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【インタビュー】“新たな壁”に悩み、楽しんだ移籍1年目…浅野拓磨がこだわる「最後の質」とは

2017.07.11

 海外挑戦1年目、浅野拓磨は「最後の質」という言葉を何度も口にした。それはストライカーとして永遠の課題かもしれないが、経験や技術によってそのニュアンスは変わってくるはずだ。

 22歳の浅野が言う「最後の質」とは何を指しているのか。シュトゥットガルトでの経験はプレーの選択肢を増やした。それと同時にパスなのか、シュートなのか、どこを狙うのか……。そういった迷いが生まれ、思い切ったプレーにブレーキをかけることもあった。絶対的な正解がないからこそ迷う。自身が下した昨シーズンの評価は「30点」。若きストライカーはインタビュー中にも悔しさを滲ませていた。

 一方で、その試練を楽しんでいた自分もいたという。「この壁に当たっている感じが、どこか懐かしくもあるんですよ」。もがいた先に、見えるものがきっとある。

浅野拓磨

インタビュー・文=高尾太恵子
取材協力・写真=ナイキジャパン

■ワンランク上の難しさを感じている

――昨年末にお話を伺った時は前半戦を「40点」と総括していました。1シーズンを終えての感想を聞かせてください。
トータルで30点ですかね。やっぱり最後の印象がすごく大事で、それまで試合に出ていてもラスト3試合に出られなかった選手と、ずっと試合に出ていなかったけれどラスト3試合に出て優勝を手にした選手だったら、後者のほうが自己評価は高いと思います。

――そうかもしれませんね。
シーズンを振り返ってみても、手応えを感じたプレーより、悔しがっている自分の姿が思い浮かびます。僕にとって納得のいくシーズンではなかったですね。

――この1年、浅野選手からは「最後の質」という言葉をよく聞きましたが、具体的に「最後の質」とは?
技術はもちろん、シュート場面でコースやタイミングを見極める力であったり、ゴール前で落ち着いて決められるようなメンタルであったり。シュートだけではなく、クロスやラストパスの質も上げていかないといけないと思っています。

――メンタル面でいうと、海外選手と日本人選手では「自分が決めてやる」という意志の強さに差を感じることがあります。
まあ、確かに外国人のほうがエゴイストというか(苦笑)。自分を押し出す強さを感じることはありますけど、僕だって「最後は絶対に自分が決めてやろう」といつも思っています。ただ、そういう気持ちで試合に臨んでいたとしても、パスがいいと判断すればパスを出しますよ。

――シュトゥットガルトや日本代表で複数のポジションを経験したことで、ゴール前での選択肢が増えたと思いますが、その中から瞬時に判断しなければいけない難しさもあるのでは?
全くそのとおりで、サンフレッチェ広島時代よりワンランク上の難しさを感じています。ドイツでプレーして視野が広がりましたし、判断時の余裕も出てきたと思います。難しいのは、たとえいい判断をしたとしても質が悪かったらパスが通らない、シュートが決まらないというところですね。選択肢が増えたことで、「こっちもあったかな」、「あっちはどうだったんだろう」と考えてしまうので、その辺の難しさもあります。何も考えずに「絶対にシュートで終わる」と決めてしまったほうが、思い切り打てるし、打っている自分も気持ちいいとは思いますけどね(笑)。

――考えすぎるとプレーにも影響しそうです。
そうなんですよ。調子が悪い時ほど、考えてすぎている自分がいるんですよね。

――それはある意味、集中できていないということでしょうか。
集中できていないというよりは、一つのプレーに自信を込められていないと言ったほうがいいのかなあ。「絶対にシュートを打つ」と決めていたほうが、ボールが来た時に自信をぶつけられる。でも、目の前の選択肢が多いと「お、来た!」というよりは、「わ、来た!」という感じになってしまうんですよ。そこで周りを見る余裕は持てるようになっているから、パスコースを見てしまって、シュートのタイミングが遅れたり……。

――例えば最後のシュートが決まらなかった時、「パスを出しておけば良かった」と思うことが多いですか? それともシュートコースで後悔することが多いですか?
シチュエーションにもよりますけど、僕は「こうしておけば良かった」ではなく、「こういう選択肢もあった」と考えるようにしています。ラストパスであろうと、シュートであろうと、自分のプレーに対してもっと自信を持つべきだと思うんです。ただ、自信は持っても、過信してはいけない。ミスで終わった時は課題としてしっかりと向き合う必要があるし、選択肢を増やすことはレベルアップするために必要なことだと思います。

浅野拓磨

■自分自身に期待している

――「最後の質」と一言で表すのは簡単ですが、たった数秒の間に選択肢を見極め、判断して、決断する。とても難しいことですよね。
そうですね。でも、この壁に当たっている感じが、どこか懐かしくもあるんですよ。プロに入った時もできないことばかりで、悩んでいたなって。同じように、昨シーズンは「ここをどう乗り越えるか」ということばかり考えていました。海外に移籍して、日本代表にも入って、自信をつけていく中で、どこか過信していた部分があったんだと思います。試合に出られることが当たり前になっている自分がいて、シュトゥットガルトでベンチだった時はすごく落ち込みました。でも、広島時代は試合に出るために常に100パーセントを出していたし、それを楽しんでいた。「自分はまだまだ」と思っているほうが、僕らしくできる。そんな感覚を思い出した1年でしたね。

――悔いが残る1年ではあったけれど、楽しくもあったと。
楽しかったですよ。試合に出るために何が必要なのか。練習を100パーセントでやれているのか。そう自問自答することが多かったです。ステージが上がったからこそ取り戻した感覚ですね。全体練習が終わってからも居残り練習をして、毎日クラブハウスを最後に出ていました。

――移籍1年目は自分を見つめ直す機会にもなったようですね。
考える時間は増えましたけど、練習場を出たら切り替えるようにしていました。プライベートで考えすぎないように、家では本当にぐだぐだしていましたよ(笑)。

浅野拓磨

――家でのリラックス法は?
iPadで日本のドラマやバラエティ番組を見ることです。僕は家でサッカーを見ないんですよ。小さい頃からテレビで見るのは日本代表戦くらいだったかな。ドイツに来た当初は選手を全然知らなくて、名前を覚えるのに必死でした(笑)。

――対戦する相手が未知数のほうが楽しかったりするのでは?
そうなんですよ。僕は昔から、実際にピッチで感じて、どう対応するかを考えるタイプなので。

――「30点」と総括した1年でしたが、収穫も多かったようですね。
30点は次に向けて伸びしろがあるということ。自分がどうなっていくのか楽しみですね。潰れるも、上り詰めるも本当に自分次第。今は自分自身に期待しています。

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