2019.02.15

【コラム】ユーヴェ撃破を成し得たアタランタの強さとは…? 綿密なプロジェクトで築き上げた理想的なクラブ像

アタランタ
コッパ・イタリアでユーヴェを破るなど快進撃を続けるアタランタ [写真]=Getty Images
1998年にローマに語学留学し、同市内のアマチュアクラブ、ロムーレアの練習に参加。カルチョだけでなく全てのアッズーリをこよなく愛し、日伊協会会報誌『CRONACA』では、イタリアに特化したスポーツ記事を連載中。2017年11月『使えるイタリア語単語3700(ベレ出版)』を共同執筆。イタリア語検定協会事務局員。日伊協会にて4月より『カルチョで旅するイタリア』が開講。

 アタランタの本拠地であるイタリア北部の小都市ベルガモが熱狂の渦に包まれている。1月30日に行われたコッパ・イタリア4回戦、本拠地アトレティ・アッズーリ・ディターリアでのユヴェントス戦は、まるで決勝戦のような雰囲気に覆われた。今季、リーグ戦と国内カップ戦でこれまで無敗だった絶対王者との戦いは苦戦が予想されたが、終わってみれば3-0の完勝だった。ユーヴェとの準決勝で2戦合計0-2と敗れた昨季の雪辱を見事に果たす形となり、フィオレンティーナとの準決勝2連戦に臨むこととなった。



アタランタ

国内無敗だったユヴェントスを相手に勝利を収めた [写真]=Getty Images

 アタランタは、セリエBを除いたタイトルで、一度だけ優勝の美酒を味わった経験がある。1962-63シーズンのコッパ・イタリア制覇だ。トリノとのファイナルで当時21歳のアンジェロ・ドメンギーニがトリプレッタを達成し、3-1で勝利をつかんだ。快挙の熱気は、大海を越え、ブラジルにまで伝わる。サンタ・カタリーナ州に多く住むベルガモにルーツを持つ人々によって、町の名前が「アタランタ」と改名される事態にまで発展したほどだ。それから56年の歳月が過ぎた今、2度目のコッパ・イタリア制覇に向けて、ベルガモの町は再び熱気を帯びている。

 アタランタの名称は、ユヴェントス、インテルと同じように、町の名称を冠したものではない。ギリシャ神話に登場する、武器を携え狩りに長ける女性の名だ。それゆえ、クラブの愛称は“デーア”、イタリア語で「女神」と呼ばれている。

 その女神が微笑み、アタランタは黄金時代を迎えている。セリエAきっての戦術家、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の存在が何よりも大きいと言えるだろう。16-17シーズンには、就任1年目にもかかわらずクラブ史上最高位の4位と躍進。昨季は7位と順位を落としたが、ヨーロッパリーグでは快進撃を見せた。リヨン、エヴァートンといった難敵と同組のグループEを首位で突破。リーグ9度の優勝を誇る古豪エヴァートンには敵地で5-1と完膚なきまで叩きのめし、ヨーロッパを驚かせた。決勝トーナメント1回戦では、ドルトムントを相手に2戦合計3-4と惜しくも敗れたが、強豪を後一歩のところまで追い込み奮戦力闘した。

ガスペリーニ

チームを率いるガスペリーニ監督 [写真]=Getty Images

 昨夏には、下部組織出身で守りの要にまで成長したマッティア・カルダラが退団する一方で補強が進まず、ガスペリーニは「寂しいカルチョメルカート。これではもっと優秀な監督が必要だ」とぼやくほどだった。実際、序盤戦は苦戦を強いられ、ヨーロッパリーグでもデンマークの雄、コペンハーゲンにPK戦の末に敗れ、予選で涙を呑んだ。

 しかし、この男が覚醒してからはチームも本来の調子を取り戻した。ドゥバン・サパタ、サンプドリアから新加入した点取り屋だ。第11節のボローニャ戦でリーグ戦初ゴールを挙げると、第14節から8試合連続ゴールをマークする。第23節を終えて16点は、得点ランキングで首位に立つクリスティアーノ・ロナウド(ユヴェントス)に2点差に迫るものだ。サパタは「誰も自分を欲していなかった。今は誰もが自分の獲得を欲している」と振り返る。前述の発言から、ガスペリーニもこれほどの活躍を期待していなかっただろうし、もしかすると獲得すら望んでいなかったのかもしれない。

