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憧れのイングランドからも得点なるか…落ち着きと情熱を兼ね備えたチェコの新エース

2021.06.22

クールで熱いチェコの新エース、シックの活躍に期待だ [写真]=Getty Images

 ヨーロッパ11都市で開催されているEURO2020は、グループAからCまでの最終節が行われ、最終節を終えていない4チームを含めた11チームの決勝トーナメント進出が決まった。これまでに生まれたゴール数は「71」。1試合平均2.37ゴールというペースであり、なかなかエキサイティングな大会となっている。

 その中で「ベストゴールを選べ」と言われたら、まず候補に挙がるのが45メートル超のロングシュートだろう。14日に行われたスコットランド代表戦で、チェコ代表FWパトリック・シックがハーフウェーライン付近から決めたロングシュートは、「EURO史に残る一発」と世界中で称賛された。EURO1996で得点王に輝いた元イングランド代表FWアラン・シアラーも「タイミング、テクニック、自信、そしてチャンス、全てが完璧に組み合わさった完璧なゴールだった」と絶賛したほどだ。

 本人によれば、あれは“狙ったシュート”だったという。「前半にGKの位置をチェックしていた。彼は高い位置をとっていたから、ボールがきたときに彼の位置を素早く確認した。高い位置にいるのが見えたから、シュートを打ったんだ」とは、試合後のコメントである。

 シックは続くクロアチア代表戦でも、先制点を奪った。鼻血を出しながら、自ら得たPKを見事に決めた。ここまで3ゴールは、ベルギー代表FWロメル・ルカク、オランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥム、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドと並ぶ今大会トップタイ(21日終了時点)。ノーマークだった選手が開幕直後から得点を量産して一躍ブレイクを果たす――ワールドカップやEUROのようなビッグトーナメントで時折見られる光景だが、今回はシックがその主人公になろうとしている。

クロアチア戦では鼻血を出しながらもPKを仕留めたシック [写真]=Getty Images

 あるいは、シックの活躍を見て、元チェコ代表FWミラン・バロシュを思い出すファンもいるかもしれない。EURO2004でチェコをベスト4に導き、自身も大会得点王のタイトルを獲得。現役時代にリヴァプールやガラタサライで活躍したレジェンドを引き合いに出して、「シックは2021年版のバロシュになるかもしれない」という声も聞こえてくる。

 とはいえ、チェコメディア『iDNES』は「シックとバロシュはかなり似ているし、全く違う」と評する。「利き足(シックは左利きで、バロシュは右利き)も異なれば、ストライカーのタイプも違う。(中略)シックにはバロシュのような運動量や、ずる賢さ、信じられないスピードはないが、テクニック、創造性、落ち着き、そして何より自信がある」というのだ。

ミラン・バロシュ

チェコの旧エースFWバロシュ [写真]=Getty Images

 同メディアによれば、シックはメンタルコーチのもと、様々な視点でサッカーを分析しているという。スコットランド戦についても、「頭の中で3回はシミュレーションして、プレーしてみた」と本人は試合後に語っている。だから、ロングシュートが決まるか決まらないかは運もあるが、“狙って蹴った”のは間違いない。大胆なひらめきは、日頃からの努力の賜物でもあるのだ。

 ただ聡明で、感情をコントロールできるのは、良いことばかりではない。結果を出していれば、それが彼のキャラクターとして容認されるが、そうでなければ「ピッチ上では飄々とした印象を与え、時にはやる気がない」(『iDNES』)ように見えてしまう。母国の名門スパルタ・プラハを飛び出して、イタリアに渡るも、サンプドリアとローマでは思うように結果を残せなかった。高額な移籍金がプレッシャーとなった可能性もあるが、クール過ぎる性格も裏目に出たと言えそうだ。

 だからこそ、スコットランド戦でゴールを奪ったあと、中継カメラに向かって雄叫びを上げたシックの姿を見て、驚いたファンもいたようだ。「あれが本当のパトリック・シックだ。彼は火山のように熱い男なんだ」。シックの代理人は彼の素顔をそう語る。2019年からプレーするドイツで成長のキッカケを掴んだシックは、ようやく本来のポテンシャルを発揮しつつある。EUROという大舞台でゴールを挙げたことで、より大きな自信を掴んだはずだ。

得点後に喜びを爆発させたシック [写真]=Getty Images

 そんなシックが最も楽しみにしている試合が、22日のイングランド戦である。シックの母イヴェタさんによると、シックの子供の頃のアイドルは“デイヴィッド・ベッカム”。「よくベッカムのユニフォームを着ていましたし、本も読んでいました」と、『iDNES』に語っている。

 シックの“イングランド熱”は相当なようで、8歳のときにはスパルタ・プラハがマンチェスター・Uをホームに迎えた試合をスタジアムで観戦。当時10代でピッチに立っていたウェイン・ルーニー(元イングランド代表FW)を見て、ああなりたいと思ったそうだ。「目の前でルーニーが走っていた。普通の仕事には就かず、彼のように生計を立てたいと思ったんだ」と、あるインタビューで明かしている。

 もちろん、現在のイングランド代表には、ベッカムも、ルーニーもいない。むしろフィル・フォーデンのようなシックよりも年下の選手たちとピッチ上で相まみえることになる。とはいえ、ハリー・ケインというワールドクラスのストライカーがいて、中盤から前線にかけてのタレント力は今大会屈指だ。

 チェコとイングランドは今大会の予選でも同じグループに入り、お互いにホームで1勝ずつを挙げた。ただ今回の舞台となるウェンブリー・スタジアムでは、イングランドが5-0と圧勝。シックやチェコにとっては苦い思い出であり、これが絶好のリベンジマッチとなる。イングランドにしても、勝ち点で並ぶチェコに勝たなければ、首位突破することができない。決勝トーナメント1回戦を“ホーム”ウェンブリー・スタジアムで戦うためには、絶対に勝たなければならないゲームなのだ。両チームともに決勝トーナメント進出を決めているが、意地とプライドをかけた好ゲームが期待できるだろう。

 果たして、シックは3戦連発となるゴールを決めることができるのか。徹底的にマークされることが予想されるが、それも彼にとっては想定内だろう。試合のシミュレーションを繰り返し、ゴールを奪うパターンを何通りも準備しておく――いつものルーティーンでピッチに立てば、恐れるものなど何もないのだから。シックはあくまで、シックらしく。冷静と情熱のストライカーから目が離せない。

(記事/Footmedia)

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