リベロの新境地を開拓し、フランクフルトの堅守を支える長谷部
アイントラハト・フランクフルトの長谷部誠はニコ・コバチ監督から与えられた試練を難なくこなし、高いプロ精神と戦術面での柔軟性を証明している。
コバチ監督は昨年10月に行われたドイツサッカー連盟カップ(DFB杯)のインゴルシュタット戦で長谷部をDFとして起用した。その試験的な起用法がうまくはまったことで、ブンデスリーガでも直後のメンヘングラートバッハ戦(ボルシアMG)戦から3バックを採用。この戦術変更がチーム状態を好転させた。
フランクフルトはボルシアMG戦以降、リーグ戦で6つのクリーンシートを達成。第19節終了時点でチーム総失点はわずか15と鉄壁の守備を見せている。総得点こそ25と物足りないが、それでも10勝5分け4敗と確実に勝ち点を積み上げて3位をキープ。 高い守備力を武器に躍進を続けている。
日本代表のキャプテンを務める長谷部は、2009年にウォルフスブルクでブンデスリーガ制覇を経験。フランクフルトでは2014年の加入以来、わずか5試合しかリーグ戦を欠場していない。ブンデスリーガ通算出場数でも日本人最多記録(234試合)まであと3試合。豊富な経験と高い戦術理解を誇る長谷部が最終ラインに加わったことで、フランクフルトの守備は圧倒的に強度を増した。
長谷部は過去2シーズンで右サイドバックや守備的MFでプレーし、すでに万能性を見せていたが、今季は新たなレパートリーとして“守備的プレーメーカー”を加えた。偉大なるフランツ・ベッケンバウアーのようなリベロとしての役割を本人も楽しんでいるようだ。「経験を生かしてチームに貢献できていることに満足している。MFよりもプレッシャーが少ないので、よりボールを持つことができる。監督が僕の新たな役割を見いだしてくれてうれしい」
コバチ監督も期待に応えてくれた長谷部を称賛。「唯一無二の存在で、徹底的なプロ意識を備えている。ザルツブルクに宮本恒靖という選手がいた。彼は長い間代表キャプテンを務めた日本のアイコンだったが、ハジ(長谷部)には『今は君がアイコンだ』と伝えたよ」
事実上、コバチ監督は長谷部を中心としたチーム作りをしているが、引退後に監督を目指す長谷部にとっても指揮官がインスピレーションとなっている。「この10年間、日課として監督の指示や行動をメモしている。引退後は監督になりたいし、コバチ監督のようなやり方で指揮を執りたい」
両者は監督と選手という間柄でしっかりと信頼関係を築き上げている。彼らの素晴らしい関係性は、長谷部がいずれ迎える現役引退の日まで続いていくだろう。