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【コラム】ロマニスタが涙を流した日…偉大すぎるカピターノ、デ・ロッシがローマに別れ

2019.05.16

退団発表会見を行ったデ・ロッシ [写真]=Getty Images

 5月14日。この日はロマニスタにとって、心悲しく、辛く、長い一日となってしまった。

ダニエレ・デ・ロッシ、スタディオ・オリンピコでのパルマ戦が我々のユニフォームを着用してのラストマッチ」。現地時間午前8時、突然の公式発表だった。

 選手としてのデ・ロッシとローマの関係は今シーズンをもって終了となることがアナウンスされた。契約は今シーズン限りとなっていたが、延長の可能性も伝えられていた。しかし、それは叶わぬものとなった。フランチェスコ・トッティがローマの王として君臨した時代、デ・ロッシは“カピタン・フトゥーロ”と呼ばれていた。「未来の主将」を意味する言葉だ。トッティの後継者として、ローマの牽引者となるものと思われていたが、その時代はトッティ引退からわずか2年で終焉を迎えることとなった。トッティ引退と同じ5月、ロマニスタたちはもう一人の偉大なカピターノのクラブ退団に涙した。

 退団発表から4時間後、ローマのトレーニングセンター、トリゴリアでは退団会見が行われ、そこにはサプライズがあった。退団会見としては異例とも言える、チームメイトたちの姿があったのだ。彼らは全員が“DE ROSSI”とプリントされたユニフォームを身に纏っていた。そこにはデ・ロッシが愛用する背番号16ではなく、アラビア数字の“8”を横にした「限界のない」を意味する∞(無限)が記されていた。クラウディオ・ラニエリ監督は姿を現さなかったものの、トッティの姿も見られた。デ・ロッシは戦友たちと熱い抱擁を交わした。その中の一人、トッティ、デ・ロッシと同じ生粋のローマ人で副キャプテンのアレッサンドロ・フロレンツィは、状況が飲み込めず、抜け殻のような表情を見せていた。その表情が選手全員の心境を代弁しているようだった。

■なぜ退団…?

デ・ロッシ

選手たちがデ・ロッシのユニフォームを着て会見に出席 [写真]=Getty Images

 同席したグイド・フィエンガ・クラブ最高経営責任者(CEO)が退団の経緯を説明した。「昨日ダニエレと会い、クラブは来シーズン、選手として契約更新をしない決断を下したことを伝えた」。事実上の戦力外通告だった。フィエンガCEOは続ける。「クラブの組織の一員となって欲しいことを伝えた」。けれども、デ・ロッシが下した決断は、2001年からプレーした愛するローマに別れを告げ、現役を続行することだった。

「昨日、クラブの方針を聞いた。自分は間もなく36歳になる。バカではない。サッカーの世界で生きてきた人間だ。そういうことだと理解していた。1年、あるいは10カ月、クラブから契約更新の話がなければ、理解できるだろう。それがクラブ経営というものだ。自分はいつも契約については多くを語らなかった。多く話すことは好きではないし、話すことは何もなかった。それから、チーム、サポーター、すべての人たちの気を散らすような騒ぎも起こしたくなかった」。自らの口で、契約を延長されなかったことを明かした。

デ・ロッシ

[写真]=Getty Images

「クラブの決断は受け入れ、遵守しなければならないもの。これ以外の方法で、ローマの街を去ることは自分にはできない。まだサッカープレーヤーだと感じているし、この1年、そう感じてきた。フィジカルに問題はあるが、まだ続けたい。今、現役を退くことになれば、それは間違いとなるだろう」と現役続行の意思があることも明確に示している。そして、現役引退後の去就についても語った。

「常に言ってきたが、監督をやってみたいと思っている。そのために指導法を学びたい。幹部職についてはあらゆる面から、とりわけて自分を魅了するものはないが、このローマでは別の意味合いを持っている。物議を醸すわけではないが、私よりも先に幹部職についた人物を見てきたが、まだ、それほど影響を及ぼすようなことはしていない。我々が良く知る環境において、ほとんど何かがなされたことはない。厄介な仕事はフランチェスコに任せたい。これから彼ができる限りの権限を持つことを願っている。いつか自分の考えが変わったら、彼の仕事に加わることになるだろう」と将来的には指導者の道を歩みたいとの意向を示すと同時に、トッティがまだクラブにとっての象徴的な存在でしかないと指摘した。

 この2年の間にトッティとデ・ロッシ、二人のバンディエラがローマを去ることとなったが、幸いにもローマには、クラブ生え抜きの後輩が存在する。フロレンツィとロレンツォ・ペッレグリーニだ。前者は11歳から、後者は9歳からローマでプレーしてきた。

