(約4億2800万円)の報酬で、期間中に公式戦の半分に出場すると自動的に2020-21シーズンの契約も延長されることになるという。その場合、来シーズンの年俸は600万ユーロ(約7億3000万円)となるようだ。背番号は21番。これまで身に纏った数字とは縁のない番号は、選択可能な中から長男に選ばせた。

 現役引退や、母国スウェーデン復帰、戦友でありインテル時代の指導者でもあるシニシャ・ミハイロヴィッチが指揮するボローニャへの移籍など様々な選択肢があったが、最終的にミランへ帰還することを決断。「この2、3週間、妻よりも(ズヴォニミール)ボバンと(パオロ)マルディーニと話しをした」とミランの2人の幹部から執拗な説得を受けたことを明かしている。クラブ創設120周年を祝った直後の2019年最終戦(セリエA第17節)で、アタランタに0-5と完膚なきまでに叩きのめされていたミランにとっては、ラディカルにチームを変えるために是が非でも獲得したい、しなければならない補強であった。

 “傭兵隊長”イブラは、母国のマルメ、アヤックス、ユヴェントス、インテル、バルセロナ、ミラン、パリ・サンジェルマン、マンチェスター・U、LAギャラクシーと幾多の錚々たるビッグクラブでプレーしてきたが、かつてプレーしたクラブに帰還するのはこれが初だ。多くのクラブからオファーを受けながら、2010-11シーズンから2年間プレーしたミランに復帰することを選択した。

 LAギャラクシーでは1年目のレギュラーシーズンに22得点、2年目の昨シーズンは30ゴールを挙げている。セリエAよりもレベルが劣るMLS(メジャーリーグ・サッカー)が舞台とはいえ、38歳のプレーヤーとしては“異常な”決定力だ。ただ、最後の公式戦が昨年10月24日のカンファレンス準決勝、ロサンゼルスFC戦で、2カ月以上も実戦から遠ざかっていることから、移籍後すぐにチームにフィットするのは難しいと懸念する声もあった。それでも、イブラ効果はすぐに現れた。

■早くも結果につながったイブラヒモヴィッチ復帰の影響

イブラヒモヴィッチ

[写真]=Getty Images

「前以上にずる賢くなった。まだレベルの高いところでプレーできる。200パーセントの力を出して見せる。戦う用意はできているし、やるべきことは分かっている。ひょっとするとそれほど走れないかもしれないが、40メートルのシュートを放てる。オレはチームのマスコットではない。『ディアヴォレット(悪魔くん=ミランのマスコット)』の横でダンスを踊るためにやってきたわけではないんだ。金ではなく、アドレナリンを求めているんだ」と1月3日に行われた入団会見ではイブラ節を全開。言葉だけではなく、その日に行われたエッチェッレンツァ(5部リーグ)所属ロデンセとの練習試合では軽快な動きを披露してみせた。絞り切った体つきも、2カ月以上の休暇を感じさせないもので、しっかりとコンディションを整えていたことが伺えた。

 そして、その3日後のセリエA第18節、サンプドリア戦。6万人近くの観衆が集まったホームでの一戦でベンチに入ると、55分にクリシュトフ・ピョンテクに代わって1トップのポジションを務めた。ダイナミックな動きこそなかったものの、攻撃の軸となり、効果的な落としを配給。ゴールを奪えずチームはスコアレスドローに終わったが、間違いなくイブラ効果は現れると期待できるパフォーマンスだった。

 その5日後、アウェイのカリアリ戦では先発出場。ステファノ・ピオリ監督はそれまでの4-3-3から4-4-2にシステムを変更し、イブラを最大限に生かすシフトを採用した。前半はイブラの高さを生かしてゴールに近づきつつもチームは無得点で折り返したが、後半開始直後に2トップを組むラファエル・レオンのゴールで先制する。そして、64分に待望のゴールが生まれた。テオ・エルナンデスの折り返しから、イブラヒモヴィッチが左足を振り抜く。シュートに威力はなかったが、優れたポジショニングから見事にコースをついた一発は経験に裏付けられたゴールで、“オレ様”イブラの健在を2試合目で早くもアピールした。さらに82分には、イスマエル・ベナセルのクロスから豪快なヘディングでゴールを割る。オフサイドにより得点とはならなかったが、体全体を使って頭で叩き込んだシュートは、イブラにしかできないもので、このシュートによってチームメイトは勇気を与えられたに違いない。

 結局この試合では、後半に入るとサイドに流れてチャンスメイクを担うなど運動量も増え、フル出場。38歳という年齢を感じさせないパフォーマンスで、惨敗を喫したアタランタ戦後に涙していた守護神、ジャンルイジ・ドンナルンマも笑顔を取り戻した。こうして2-0でカリアリを破ったチームは4試合ぶりとなる勝利を手繰り寄せ、15日のコッパ・イタリアのベスト16、SPAL戦にも3-0と快勝。イブラを起用することはなかったが、イブラ仕様による4-4-2のシステムは本人不在でも機能し、イブラ加入で火がついたピョンテクらがゴールを奪い、リーグ戦最下位の相手を一蹴した。

