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横浜FMで培った守備が鍵…現地番記者も好印象の遠藤渓太、ドイツで飛躍の1年へ

2020.08.25

[写真]=Getty Images

 1年間のレンタルという条件で遠藤渓太はドイツ・ブンデスリーガに挑戦する。8月12日に行われたヴュルツブルガー・キッカーズ(2部)とのトレーニングマッチでは先発出場を果たし、初めて新天地のウニオン・ベルリンで背番号「18」を背負って戦う姿を見せた。

 ウニオンデビューを飾ったヴュルツブルガー戦は、前日にチーム練習に合流したばかりだったにもかかわらず、ウルス・フィッシャー監督は試合後に「持っているものを見せてくれた」と遠藤のプレーを評価した。しっかりとスカウティングをした上での獲得だったことが見て取れる。さらに、チームメイトからも心強いサポートを受けているようで、初めての海外移籍でも遠藤は順調に適応しているようだ。

 プロとして最初に着用した18番を背負い、気持ちを新たにドイツでの1年目に挑む。まだプレシーズンの段階にあるため、正確な判断には時期尚早ではあるものの、遠藤が新天地で活躍する可能性は十分にありそうだ。

ウニオン・ベルリンの戦い方
 ウニオン・ベルリンは昨季、ヘディングの競り合いでリーグナンバーワンの勝率を誇ったFWセバスティアン・アンデションへの放り込みを武器に好成績を残した。昨季の“プレ・アシスト”を経由した得点はわずかに「9」。つまり、流れの中でパスが2本以上つながって得点に結びついた攻撃はたった9得点ということだ。“プレ・アシスト”を経由したチャンスの数もリーグ18チーム中17位の「163」と他のチームと比べて極端に少なく、昨季総得点の41得点中残りの32得点はセットプレー絡みが大部分を占めていた。

 相手の布陣に合わせて3バックや4バックを併用し、前線に位置するアンデションの頭を狙って長めのボールを入れ、効率良くセカンドボールを拾う。そこからをコーナーキックやフリーキックといったセットプレーを獲得し、高い確率で得点につなげるパターンを確立していた。

 しかし、今季はそのアンデションの移籍が噂されている。その代わりに新たなエース候補として獲得したのは、元ドイツ代表FWマックス・クルーゼだ。ヘディングよりも足技に優れ、中盤に下りて攻撃の組み立てもできるタイプで、2018-19シーズンはブレーメンでFW大迫勇也らとともに攻撃をけん引した。フィニッシャーとしてもチャンスメイカーとしても仕事ができるクルーゼが軸になり、そこにアタッカーの遠藤などが絡むことで、攻撃のバリエーションは増えるはずだ。

遠藤渓太に求められること

遠藤渓太

[写真]=City-Press via Getty Images


 攻撃のバリエーションが増えるということは、遠藤に求められる仕事も増えることになる。ヴュルツブルガー戦では、「3-4-3」の左ウイングでプレーし、サイドに開いてパスを受けて中央へドリブルで仕掛けるシーンが目立った。

 その一方で、続く8月15日のディナモ・ドレスデン(3部)戦では、「4-2-3-1」の2列目の左サイドながら、相手ディフェンスラインの裏を狙うセカンドストライカーに近いプレーが多かった。4バックの両サイドバックが幅を取り、2列目の両サイドを担った遠藤とFWマリウス・ビュルターはより中央のゴールに近い位置でプレーすることが求められていた。これまでのウイングとしての役割と違い、狭いスペースのなかで窮屈そうにプレーしていた印象だった。

 それでも遠藤自身はプレーの幅を広げられる可能性を歓迎している。13日の日本メディア向けインタビューでは自身の役割をこう説明した。「マリノスでやっていたみたいにウイングで張って、そこから仕掛けるプレーはたぶん求められていない。中央からサイドに開いたところで勝負とか。攻撃に関しては『アタッキングサ-ドに入ったら自分の得意なプレーを思いっきり出して良いよ』というようには言われました」

 遠藤はドレスデン戦でたびたび相手DFラインの裏に飛び出し、MFクリスティアン・ゲントナーやビュルターから何度かスルーパスやクロスが送られた。16分には、大外から相手ディフェンスラインの裏を突いて走り込むと、右サイドのビュルターが低いグラウンダーのクロスを送る。遠藤は足に当てきれなかったものの、形としては点が入ってもおかしくないシーンだった。

 加入したばかりだが、本人もゴール前で味方からチャンスをもらえていると実感している。「(海外では)確かに『パスが来ない』とはよく聞きますけど。当事者になってみると、パスは来てますし、そういう(後ろ向きな)メンタルにならない。このチームに来てありがたい話なのか、他のチームに行ったら来ないのが普通なのかはわからないです」

 これからドイツで活躍するためには、パスが来ているうちに期待に応えたいところだ。焦りは禁物とはいえ、チャンスが与えられているうちに結果を出すことで、確固たる信頼を得る必要がある。なにより遠藤自身がそのことを自覚している。「ゴール前まで自分で行って、パスを出すことが自分に求められている役割じゃないと思っている。ゴールやしっかり結果を出すことが大事なのかなと思っています」

■横浜F・マリノスで培ったフォアチェッキング

遠藤渓太

[写真]=Getty Images


 攻撃面で新たな役割が求められる一方、守備面では慣れ親しんだ部分もある。最前列から積極的にボールを追い込み、狩りに行くプレッシングだ。ドレスデン戦でも、相手のパスコースを切りながら、素早い出足とスプリントで相手の攻撃を限定させる遠藤のフォアチェッキングが機能していた。わずか数回のトレーニングに参加しただけで、淀みなく組織的なプレッシングの一端を担うことができるのは、活躍をする上でポジティブな要素の一つだろう。

