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【コラム】本拠地メスタージャで4カ月ぶり勝利も…泥沼から抜け出せないバレンシア

2017.01.19

ホームで4カ月ぶりの白星を挙げたバレンシアだが、今後も厳しい戦いが予想される [写真]=NurPhoto via Getty Images

 試合終了の笛を聞いた瞬間、ブラジル代表GKは右腕を挙げ、ガッツポーズをしながらこう口にした。

「やっと終わった」

 スペインのカナル・プルス局の番組『エル・ディア・デスプエス』はジエゴ・アウヴェスを追っていた。彼はその言葉を口にすると深呼吸をし、やっと連敗街道から抜け出したという安堵の表情を浮かべた。

 リーガ・エスパニョーラ第18節、バレンシアは本拠地メスタージャでエスパニョールに勝利した。実に9月22日に行われた第5節アラベス戦以来のホームでの勝ち星だ。チームは1試合消化が少ない(クラブワールドカップを戦ったレアル・マドリードとのリーグ戦が順延されている)とはいえ、降格圏内の18位スポルティング・ヒホンのひとつ上、17位と低迷している。特にメスタージャでの戦績が悪い。8試合で2勝2分4敗。ヌーノ・エスピリト・サント氏が率いていた2014-15シーズンは、ホーム19試合で15勝3分1敗と強かったが、今や昔だ。今シーズンはめっぽう弱い。なぜならメスタージャは今、ビジターではなく、ホームチームにとって圧力鍋となっているからだ。

 原因は単純だ。ポルトガル代表MFアンドレ・ゴメス(バルセロナ)、ドイツ代表DFシュコドラン・ムスタフィ(アーセナル)、スペイン代表FWパコ・アルカセル(バルセロナ)を売却し、監督をころころと替えるからだ。オーナーのピーター・リム氏の経営は、とてもクラブのことを考えているとは思えず、バレンシアニスタの不満は今や怒りへと変わっている。2014年10月5日には歓声で迎えられたシンガポール人実業家も、2年後の今はメスタージャのスタンドに「出て行け」という横断幕が掲げられ、貴賓席に向かって同じ文言をコールされるようになった。だが貴賓席には何の決定権もないチャン・レイフン氏という眼鏡をかけた女性の会長がいるだけで、当のリム氏は昨シーズンの5月以来、メスタージャに姿を見せていない。その上、彼の娘がインスタグラムで父親を批判するバレンシアニスタに反論し、議論を起こした。

 軋轢は外だけでなく、内でも起こった。年末年始には9月28日に就任したイタリア人監督チェーザレ・プランデッリ氏が12月30日に辞任を発表し、スポーツディレクターのヘスス・ガルシア・ピタルク氏も1月7日に去った。イタリア人指揮官は同会長が補強について約束を破ったからだと話し、スペイン人ディレクターは「私が考えていないことを守ることはできない」、「私は(批評という雨を避けるための)傘のような気分だった」とコメントした。前者は補強の約束を反故にされ、後者は自分の意見を参考にもせず、オーナー主導で補強を進めた挙句、やって来た選手の低調の矛先はすべて自分に向かうことに、もう我慢がならなかったのだろう。

 今シーズンのバレンシアはいびつである。たとえば、スペイン人MFダニエル・パレホだ。キャプテンを務めたことがある名手は、昨夏にセビージャからのオファーがあった時に退団を願い出た。クラブが放出を拒否するとトレーニングで怠慢な態度を示し、合宿先のオランダで全体練習から隔離されたことがあった。1度はクラブに背を向けたそんな選手が、開幕から中盤では欠かせない戦力としてプレーしている。過去に飲酒運転で捕まった過去があるパレホは、今シーズンはパーティーで深夜まで飲み歩くプライベートな写真がメディアに出た。翌日がオフで飲んでいた時の写真だとしても、バレンシアニスタはもう、そう受けて止めてはくれないだろう。

 バレンシアは今冬、ファイナンシャル・フェアプレーのためにパレホを売却したいが、彼に代わる人材を見つけるのも難しい。スペイン紙『マルカ』は「バレンシアのジレンマ」と報じる。昨夏にセビージャが1400万ユーロ(約17億円)のオファーで獲得しようとしたが、今冬にそんな額を提示するチームが現れるのかは疑わしい。このようにパレホだけを見てもバレンシアの悪循環ぶりが顕著に出ている。

 D・アウヴェスは「やっと終わった」と言ったが、彼が心の底から安堵するのはいつになるのか。ひとつの勝利は、泥沼から息継ぎするために口を出しただけに過ぎない。バレンシアは、まだ泥底から伸びる手に足をきっちりとつかまれている。

文=座間健司

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