「アレッサンドロとロレンツォが後継者となるだろう。だけど、自分やフランチェスコのことを真似る必要はないんだ。クリスタンテはローマ人ではないが、ピッチの上で全身全霊を捧げることができるだろう。ローマにはプロフェッショナルが必要だ。そして、もしその選手がローマ人であれば、ラッキーなことだね」。昨夏に新加入したブライアン・クリスタンテに期待を寄せていることを明かしたデ・ロッシは、クラブからたった一日前に契約更新をしない旨を伝えられたにもかかわらず、終始、穏やかで清々しい表情を浮かべていた。会見で語ったように、すでにローマを去る覚悟がしばらく前からできていたのだろう。会見後、デ・ロッシはチームメイトたちと午後のトレーニングに向けて、グラウンドに足を運んだ。

■理想的なカピターノ

デ・ロッシ

[写真]=LightRocket via Getty Images

 デ・ロッシは、ローマの中心地から約30キロ離れた古代ローマの港町、オスティアの生まれだ。父、アントニオもプレーした地元のクラブ、オスティアマーレに所属。そして16歳で、アントニオが下部組織の指揮官を務めていたローマに移籍した。すぐに頭角を現し、2001年10月30日、チャンピオンズリーグのアンデルレヒト戦でデビューを果たす。18歳の時だった。それから、カテゴリー別のイタリア代表にも選出され、2004年のアテネ五輪に出場。日本戦で豪快なオーバーヘッドキックを叩き込むなど、銅メダル獲得に貢献している。

 ローマでは、トッティの786試合に次いでクラブ歴代2位となる公式戦614試合に出場。セリエAでは458試合出場48ゴールの記録を残した。チャンピオンズリーグに限れば、クラブ歴代1位の61試合でピッチに立っている。しかし、スクデット獲得には手が届かなかった。コッパ・イタリアを2度、スーペル・コッパを1度制しただけ。デ・ロッシほどの実力者にはあまりにも寂しいタイトル獲得数だ。それでも、世界王者となった2006年ワールドカップではチーム最年少選手として歓喜の美酒を味わった。ただ、グループリーグのアメリカ戦でブライアン・マクブライドに肘打ちを見舞って4試合の出場停止を受ける愚行を犯しているが……。もっとも、ピッチの上では決して優等生とは言えず、代表とクラブのキャリアで実に通算15回も退場処分を言い渡されている。勝利にこだわりすぎる気質ゆえ、時に常軌を逸した振る舞いを見せることも多々あった。宿敵ラツィオとのローマ・ダービーでは、興奮を抑えられず、自制できなくなり、途中交代を命じられることもあった。それでも、デ・ロッシがゴールを奪えばオリンピコは熱狂の渦に包まれた。顔を紅潮させながら咆哮し、歓喜を爆発させる雄姿を見れば、同じピッチに立つ仲間もティフォージもヒートアップしないわけにはいかないだろう。

デ・ロッシ

プレーだけでなく、圧倒的な存在感でチームを支えた [写真]=Soccrates/Getty Images

 イタリア代表では、歴代4位となる117試合の出場数を誇る。パオロ・マルディーニに次ぎ、アンドレア・ピルロを上回る堂々たる記録だ。そして、21度もネットを揺らした。これはトッティの9ゴールに勝る数字だ。ローマだけでなく、アッズーリでも大きな痕跡を残している。

 幼少期はサイドバックからスタートし、フォワード、トレクアルティスタ(トップ下)、そしてセントラルミッドフィルダーとポジションを変えてきた。戦術理解度が極めて高く、緊急時には、センターバックもこなすマルチロールで、ピンチの場面では体を投げ出してゴールを阻止。時には、ピルロのような前線への寸分の狂いもないフィードを供給するなど、攻守に不可欠なプレーヤーとして多くの監督から重宝される選手だった。しかし、プレー以上に評価されるべきものは、ピッチの上の存在感だろう。劣勢の場面でチームメイトを叱咤激励し、鼓舞した姿が目に焼き付いている。カリスマ性を持ち合わせた理想的なカピターノだった。

「ダニエレとローマの選択に口を挟むことはないが、ロッカールームでこれほど影響力のある主将、人物を失ってしまうのはあまりにも大きい。僕を息子のように接してくれたことにただ感謝したい。会見の後、涙を流したことを隠しはしない。このローマの街とローマのクラブにとってどれほど大切な人物であるかを証明した。規格外の選手だ。このような扱いを受けて、間違いはない。トリゴリアにやってくる前にメッセージを受け取ったのを覚えている。『僕らの家族にようこそ。自分はこの家の古い人間で、君は新しくやってきた家族だが、僕らの仲間の一人だ』ってね。ダニエレはピッチの内外でリーダーだった。とても素晴らしい選手であるだけでなく、とても素晴らしい人物。偉大なカピターノ。ローマは多くのものを失うだろう」。今シーズン、ローマの新たなスターとなったニコロ・ザニオーロの言葉が、デ・ロッシの人間性を如実に表している。ロマニスタが失ったものは計り知れない。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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