圧倒的な戦力で新シーズンに挑むユヴェントスに死角はあるのか?[写真]=Getty Images
きっと、おそらく、たぶん、ユヴェントスが勝つだろう。曖昧な言葉ではなく数字で表現するなら、確率は90%。つまり、ほぼ間違いなく、ユヴェントスがセリエA連覇の記録を「8」に伸ばすと見ている。
何しろ、今夏の補強がパーフェクトに近い。
クリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、ジャンルイジ・ブッフォンが去ったGKには実力的に遜色ないマッティア・ペリンを加え、最終ラインには“イズム”を熟知するレオナルド・ボヌッチが復帰。インテルから加入したジョアン・カンセロはプレシーズンマッチで絶大な存在感を示し、アタランタからはイタリア代表に名を連ねるレオナルド・スピナッツォーラも加わった。エムレ・ジャンは中盤の選手層に厚みをもたらす即戦力だ。
昨シーズンと比較して、新シーズンの戦力は「130%」。チャンピオンズリーグ制覇を本気で狙うと公言するクラブが、その姿勢をきっちりと示した結果だ。国内7連覇を記録しているクラブがそれだけの戦力を手に入れたのだから、その強さはセリエAにおいては頭2つ抜けている。
本来なら7連覇を逃す可能性が高かった昨シーズン
ユヴェントスの牙城を崩す最大のチャンスは、実は昨シーズンにあった。
2016-17シーズン、セリエA史上初となる6連覇を達成したユヴェントスは、過去最大の手応えとともにチャンピオンズリーグ決勝の舞台に立った。相手はレアル・マドリード。戦前の予想ではユヴェントス有利の声も多く、だからこそ1-4の完敗のショックはあまりにも大きかった。
シーズン終了後には指揮官マッシミリアーノ・アッレグリのプレミアリーグへの引き抜きも噂され、新たな刺激を求めて守備の要ボヌッチが去り、ダニエウ・アウベスもたった1年でチームに見切りをつけた。サッカーそのものに対して「ハッピーじゃなかった」というD・アウベスの言葉は、ユヴェントスに足りないものをダイレクトに指摘している気がして痛烈だった。
一方、最大のライバルと見られたナポリは体制3年目にしてピークを迎え、積極補強に出たインテルもルチアーノ・スパレッティを指揮官に迎えて復権に躍起になった。事実、迎えた2017-18シーズンは序盤にインテルが快進撃を見せ、ナポリは前半戦を首位で折り返して“冬の王者”になった。ところが……。
勢い任せのインテルには熟度が足りず、レギュラーを固定したナポリは選手層の薄さを露呈して自滅した。かたや、選手たちに「3月以降が本当の勝負」と強調するアッレグリは、いつもどおり淡々と彼らを追い抜き、見事に7連覇を達成した。モチベーションが途切れ、大崩れしてもおかしくない1年を乗り切ったアッレグリの手腕はやはり本物だ。昨シーズンのスクデットは「指揮官の力で獲ったもの」と断言できる。
そうして最大の危機を乗り越えたユヴェントスは、再び精神的な充実と勝利への意欲を取り戻した。C・ロナウドの獲得はその点において大きなプラス効果を生むだろう。チャンピオンズリーグ制覇に向けて、クラブは本気を示した。既存選手のモチベーションが上がらないわけがない。
主力の慰留、新指揮官の手腕が“打倒ユヴェントス”を実現する
さて、今シーズンである。
90分の直接対決ならユヴェントスが相手でも互角の勝負に持ち込めるチームは、いくつかある。
筆頭格は、指揮官が去っても陣容がほぼ変わらないナポリだ。唯一サッリを追ってチェルシーに移籍したジョルジーニョの穴は痛いが、アマドゥ・ディアワラで十分に埋まる。何よりのプラス材料は、カルロ・アンチェロッティの監督就任によって主力を残留させられたことに他ならない。中国行きを視野に入れていたマレク・ハムシクやオファーの殺到が予想されていたドリース・メルテンスは、アンチェロッティの就任によって“打倒ユヴェントス”の継続を決意した。
サッリが作った下地の完成度は高く、システムを4-2-3-1に変えても質は落ちないだろう。やはり課題は、昨シーズン露呈した「“11人以外”の戦力をいかに有効活用できるか」にある。その点で、スクデット獲得のノウハウを知るアンチェロッティの手腕は頼もしい。
ナポリには及ばないが、インテルも楽しみだ。ラツィオからリーグ屈指のDFステファン・デ・フライ、ユヴェントスからクワドォー・アサモア、アトレティコ・マドリードからシメ・ヴルサリコを獲得した最終ラインは厚みが増し、攻撃陣にはローマからラジャ・ナインゴラン、サッスオーロからマッテオ・ポリターノとモナコからケイタ・バルデ・ディアオを獲得。早い段階で新戦力が噛み合えば、化ける可能性はある。
“3月まで”に躓くことがあれば8連覇を逃す可能性も
ローマの補強も悪くない。特に中盤にはイタリア代表の将来を担うブライアン・クリスタンテとセリエA経験のあるハビエル・パストーレ、さらにセビージャからスティーヴン・エンゾンジを加え、ナインゴラン放出の痛手を補って余りあるパワーアップに成功。前線には19歳にして大器と称されるジャスティン・クライファートを加えた。
スクデット争いを展望するなら、候補はここまで。ただし、ナポリやインテル、ローマがユヴェントスの牙城を崩すためには、CL出場権を狙うミランやラツィオ、アタランタらによるアップセットが不可欠である。
昨シーズンほどではないとはいえ、本気でチャンピオンズリーグ制覇を狙い、チームの表情を変えようとしているユヴェントスには必ず隙が生まれるはずだ。ブッフォンとクラウディオ・マルキージオを放出したチームは、何かが狂えば“イズム”が乱れ、自滅する可能性も生じるに違いない。
「ユヴェントス対その他」の構図の崩壊を促すための勝負どころは、前半戦にあり。セリエAの絶対王者は、昨シーズンまでとは毛色が違う。前半戦に大きな乱れを生じさせることができれば、アッレグリが強調する「3月以降」に“らしい強さ”を取り戻せないかもしれない。
文=細江克弥
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