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【ユーロ総括】敗退は必然だったのか? 王者の称号を失ったスペイン代表が抱えていた問題とは

2016.06.29

ユーロ3連覇を目指したスペイン代表だがイタリアに屈しベスト16で敗退

 ついに、スペインから“王者”の称号がなくなる。2年前のブラジル・ワールドカップで“世界王者”の称号を失ったのに続き、ユーロ2016でもタイトル防衛に失敗。奇しくも、4年前の決勝で引導を渡した相手に敗れて、“欧州王者”の資格を失うことが決まった。

 27日に行われたユーロ2016決勝トーナメント1回戦。イタリアと対戦したスペインは、0-2で敗れた。相手GKジャンルイジ・ブッフォンの好セーブがあったとはいえ、試合後、ビセンテ・デル・ボスケ監督が「内容では明らかにイタリアのほうが良かった」と振り返ったように、相手の方が一枚も二枚も上手だった。

 この試合のキックオフ数時間前、スペインの一般紙『エル・パイース』は、この試合に向けたプレビュー記事を掲載した。その見出しは「スペインは、スペインらしくあらねばならない」。デル・ボスケ監督が試合前の会見中に発した「スペインがスペインらしくあることが重要」というコメントに同調したものであった。

「スペインらしくあること」とはつまり、お馴染みの精密なパスワークを主体としたポゼッションサッカーで戦うことである。しかし実際に彼らがピッチ上で見せたパス回しは、“ティキ・タカ”と呼ぶにはほど遠いものだった。

Italy v Spain - Round of 16: UEFA Euro 2016


イタリア戦ではポゼッションサッカーが機能せず内容的にも完敗を喫した [写真]=Getty Images

 試合のスタッツを見ても、イタリア戦で“スペインらしさ”が発揮されていなかったことは証明されている。

 イタリア戦では、ボール支配率(59.3%)、空中戦勝率(47.6%)、パス数(55)、パス成功率(84.5%)、クロス成功率(26.9%)、シュート数(14)といった項目で、今大会の最低値を更新。一方、これまでになく高い値を叩き出した項目は、ロングパス数(58)、ペナルティエリア外からのシュート数(8)、シュート枠内率(35.7%)だった。シュート枠内率が高いことは良いことだが、さらに詳しく見ていくと、タックル数(11)、クリア数(13)、ファール数(13)の3項目がグループステージ3試合での平均値を上回っていた。スペインがいかに自分たちの土俵で戦えていなかったか、よく分かる。

 とはいえ、絶好調時のスペインであれば、イタリアが見せた強烈なプレスをいなすこともできたはず。実際、後半の特定の時間帯ではそれができていた。しかし、ジェラール・ピケの言葉を借りるなら、今のチームは「ユーロやワールドカップを制覇したときのレベルになかった」ということになる。

 ただし、問題はチームのレベル低下ではなく、スペインが長らく抱える“弱点”が解決されていなかっただけとも言える。レアル・マドリードの元監督で、スペインサッカーを熟知しているカルロ・アンチェロッティ氏は、英国紙『テレグラフ』に寄稿するコラムのなかで、こう指摘していた。

「スペインは変化することができない。彼らは1つのやり方しかしない。それは相手の隙を見つけて、パスを出し、ボールを保持することだ」

 要は“プランB”の欠如である。自分のスタイルを貫くことで活路を見出そうとしたスペインにとっては、耳の痛い話かもしれない。一方で、イタリアのアントニオ・コンテ監督は試合後、「見たか? 我々は、カテナチオだけじゃないんだ!」と自慢げに語っていたものである。

 もっとも、デル・ボスケ監督はブラジル・ワールドカップでの惨敗以降、何もしてこなかった訳ではない。むしろ、様々な試行錯誤を重ねてきた。システムについては、[4-3-3]だけでなく、[4-2-3-1]や[4-4-2]もテスト。最前線には、バレンシアのパコ・アルカセルやアルバロ・モラタ、そしてアリツ・アドゥリスなど純粋なストライカーを起用し、“ゼロトップ”からの完全脱却を図った。

 その成果として、今大会ではモラタを1トップに抜擢し、彼と共に主要国際大会デビューとなるノリートを左ウイングに起用。後方では、イケル・カシージャスではなく、ダビド・デ・ヘアを正GKに指名した。その決断は周囲の予想を良い意味で裏切り、初戦のチェコ戦に完封勝利を収めたことで、国民やメディアからも好評を得ていた。

Italy v Spain - Round of 16: UEFA Euro 2016


イニエスタを徹底的にマークする“スペイン対策”を上回る戦い方を見出せなかった [写真]=Getty Images

 しかし、ピッチに並ぶ顔ぶれが変わったとはいえ、戦い方まで一新されたわけではなかった。アンドレス・イニエスタとセルヒオ・ブスケッツを封じられると打つ手なし、という問題は未解決のまま。初戦から4試合連続で同じスタメンが採用されたのも、相手の“スペイン対策”を上回る戦い方を提示できなかったことの裏返しであり、クロアチア戦、イタリア戦と、ほぼ同じパターンで敗れ去ったのもチームとして限界を示すものであった。