「守備に関しては、引いて守ってブロックを作るような守備はしなくて、自分たちで相手をはめて、アグレッシブにボールを奪いに行く戦術です。守備に対する考え方はそんなにマリノスと変わらないなと感じました」と遠藤は振り返る。横浜F・マリノスでアンジェ・ポステコグルー監督から学んだハイライン・ハイプレスで果敢にボールを奪いに行くコンセプトはドイツでも適用できることを示した。

 このウニオン・ベルリンのプレッシングは、フィッシャー監督就任以来、チームの最大の特徴だ。ドレスデン戦でも、ひとたびプレッシングがハマった時のチームの迫力は強烈だった。3部のチームが相手とはいえ、プレッシングゾーンでボールを取りきり、相手をゴール前に押し込む時間が続いた。試合後、指揮官も「試合前日も強度の高いインテンシブなトレーニングを行った。それを考えれば、満足できる出来だった」とチームを評価していた。

 フィッシャー監督のやり方にスムーズに適応できるのは、ポジションを獲得していくための大きな鍵となるだろう。監督にとっては、新加入ながら守備戦術を理解している選手には安心してチャンスを与えられるはず。遠藤にとっても、慣れ親しみ、直感に従って自然に動けるフェーズがあることで、自分自身のプレーのリズムを作れるようになるはずだ。アタッカーである遠藤が、本来の役割である攻撃面での順応に集中できるのは、これからのポジション争いや自身の成長にとって有利に働くだろう。

■ドイツ人の番記者たちにも伝わる遠藤の覚悟
 ウニオン・ベルリンを追い続ける番記者たちの目には、日本から来たばかりの若武者が、どのように映ったのだろうか。まだ観察した試合数が少ないこともあり、プレー面の評価は限定的なものの、人柄や精神面でポジティブな印象を受けたようだ。

 地元紙『ベルリナー・クーリア』のマティアス・ブンクス記者は、「たびたび個人技から素晴らしいシーンが見られた」と話す。「ただ、まだ他のチームメイトとの連携の面では欠けていた部分もあった。だが、ケガの影響で全体トレーニングに合流して少ない日数では普通のことだ。今は少しずつチームに馴染んでいく段階だろう」

 さらに、ブンクス記者は地元記者陣との囲み取材でもドイツ語で挨拶し、通訳の山森順平氏の力を借りながらでも自分の言葉で伝えようとする姿勢に好感を持ったようだ。「これまでの印象では、とても礼儀正しく、新しいことを学ぼうとする意欲を見せている」

 地元紙『メルキッシェ・オーダー・ツァイトゥンク』のウーヴェ・ヴットケ記者は「ポジティブな意味で目を引いた」と遠藤の能力を認めている。「ボールの扱いや、ゴールに向かう姿勢などがいい。彼がチームやベルリンの生活に慣れて、ドイツのサッカーにも適応できるようになれば、ウニオンにとっていい補強となるだろう」

 地元紙『ターゲス・シュピーゲル』のキット・ホールデン氏も、遠藤をスピードあるアタッカーとして評価していたが、最も印象に残ったのはその人柄だったようだ。「数日前にインタビューを行ったが、静かで成熟していて、精神的にも強そうだ」と第一印象を語った。また、遠藤が現地の取材陣に「すぐに横浜F・マリノスに帰ってしまうのではなく、欧州に留まり続けるために戦う。たくさんの障害があるだろうということを自覚して移籍を決めた。その障害を乗り越えたいのです」と話したことで、ブンデスリーガで戦う覚悟を感じ取ったという。

 通訳として多くの時間を一緒に過ごす山森氏も、遠藤に対してクレバーな印象を持っていることをドイツ誌『キッカー』に明かしていた。「ケイタは、無理せずに周りに順応することができる。落ち着いているが、多くのものを観察している」

 ドレスデン戦の試合開始前には、左サイドでコンビを組むDFニコ・ギーセルマンとジェスチャーを交えながら動きを確認し合い、給水タイムにはパスの出し手のゲントナーと動き出しのタイミングを確認する姿が見られるなど、自分からチームに適応できるように着実な歩みを見せている。

■チームの目標の1部残留へ導けるか

遠藤渓太

[写真]=Getty Images


 遠藤がチーム内でポジションを獲得できたとしても、ウニオン・ベルリンにとっては2シーズン目のブンデスリーガも厳しい戦いになるだろう。昨季は1部初挑戦のクラブにとっては好成績と言える11位でシーズンを終えた。それでもフィッシャー監督は「今シーズンの目標は15位、残留だ。十分に難しい目標だ」と現実を見つめている。

 遠藤自身は、「試合に出られるようになったら、10点には絡みたい。年間を通して5ゴール、5アシストぐらいを目標にしたいです」と意気込む。昨季リーグ戦のチーム総得点が「41」だったことを考えると、チームの総得点の4分の1に絡む計算だ。自身の活躍でチームを残留に導ければ、欧州に留まり続けるための扉は自然と開かれる。

「自分はレンタルの立場なので、このチームでしっかりと結果を残して、ヨーロッパで活躍することが本来の目標です。こっちで活躍してれば、自ずとオリンピックへの出場もついてくると思うので、この一年は自分の結果を求めていけばいいと思います」

 すぐに日本に戻るつもりはない。なにより遠藤自身が活躍への強い覚悟を持っている。退路を断ち、不退転の決意で完全移籍を目指す。

取材・文=鈴木達朗

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