 アタランタ戦では、ファビオ・カペッロ監督が指揮した1997-98シーズンのローマ戦以来となる5失点での敗戦を喫するなど、地に堕ちたチームだったが、イブラヒモヴィッチの加入により、後半戦を戦える目処がたった。チャンピオンズリーグ出場権は、4位アタランタと勝ち点10差と望みはかなり低いが、ヨーロッパリーグ出場権が獲得できる6位のカリアリとは4差。9位ではあるものの、カリアリ戦でベースとなる戦いは見えてきた。後半戦は、間違いなくイブラヒモヴィッチを中心とした編成となるに違いない。

 “王様”とコンビを組む一番手は、レオン。圧倒的なスピードでチャンスメイクするだけでなく、自らゴールも狙える20歳に加え、アンテ・レビッチとピョンテクが控える攻撃陣は一気に戦力が増した。イブラヒモヴィッチが28得点を奪って得点王のタイトルを獲得した11-12シーズンのように、相乗効果も期待したい。このシーズンに10ゴールを記録して得点力を開花させたアントニオ・ノチェリーノのような存在の再来だ。ノチェリーノは二列目からの飛び出しや思い切りのよいミドルシュートで、自身初の二桁得点を記録。イブラヒモヴィッチとの“化学反応”により、得点力が増えたのは間違いなかった。サム・カスティジェホ、あるいは、ケガから完全復活を果たしたジャコモ・ボナヴェントゥーラが彼のような爆発をすることにも期待が寄せられる。また、守備陣にはマッティア・カルダラと入れ替わる形でアタランタからシモン・ケアーが加入。現役のデンマーク代表で、キャップ数95を誇る経験豊富なセンターバックだ。アタランタでは出場機会に多く恵まれなかったが、チームにもたらせるものは少なくないだろう。

■再建はまだ先か…

ミラン

[写真]=Getty Images

 しかし、イブラヒモヴィッチの加入は、突貫工事的な印象が拭えない。クラブの長期的な方向性が見えないのだ。昨年冬に獲得したピョンテクとルーカス・パケタにはそれぞれ3500万ユーロ(約42億8000万円)もの移籍金を要したが、それに見合うだけの活躍は見られない。とりわけ、22歳のパケタは入団したシーズンに10得点を奪ったカカのような活躍が期待され、プレッシャーも大きいが、ミランのようなクラブで若手を育てながら使う余裕はなく、すぐに結果が求められる。昨夏も若手中心に総額1億8300万ユーロ(約223億円)を補強に投じたが、前半戦を終えて昨シーズンの5位を下回り、全く強化されていない。そもそも、夏に獲得した選手が今シーズンのリーグ戦第1節、ウディネーゼ戦で誰一人、先発メンバーに入っていなかったことも驚きだった。マルコ・ジャンパオロ前監督と幹部の間で、意見交換が行われていたのかも疑問だ。

 そうして若手中心のチーム作りは頓挫し、ベテランのイブラヒモヴィッチやケアーを獲得して、一時凌ぎをする形となった。クラブのレジェンドであるボバンとマルディーニではあるが、サポーターからも批判的な声が多く、働きぶりは評価されていないのが現状だ。さらに危惧される問題として挙げられるのが、ドンナルンマの契約延長について。チーム一の高額年俸、600万ユーロ(約7億3000万円)を得るイタリア最高のGKとの契約は2021年6月まで。守護神の契約更新に失敗し、クラブ退団となれば、幹部2人の置かれる状況はさらに厳しいものとなろう。

 そんな中、昨年9月にある人物がミランの買収に動いていることが明るみに出た。世界最大のファッション業界大手企業体、LVMHの取締役会長兼CEO、ベルナール・アルノー氏が買収に乗り出しているという。ルイ・ヴィトンを中心に、フェンディやブルガリなどイタリア企業を傘下に収めている長者番付け世界4位の大富豪が、ミランの買収を視野に入れているようだ。一度は買収オファーを拒否されたが、10億ユーロ(約1222億円)もの巨額オファーを用意している模様で、年が変わっても買収の噂は後を絶たない。2017年4月に中国人実業家リー・ヨンホン氏からミランを買い取った米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが現在はオーナーを務めるが、それ相応の金額が提示されれば、売却の意思を見せるのではないかとも予想される。その理由として、幹部の誰一人としてスタジアムに足を運ぶことなく、サッカーへの愛着は全く見られない。単にクラブを金儲けのアイテムの一つとしか見ていないからだ。昨夏、フィオレンティーナの新オーナーとなり、足繁くスタジアムに足を運ぶロッコ・コンミッソのようなクラブへの愛は一切感じられない。

 そしてもう一つ、ミランに最後のタイトルをもたらしたマッシミリアーノ・アッレグリ監督の復帰の噂もここにきて浮上している。長期オファーの提示を準備していると伝えられており、ミランをかつてのような常勝軍団に復活させられるのは、この男しかいないのではないかとミラニスタの期待は高まっている。だが、ユヴェントス時代には750万ユーロ(約9億1600万円)もの年俸を得ていただけに、今は年間2億ユーロ(約244億円)の売り上げしかなく、欧州クラブの売り上げ高ランキングで21位と財力に乏しい現状を考えると、憶測の域を出ない噂だ。こうした話がいくつも出てくるミランに関して、ただ一つはっきりと言えるのは、再建はまだ、道半ばにあるということだけだ。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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