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街の景色も、行き交う人々の姿も、日常も変わってしまった。でも……

2020.06.11

[写真]=Getty Images

 雲ひとつない快晴が広がる6月の午後。久々に共用自転車「Bicing」に乗り、街の中心へ向かった。

 久々に訪れたグラシア大通りは、驚くほど多くの人であふれていた。まだ外国人が入国できない鎖国状態にあるなんて、にわかには信じられないほどの数だ。

 それでも、これが最近よく聞く「新たな日常」の風景であることは、細部に見て取ることができる。

 道ゆく人の半数以上は、色とりどりのマスクで口を覆っている。立ち並ぶ高級ブティックの中にはシャッターを下ろしたままの店舗もある。

 カサ・ミラ、カサ・バッジョといったガウディ建築の周囲に、観光客らしき人の姿はない。一方、ZARA、H&Mといったファッションショップの前には、入場制限による行列ができている。

 グラシア沿いにあるバルサの公式ストアは、他店舗に先駆けて5月25日に営業を再開していた。

陳列されるバルセロナマスク [写真]=工藤拓

 アルコールで両手を消毒して店内に入ると、すぐ右手に最近発売された3種類のバルサマスクが目に入った。オンラインストアでは初日から品切れになっていたが、ここにはかなりの数が陳列されている。ふと考えてみると、まだ街でこのマスクを付けている人を見かけたことがない。やはりこのご時世に1枚18ユーロは高すぎるのではないだろうか。

 そんなことを考えながら店を出て、カタルーニャ広場へ。たくさんの鳩が飛び交う広場の中心には、スペインでも話題となっているジョージ・フロイド氏の追悼モニュメントが設置されていた。

カタルーニャ広場に並ぶメッセージ [写真]=工藤拓

 モニュメントを囲む「Black Lives Matter」のメッセージを後にし、ランブラス通りに入っていく。両脇の路面店は落書きだらけのシャッターを降ろしており、以前より道幅が広く感じる。

 名物だったストリートパフォーマーたちの姿もない。バルサのユニフォームを着てリフティング芸を披露していた“ロナウジーニョ”を最後に見たのは、いつ頃だっただろうか。

 しばらく進むと、一件だけ営業中のキオスコがあった。店員に聞いてみると、今は午前中だけ開けている店がほとんどだという。外国人の入国が許されるのは7月から。観光客が戻ってこないことには、全く商売にならないのだそうだ。

ランブラス通りの路面店はシャッターが閉まる [写真]=工藤拓

 広場へ戻り、バルやレストランのテラス席が並ぶランブラ・デ・カタルーニャを歩く。この通りも人で賑わい、どの店にも空席は見当たらない。

 緊急事態宣言の発令からもうすぐ3カ月。スーパーや薬局への買い出し以外に外出が許されなかった当初と比べ、バルセロナの街は随分と活気を取り戻してきた。

 もう以前と全く同じ生活を取り戻せることはないのだろう。それでも人々は「新たな日常」を構築すべく、力強く前進している。

サグラダ・ファミリアから伸びるアベニダ・ガウディのテラス席 [写真]=工藤拓

 それはフットボールも同じだ。

 5週間で11試合。気温30度を超える地域も出てくるこの時期に、選手たちは十分な準備期間も取れぬまま、週2ペースの連戦を強いられることになる。

 見るほうも大変だ。スタジアムへ行けない以上、有料放送に加入していないファンは、どこかのバルで試合を見るしかない。だが需要が増える一方、店側はキャパシティーの40パーセントを超える集客が許されていない。バルサ戦の夜は特に、席の確保が困難を極めることだろう。

近所の老舗バル。バルサ戦のある13日は予約で一杯だという [写真]=工藤拓

 僕はというと、ひたすらテレビで試合を追うことになりそうだ。スタジアム取材が許されるペン記者の定員は、1試合たったの6人。現時点ではまだ他州への移動も禁じられている。

 とはいえ試合のない日々が当たり前になりつつあった体には、連日のテレビ観戦だけでも重労働となるに違いない。ようやく早寝早起きに慣れてきた生活リズムも、すぐに以前の夜型に戻ってしまうはずだ。

 そんなことを考え、少し億劫に感じる時もある。だが、それも今だけだろう。ひとたびボールが転がれば、結局僕らはその光景に目を奪われ、胸を高鳴らせてしまう。蹴球馬鹿とはそういう生き物なのだ。

 先日メッシが言っていた。

「この日常と同様に、フットボールも元どおりになることはないと思う」

 バルセロナの街並みと同様に、再開後のフットボールも以前と全く同じではいられないのだろう。

 それでもフットボールは自分を含めた多くの人々にとって、欠かせない生活の一部であり続ける。それだけは変わることがないはずだ。

文=工藤拓

ラ・リーガ

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