FOLLOW US

千載一遇の“再出発” トッテナム、逆転CL圏内へ…ケガ人復帰で“モウリーニョ・マジック”なるか

2020.06.13

[写真]=Getty Images

 今年2月、ジョゼ・モウリーニョは冗談を飛ばしていた。

 成績不振とケガ人の続出に嫌気がさし、すぐにでもシーズンを打ち切って7月から再出発したいと漏らしたのだ。その頃のトッテナムは、絶対的エースのハリー・ケインに始まり、ソン・フンミンムサ・シソコといった主力が相次いで離脱し、チャンピオンズリーグ(CL)ではラウンド16でライプツィヒの前に屈していた。

 何もかもうまくいかない状況に、思わずモウリーニョは「早く7月1日になって、ハリー、シソコ、ソンたちとプレシーズンを迎えたい」と吐露した。そのときはまだ、モウリーニョの希望が叶うなんて知る由もなかった――。

 コロナ禍の影響で3月中旬から中断したプレミアリーグは、6月17日にようやく再開を迎える。トッテナムの再開後の初戦は、モウリーニョの古巣マンチェスター・Uとの大一番だ。

 こうして「7月1日から再出発」というモウリーニョの願いは、思いもよらぬ形でほぼ希望どおりに実現した。元日にハムストリングを負傷して手術を受けたケインは、すでに完全復活を遂げている。ソン・フンミンに至っては、腕の骨折が癒えただけでなく、中断期間中に兵役義務まで終えてしまった。ほかのケガ人も漏れなく戻ってきた。これでリーグ再開後は、8位から巻き返しを図れるはずだ。

ソン・フンミン

腕の負傷も癒え、笑顔で調整するソン・フンミン [写真]=Getty Images

 それにしても1年前のマドリードでの失意から、これほどまで様変わりするものだろうか。栄冠まであと一歩に迫りながら、リヴァプールの前に涙をのんだチームを率いていたのはマウリシオ・ポチェッティーノだった。

 ポチェッティーノは、スタジアム移転に伴う緊縮財政により、思うような補強できない状況下でも結果を残し続けたが、徐々に主力がチームを離れ始めたことでテコ入れを図った。昨夏はクラブ史上最高額でタンギ・エンドンベレを連れてきたし、ジオバニ・ロ・チェルソも獲得した。だが、両者はケガの影響もあって馴染むのに時間を要し、今シーズンは完全に出鼻をくじかれる形となった。

 何より、クラブキャプテンのウーゴ・ロリスが認めるように、CL決勝で味わった喪失感をなかなか拭えなかった。そして10月初旬のCL、ホームでバイエルンに2-7の大敗を喫すると、その4日後にはリーグ戦で格下のブライトンに0-3と完敗した。

 結果が出ない日々が続き、ポチェッティーノ監督は選手たちのモチベーションどころか、時に自分の士気さえも上げられないように映った。そして11月、ダニエル・リーヴィー会長は苦渋の決断を下した。ポチェッティーノに代えてモウリーニョを招聘したのである。

 モウリーニョは就任直後こそ公式戦3連勝を飾ったものの、その後は8試合で4敗を喫するなど急場しのぎが通じないことを痛感。そして、ケインが離脱してからは16試合で5勝しかできずにロックダウンに突入した。

ハリー・ケイン

順調に調整を進めているハリー・ケイン [写真]=Getty Images

 現在8位のトッテナムはCL出場権を獲得できる4位以内を目指すわけだが、一筋縄ではいかないだろう。残り9試合で4位チェルシーとは7ポイントも差が開いている。さらにトップ4争いは、5位マンチェスター・Uや6位ウルヴァーハンプトン、7位シェフィールド・U、9位アーセナルまでも虎視眈々と狙うため、いつになく熾烈を極める。

 一方で朗報もある。FAカップから敗退しているトッテナムはリーグ戦だけに専念できる。加えて、残りのカードを見ると、再開直後のマンチェスター・U戦やアーセナル、レスターとの対戦が残っているものの、いずれも本拠地での試合だ。苦手なアウェイゲームに関しては、シェフィールド・Uくらいが厄介な相手と言えるだろう。

 何より、リーグ中断のおかげでモウリーニョが切望していた「プレシーズン」を異例のシーズン中に行うことができた。そしてケガ人が戻ってきたことで、就任後に4-3-3、4-2-3-1、3-5-2と限られた戦力で試行錯誤していた指揮官の望むベストな布陣を組むことができる。

 残り9試合は、モウリーニョが絶対的な勝負強さを発揮するカップ戦のファイナルのようなもの。特に19日のマンチェスター・U戦は、万全の準備をしたうえで臨める。モウリーニョならではの奇策も考えられるが、やはりこういう試合では経験値を重視した人選になるだろう。なかでもDFラインはそういったメンバー構成が予想できる。

 一方で中盤では、ジョゼップ・グアルディオラを唸らせたこともあるエンドンベレが、ようやく非凡なポテンシャルを最大限に発揮するはずだ。というのもモウリーニョは「ケガが多い」と一時は同選手を見放しかけたが、中断期間中には親身になって指導していたのだ。

タンギ・エンドンベレ

真価発揮へ期待懸かるエンドンベレ [写真]=Getty Images

 そして最前線には、元気に練習する姿が公開されているエースが戻ってくる。ケインのサポート役には、ソン・フンミン、デリ・アリ、ルーカス・モウラ、そして1月に加入したステーフェン・ベルフワインから2名を選べばいい。何とも贅沢な陣容だ。そう考えると、中断前には想像できなかったほど、ラストスパートに期待できそうだ。

 リーグ最終戦となるアウェイのクリスタル・パレス戦は、順調にいけば7月26日になるだろう。もしその日を、CL出場権の可能性を残したまま迎えることができたなら、それはモウリーニョの半ば嘆きのような“願い”が思わぬ形で叶ったからにほかならない。

文=ジェリー・コックス
翻訳=田島大(Footmedia)

プレミアリーグ

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

BACK NUMBER2020欧州再開特集のバックナンバー

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO