2019.07.09

【コラム】新体制で「強く、美しいユヴェントス」は完成するのか…“カルチョの重鎮”サッキは太鼓判

サッリ
ユヴェントスはマウリツィオ・サッリ新監督のもとで新たなシーズンを迎える [写真]=Getty Images
1998年にローマに語学留学し、同市内のアマチュアクラブ、ロムーレアの練習に参加。カルチョだけでなく全てのアッズーリをこよなく愛し、日伊協会会報誌『CRONACA』では、イタリアに特化したスポーツ記事を連載中。2017年11月『使えるイタリア語単語3700(ベレ出版)』を共同執筆。イタリア語検定協会事務局員。日伊協会にて4月より『カルチョで旅するイタリア』が開講。

 イタリアのサッカー界は、この6月から活況を帯びている。新シーズンは8月24日に開幕となるが、各クラブ間の戦いはすでにヒートアップし、連日、セリエA関連のニュースから目が離せない状況だ。とりわけ、インテルとユーヴェは、ライバルクラブの元指揮官を招へいするというアンタッチャブルな監督人事を行い、騒然とさせた。

 インテルが指揮を託したのはアントニオ・コンテ監督だ。現役時代にはユヴェントスで13シーズンに渡りプレーし、監督としても同クラブを2011-12シーズンから3年間、指揮。不振にあえいでいたチームを劇的に蘇らせ、前人未到のリーグ8連覇を果たすこととなる常勝軍団の礎を作り上げた。いわば、今のユヴェントスの象徴のような男だ。それが、宿敵インテルの指揮官に就任したのだから、古巣のサポーターも驚きを隠せず、憤慨している者も多くいる。しかし、この鬼軍曹は、指導者の道を歩み始めたときにも、裏切り行為の“前科”があった。

 コンテは南部レッチェの出身で、プロデビューからユーヴェに移籍する1991年11月まで、7シーズン半を地元のレッチェで過ごした。彼の心のクラブはユーヴェと、そしてレッチェであるはずだった。ところが、2005年から指導者の道を歩み始めた彼は、その2年後の07-08シーズン途中、レッチェと同じプーリャ州にあり、敵対関係にあるバーリの指揮官に就任したのだ。これにレッチェのサポーターは、“トラディトーレ(裏切り者)”と激しく批判。ユーヴェとインテルのそれ以上とも言えるライバル関係にあるバーリの指揮を執ったことで、ファンは容赦なかった。さらに2年目の08-09シーズンにはバーリをセリエB優勝に導き、レッチェとの関係は完全に絶たれたと言える。サポーターから見れば、裏切り者でしかない男だろう。だが、裏を返せば、強烈なプロ意識の塊のような人物と言える。宿敵であろうが、永遠のライバルであろうが、評価されれば、心情を持ち込まない。まさに、プロフェッショナルである。

 そしてもう一人、ライバル関係にあったクラブを新天地に選んだ男がいる。昨シーズンはチェルシーの指揮を執った元ナポリの監督、マウリツィオ・サッリだ。2017-18シーズンまでの3年間ナポリを率い、2位、3位、2位とユーヴェと覇権を争った。ただナポリを指導した、というだけではない。幼少期こそイタリア北部のベルガモで過ごしているが、生まれ故郷はナポリであるから、裏切り感が一層強まっている。

サッリ

ユヴェントスの監督に就任したマウリツィオ・サッリ [写真]=Juventus FC via Getty Images

 ナポリからユーヴェに移籍を果たした選手は過去にもいた。生粋のナポリ人でもあるファビオ・カンナヴァーロとチーロ・フェラーラだ。前者はパルマ、インテルでの在籍を挟んでの移籍劇であったが、後者はダイレクト移籍とあって、裏切り者以上の扱いを受けた。そのフェラーラは「サッリは指揮官。彼の職業だ。彼は素晴らしい選択をした。スキャンダルのようなものではないように思える」と同じような道を歩むこととなったサッリを擁護するコメントを残している。

 サッリといえば、現役時代にプロ経験がないままセリエAのクラブを指揮した特異なキャリアを持つ人物だ。1959年1月10日生まれ、60歳のサッリは『トスカーナ銀行』に勤務した元行員である。しかも、ルクセンブルクやスイス勤務も果たした経験を持つエリートだ。

 本職と並行して1990年にトスカーナ州のスティアというセコンダ・カテゴリーア(当時の9部リーグ)からスタートし、すぐに昇格という結果を出していく。ゆっくりとだが、着実にステップアップし、13年後にはプロクラブのセリエC2(当時4部リーグ)のサンジョヴァンネーゼを指揮することに。そして、さらに9年後の2012年にはセリエBのエンポリの指揮官に招へいされ、その2年後にセリエA昇格を実現させる。

