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CL出場権は夢物語じゃない……いや、たとえ夢に終わっても、アーセナルから目を離すべきではない

2020.06.12

[写真]=Getty Images

 今シーズンの前半戦は、ここ数年の苦悩とは比べものにならないほどの異常事態だった。

 それは、すでに開幕前から始まっていた。主将のローラン・コシェルニーが夏の遠征への帯同を拒否し、退団したのである。その影響で新キャプテンが決まらないまま開幕を迎え、“あの大事件”へと発展した。10月のクリスタル・パレス戦、選手間投票で主将に任命されていたグラニト・ジャカが、交代時にファンから大ブーイングを浴び、衝動的に暴言を吐いてしまったのだ。当然、腕章を剥奪されることになり、何とかトップ4争いに食らいついていたチームも下降線をたどることになる。

 そもそも、ウナイ・エメリ体制2年目となる今シーズンは、チャンピオンズリーグ出場権が目標だった。そのためにクラブ史上最高額の7200万ポンド(約95億円)でニコラ・ペペを連れてきたのだが、新チームが軌道に乗る前に内部崩壊を迎えてしまった。

 無論、キャプテン騒動はその一端に過ぎない。遠い過去に思えるが、メスト・エジルを使わない采配が議論を呼んだのも今シーズンの話である。守備に不安を抱えるダヴィド・ルイスの是非が問われたこともある。それどころか、序盤戦は陣形やメンバーが一度も定着しなかった。

 そして、前述のキャプテン騒動でチームは完全に崩れた。クリスタル・パレス戦から泥沼にはまり、42年ぶりに公式戦9試合未勝利という不名誉な記録まで残した。結局、エメリは11月末に解任され、OBのフレドリック・ユングベリが暫定監督を任されるも、トップチームでの監督経験がない彼には荷が重く、浮上のきっかけをつかめないまま次にバトンをつないだ。その“次”とは、ジョゼップ・グアルディオラの右腕にして、元アーセナルの主将であるミケル・アルテタだ。

 指導経験で言えばユングベリと変わらないが、彼にはペップとの濃密な3年間があり、それだけがアーセナルの希望だった。果たしてその希望はどうなったかというと、変革とまではいかないまでもチームは着実に進歩を遂げた。

 最大の変化は、以前よりも組織化されたことだ。ペップが得意とする偽サイドバックを試験的に採用した試合もあるし、そもそも守備の約束事が定着した。基本形は4-2-3-1ながら守備時には4-4-2に変形するなど、陣形が明白になったことで選手から迷いが消え、強度を持ってプレーし始めたのだ。おかげで失点数は1試合平均「1.5」から「0.9」に減少。クラブMVP級の活躍を見せるベルント・レノの安定もあり、守備面は短期間で大幅に改善された。

 あとは、アルテタ就任後のリーグ戦10試合で5分け(4勝1敗)と勝ち切れないドローゲームを、どうやって勝利に変換するか。リーグ再開後の焦点はそこだ。

中断前最後の試合でも途中出場から決勝点を挙げたラカゼット [写真]=Getty Images

 カギを握るのはアレクサンドル・ラカゼットの起用法だろう。先日の練習試合で豪快なボレーシュートをたたき込むなど、その決定力に疑いの余地はない。中断前、アルテタは機動力を優先して最前線に若いガブリエウ・マルティネッリやエディ・エンケティアを先発起用していたが、ラカゼットには一発で仕留める力がある。例えベンチスタートになっても、去就が騒がれるピエール・エメリク・オーバメヤンとともに、その決定力が物を言うはずだ。

 ペップの影響だろうか。アルテタ監督は交代カードの切り方に定評がある。ここまでリーグ戦で28回の選手交代を行い、投入された選手が4ゴール(2ゴール、2アシスト)に絡んでいる。「交代7回につき1点」という計算だ。これは恩師ペップ(8.8回)より優れ、今シーズンのプレミアリーグで最も選手交代が的中しているレスターのブレンダン・ロジャース(6.5回)に迫る数値だ。そして、アルテタ体制での“交代ゴール”を2点とも決めている選手こそ、ラカゼットなのだ。

 それだけではない。リーグ再開後は交代枠が「3」から「5」に増えるため、必然的に選手交代が今まで以上に勝敗を左右する。

 現在、アーセナルは勝ち点40の9位。このままでは、ここ四半世紀で最低の順位に終わる。だが、5位のマンチェスター・ユナイテッドまではわずかに5ポイント差だ。マンチェスター・シティがファイナンシャルフェアプレー違反で欧州カップ戦から締め出されれば、まだまだアーセナルにもCL出場権のチャンスがある。

 アーセナルの残り10試合を見ると、その半数が上位チームとの対戦であることが分かる。難敵ばかりなのは確かだが、勝てば自ずと順位は上がっていく。だからCL圏内も決して夢ではないのだ。そして、勝敗以外にも楽しみがある。若手の成長だ。

 前述のマルティネッリ(18歳)やエンケティア(21歳)を始め、左ウイングながらサイドバックで起用されるブカヨ・サカ(18歳)やボールを運べるジョー・ウィロック(20歳)など、今シーズンは定期的に若手がチャンスを得ている。交代枠の拡張によって、出番はさらに増えるだろう。来シーズンには、現在サンテティエンヌにレンタル移籍している19歳のフランス人CB、ウィリアム・サリバが合流する。

 だから、仮にCL出場権争いから脱落することがあっても、アーセナルから目を離してはならない。チームの未来がそこにあるからだ。

 まずは再開初戦となる6月17日のマンチェスター・シティ戦である。アルテタが恩師ペップに挑む一戦は、いきなりのナイトゲームで、日本時間の早朝に開催だ。DAZNの画面の前で眠い目をこする、そんな幸せな日々がようやく戻ってくる。

文=田島 大

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