 失望の結果に終わった今、デル・ボスケ監督は批判の矢面に立たされている。スペインのスポーツ紙『マルカ』による緊急アンケートでは、「デル・ボスケはスペイン代表監督を続けるべきか?」との問いに対して、実に90%以上のファンが「No」と回答。また同紙のエミリオ・コントレラス記者は、スペインが敗退した理由の1番手にデル・ボスケ監督の名前を挙げ、「なぜ2年前のブラジル・ワールドカップ敗退後に辞めなかったのか?」と痛烈な批判を展開している(もちろん、記者のなかには、同監督に感謝する者もいる)。

 しかし、デル・ボスケ監督だけに多くの非難が集まる現状には、大きな違和感を覚えざるを得ない。確かにイタリア戦だけを見れば、デル・ボスケ監督の無策ぶり、対応力の無さが敗因だったことは否めない。だがここに至る過程で、チームはピッチ外でも少なくない問題を抱えていた。それがメディアの存在である。

 今大会の開幕直前には、デ・ヘアに性的暴行疑惑が浮上。本人はすぐさま会見を開いて身の潔白を証明したが、この疑惑は後に、スクープとして報じたあるメディアの売名行為だった可能性が指摘されている。またペドロが、大会中の出場機会の少なさに不満を漏らして物議を醸したときには、選手側が「大袈裟に取り上げすぎ」とメディアの報道姿勢に苦言を呈した。

 ただ、それだけでは収まらず、クロアチア戦では、国歌演奏中にピケが中指を立てるパフォーマンスを見せたとして、メディアの間で大騒ぎに(ピケにその意図があったかどうかは本人しか分からない)。そしてイタリアとの大一番の前には、デ・ヘアに正GKの座を奪われたカシージャスがデル・ボスケ監督に不満を抱えており、クロアチア戦でのプレーを拒否したという根も葉もない噂が出回った。

 こうした騒動の数々に、火消し役に徹し続けてきたデル・ボスケ監督も、最後には会見場で怒りを爆発。悪意ある報道を続ける一部のメディアに対して厳しい言葉を投げかけた。

Italy v Spain - Round of 16: UEFA Euro 2016


ユーロ敗退によりデル・ボスケ監督には多くの非難が集まっている [写真]=Getty Images

 時計の針を戻せば、ユーロ予選期間中から、代表戦開催時における最大の関心事は、ピケのカタルーニャ独立問題に対する発言や態度であり、彼に対するファンのブーイング問題であった。極端な話、試合の結果や内容は二の次だった。もちろん、ピケ本人の振る舞いにも問題はあった。ただし、偏った報道を続けるメディア、そして代表チームのサッカーに関心を持たないファンの方にも落ち度はあったと言える。そんな状況下で代表チームが国際舞台の頂点を狙うのは、簡単なことでなかったはずだ。

 なおピケ自身が、今大会の開幕前に行われたスペインのラジオ局のインタビューで興味深いコメントを残している。

「スポーツの世界では、勝つこともあれば、負けることもある。ただそれを人々は理解しない。(プロテニス選手の)ラファエル・ナダルも、連戦連勝というわけではない。今はバスケットも欧州王者(注:昨年行われたバスケットの欧州選手権でスペインは優勝)であり、僕らも前回大会の王者としてユーロに臨むけれど、今はどの競技でも勝ち続けることが当たり前のように思われている。でも20年前まで、僕らは何も勝ち取ったことがなかったんだ。過去の栄光の数々を振り返るのも良いが、同じように現実を直視しないといけない」

 スペインには「悪く慣れる」という言い回しがある。最高のものに触れ続けると、そのありがたさを感じることができなくなるという意味だ。スペインのファンやメディアはまさにそうした状態に陥っており、代表チームの現状を直視していない――ピケはそう警鐘を鳴らしたかったのかもしれない。

 そして迎えた27日のイタリア戦で、スペインは重く辛い現実を突き付けられた。敗軍の将となったデル・ボスケ監督はいよいよ退任濃厚と報じられ、『マルカ』が認めたように、これで1つのサイクルにピリオドが打たれるようだ。だがそれは、新たなサイクルの幕開けを告げることを意味する。現地メディアでは早速、新監督や新たな代表チーム像について活発な議論が交わされているところだ。

 この8年間、“最強”の座に君臨してきたスペイン。史上初のユーロ3連覇を逃したことには、大きな悔いが残るだろう。だが、スペイン国内のサッカー界全体に漂っていた閉塞感を打破するチャンスが到来したと考えれば、敗退が持つ意味はネガティブなものだけではないはずだ。

(記事/Footmedia)

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

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