 昇格を果たした2013-14シーズンにはセリエBの最優秀指揮官に与えられるパンキーナ・ダルジェントを獲得。満を持して臨んだ15-16シーズンのセリエAでは15位に終わったものの、チーム全員が連動し、ショートパスをつなぎながら相手を撹乱させるスタイルは多くの指導者、選手、専門家、ファンに称賛され、セリエA最優秀監督賞であるパンキーナ・ドーロを手にした。

 壮大な夢物語は終わらない。2015年夏にはナポリ指揮官に就任し、そして、チェルシーを経由してイタリアの貴婦人と呼ばれるセリエA最高峰のクラブ、ユヴェントスでの指導を任されることとなったのである。

 サッリと同じような経歴を持つ人物として、元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニや、パルマやフィオレンティーナを歴任したアルベルト・マレザーニらが挙げられる。さらにその代表格といえば、ミランやイタリア代表を指揮したアリゴ・サッキを忘れるわけにはいかない。ゾーン・プレスを編み出しサッカー界に革命を起こした、イタリアのみならず、世界のサッカー史にその名を刻んだ監督である。

サッキ

アリゴ・サッキ氏がサッリ監督について言及 [写真]=NurPhoto via Getty Images

 サッリのユーヴェ就任は、評価が割れるところだ。中には、容姿にこだわり、これまでの手腕を無視した声も少なくない。そんな声に反し、イタリア・サッカー界の重鎮サッキは、サッリを高く評価する。

「あれはナポリとカリアリ戦を観戦していたときだ。誰が私に連絡をしてきたと思うかね。(ジョゼップ・)グラルディオラだよ。彼は『試合を見ましたか? ナポリは良いサッカーをしますね。完璧に選手がポジションを入れ替わり、スペースをカバーしつつ、最高のタイミングで敵陣深くまで攻め込みます。このサッリという監督は、プロフェッソーレ(教授)です』と言った。そのおかげで、今では2人と連絡を取るようになった」

 そう言って過去のエピソードを明かしたサッキはさらに、「2014年の秋の終わり、私はアドリアーノ・ガッリアーニ(当時のミラン副会長)にサッリのことを話した。『彼を絶対に引き抜かなければいけない。この監督は、選手たちを思いのままにプレーさせるように変えることができ、美しいプレーをベースとしたサッカーを展開できる』とね。ガッリアーニは2015年の春まで彼を抑えていたが、シルヴィオ・ベルルスコーニ(当時のミラン会長)が異なる道を選択して、(シニシャ)ミハイロヴィッチを獲得することとなった」とミランに強く推薦していたことも明かしている。

 また、ナポリ時代の実績を例に挙げ、「彼が指揮したナポリはなんと美しかったことか! 調和があり、エレガントでサポーターを巻き込みながら、魅了させる。彼が指揮を執り、(ゴンサロ)イグアインは36ゴールも決めた。これはセリエAの最多得点記録だ。それからイグアインが去り、(アルカディウシュ)ミリクが負傷した。しかし、(ドリース)メルテンスのようなストライカーとは見なされていなかった選手が28ゴールも挙げたのだ。これは、サッリによって個々がプレーのクオリティを高めることを意味する」と語っている。

 ただ、サッリは新天地ユーヴェで問題を抱えることはないのだろうか、というと、そうではない。

「彼が問題に直面することは明らかだ。新たなことが生み出されるときは、必ずしも選手たちに受け入れられるわけではないからだ。クラブは監督をサポートする課題と義務を持つこととなる」と指摘。「まさに、私がミランを指揮したときに、ベルルスコーニが行ったようにだ。彼はロッカールームに入り、選手たちの前で私を擁護した。『サッキは来季もミランの監督を続投する。しかし、君たち選手の去就については分からない』とね。それから、誰も私の次のシーズンに向けての去就について疑いを持つことはいなくなった」と自らの経験を例に挙げ、クラブのサポートが不可欠だと主張した。

 ナポリに就任したときも、実績が乏しかったサッリに対しては懐疑的な声が多かった。今回のユーヴェ就任も、不安視する意見が非常に多い。けれども、伝統を重んじるばかり、新しいものを取り入れなれば、チーム、クラブは衰退していく。今回のユーヴェの選択、とりわけアンドレア・アニェッリ会長の決断は、勇気があるものであったと言える。それでも、すぐにサッリが結果を出すのは難しいだろう。サッキはアネッリの決断を称えながらも「クラブが、流行を追った末の決断であるならば、失敗を余儀なくされるだろう。アニェッリは勇敢で個性の強い男であるが、見識も持ち合わせていることを望むよ。長い期間、保守的なサッカーをしていた選手たちを変えさせるのには時間が必要なのだ」と警告している。

 果たして、サッリが窮地に陥ったとき、クラブが新任監督を擁護する度量を示すことができるか。すぐに結果を出すのは厳しいかもしれないが、時間を与えることができれば、強く、美しいサッカーを見せる新たなユヴェントスを目にすることは間違いないだろう。ティフォージにとっては、不安と期待が錯綜する1年となりそうだ。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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