サパタ

破壊力抜群の攻撃陣をけん引するサパタ [写真]=Getty Images

 サパタの獲得に関しては、フロントの功績と言えるだろう。とりわけ、テクニカル・エリア・マネージャーのジョヴァンニ・サルトーリがその能力をいかんなく発揮している。ミラン、サンプドリア、キエーヴォなどでプレーした実績を持ち、そしてそのキエーヴォでスポーツディレクターを務め、―いわゆる“ミラクル・キエーヴォ”と呼ばれた時代―、トップレベルに押し上げた立役者である。2017年にアタランタのアントニオ・ペルカッシ会長によって引き抜かれたイタリアで最高のスポーツディレクターの一人と言われる人物である。

 好調なのは、トップチームだけではない。プリマヴェーラもチームは首位を走り、その下のカテゴリー(15歳から19歳)のベッレッティでもグループAで1位に位置し、2位アルビーノレッフェに勝ち点14差をつけて独走態勢に入っている。

 アタランタはイタリアでも屈指の育成クラブとして名を馳せる。現役選手にとどめておくが、マヌエル・ロカテッリ(サッスオーロ)、ジャコモ・ボナヴェントゥーラ、リッカルド・モントリーヴォ、アンドレア・コンティ、カルダラ(ミラン)、シモーネ・ザザ(トリノ)、マノロ・ガッビアディーニ(サンプドリア)、ロベルト・ガリアルディーニ(インテル)と代表レベルのこれだけの選手がアタランタで育ってきた。育成には、トップクラブと同じレベルの年間約500万ユーロもの予算が組まれているほどだ。数多くの優秀な選手を輩出しつつ、難しいと言われる育成と勝利を同時に成功させている。

 トップチームは、4位ミランと勝ち点1差の5位。総得点は首位ユヴェントスを1ゴール上回る50得点とリーグ最強の破壊力を持つ。2年前と同じく、クラブ史上初となるチャンピオンズリーグ出場権獲得が手に届くところにある。だが、現役時代にアタランタで110試合出場の経験を持つアントニオ・ペルカッシ会長は、第23節にSPALを撃破した翌日、『Rai』のラジオ番組に出演しこう答えた。「1963年のようにコッパ・イタリアを獲得することができれば素晴らしいだろうが、チャンピオンズリーグ獲得は出来過ぎだ。コッパ・イタリア制覇が我々にとっては妥当な目標だろう。チャンピオンズリーグ出場権獲得は、投資額や売り上げ金で我々を上回るビッグクラブが目標とするもの。チャンピオンズリーグ出場は夢だ」。身の丈にあった目標が必要だと主張しているのだ。

ペルカッシ

綿密なプロジェクトでクラブを成長させるペルカッシ会長 [写真]=Getty Images

 生粋のベルガモ人で、1994年までの4年間に続き、ペルカッシが2010年から2度目の会長に就任してから、クラブはまた一つ上のステージに突入したのは確かだ。2017年にはベルガモ市からアトレティ・アッズーリ・ディターリアを購入。3500万ユーロ(約43億5000万円)を投資して4月28日から改築工事に入り、客席部分はすべて屋根付きのものとする計画だ。「ベルガモ人であれば、街のクラブを愛さないわけにはいかない」と語るペルカッシ会長の理念の下、新たなファンの獲得にも余念がない。2010年からはベルガモ市内の4つの病院で、新生児にアタランタのユニフォームをプレゼントしている。2017年には、8702人もの新しいアタランタ・ファンが誕生した。究極の“青田買い”と言えるだろう。

 突発的な思いつきでなく、綿密に練られたプロジェクトに沿ってクラブが歩んでいることは誰の目にも明らかだ。多くのクラブがモデルとしたい理想的なクラブ像が、ここベルガモにある。

文=佐藤徳和

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