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“奇跡”から3年。レスター再躍進のなぜ?

2019.11.15

 本日11月15日に発売となった雑誌『SOCCER KING』12月号では、「異変だらけの序盤戦、36のなぜ?」と題し、各国の序盤戦で生まれた36の疑問に迫っている。そんな雑誌『SOCCER KING』12月号から、一部コンテンツを公開!

WHY? 02
【PREMIER LEAGUE】

“奇跡”から3年。レスター再躍進のなぜ?

文=田島 大 Text by Dai Tajima
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

※データはプレミアリーグ第10節終了時のもの

 上位6チームの顔ぶれが史上初めて3年連続で変わらなかったプレミアリーグで、「6強」に割って入ろうというチームがある。開幕10試合を終え、3位につけるレスターだ。

 ここまで10試合で勝ち点20。これは、奇跡の優勝を果たした15-16シーズンの同時期を2ポイントも上回るペースだ。敗戦を喫したのは敵地でのマンチェスター・ユナイテッド戦とリヴァプール戦の2つだけ。選手個々の実力も、アーセナルやユナイテッドに引けを取らない。一部では、4年前の“ミラクル・レスター”よりも強いとささやかれているし、もちろんそこに異論はない。だが、クラウディオ・ラニエリの時代と比較するには、あまりにもスタイルが異なる。

 レスターは、今年2月にブレンダン・ロジャース監督が就任して以降、完全に生まれ変わった。攻撃的なパスサッカーを展開し、第10節のサウサンプトン戦では、9-0の大勝を飾った。アウェーで1試合9得点という記録は、131年のイングランドのトップリーグ史において初めてのこと。だから、内容まで加味して比較するなら、4年前のレスターではなく、ロジャースがプレミア制覇まであと一歩に迫った6年前のリヴァプールのほうが近いと思う。

 例えば、エースの覚醒がそうだ。ケニー・ダルグリッシュ政権でリーグ戦44試合15得点だったルイス・スアレスは、ロジャースのもとで66試合54ゴールと爆発した。ジェイミー・ヴァーディもクロード・ピュエル前体制では51試合23ゴールだったが、指揮官が代わると20試合18ゴール。10月28日時点で、ロジャース就任後、ハリー・ケインやセルヒオ・アグエロを抑えてプレミアで誰よりもゴールを奪っている。

 ヴァーディは、32歳になった今も進化を止めない。体力テストの数値は2015年時よりも高く、足も速くなっているという。ボールタッチ数は今シーズンここまで1試合平均20回と昨シーズンよりも減っているのだが、あまり孤立しているようには見えない。前体制のポゼッションサッカーでは「ボールが来ない」と嘆いていたエースが、不満を言わなくなった。これこそが、チームが機能している証拠だ。

 ロジャースは自分たちのスタイルについて、カウンターでもパスサッカーでもなく、「危険なポゼッション」と表現する。ヴァーディには「ビルドアップに参加しなくてもいい」、「サイドに流れるな」などと指示して、縦へのスプリントに専念させている。チームメートもチャンスがあれば一発で裏へのパスを狙い、相手が下がり始めたら、中盤にできたスペースでロジャースの十八番であるパスワークを披露する。MFジェイムズ・マディソンがボールを運んでミドルシュートを放てるのは、裏を狙い続けるエースがいるからだ。もちろん、相手がシュートを警戒して前に出たら、そのときこそヴァーディの見せ場だ。

 ヴァーディがスアレスならば、マディソンはフィリペ・コウチーニョだろう。起用される位置はインサイドハーフや左サイドなど試合によって異なるが、マディソンに求められるのはゴールに直結する仕事だ。左サイドで出場したら、サイドに張るのではなく、サイドバックのベン・チルウェルのスペースを消さないように中央へ流れてゴールに迫る。「小さい頃はトップ下が好きだった」という本人も、今はいろいろなポジションをこなせるのが強みだと主張する。当然、インサイドハーフは守備の負担も大きいため、強豪との試合ではサイド起用が多くなる。

 マディソンについて指揮官は、いい意味での「傲慢さ」があると称える。ゴールが決まらなくてもシュートを打ち続け、昨シーズン終盤から32本ぶりに決めたシュートは、第6節トッテナム戦での貴重な決勝点となった。

 攻守の要である22歳のMFユーリ・ティーレマンスにも、ロジャースは称賛を送る。この夏、完全移籍に移行した決め手は「人間性」と明かし、「ピッチ上のコーチだ」とまで持ち上げる。ロジャースは若い才能に自信を植えつけ、伸ばしていく。「人は水がなくても何日か生きられるが、希望がなければ1秒も耐えられない」。それがリヴァプールでラヒーム・スターリングを開花させたロジャースの持論だ。

 しかし、6年前のリヴァプールとは、一つだけ完全に異なる部分がある。リヴァプールが優勝を逃した原因は“主将のスリップ”だが、彼らには38試合で50失点という根本的な問題もあった。だが今シーズンのレスターは、夏にDFハリー・マグワイアを引き抜かれながら開幕10試合で最少失点を保っている。

 これは頼れるコーチ陣のおかげだ。レスターはチームを2つに分けて練習し、攻撃陣をロジャース、守備陣をコロ・トゥーレが仕切る。アーセナル、マンチェスター・シティ、リヴァプールを渡り歩き、2017年に引退したばかりの元コートジボワール代表は、ポジショニングといった理論だけでなく、足の運び方などの実践的なテクニックまで指導できる。その恩恵を受けたのが、マグワイアの後釜に抜擢されたトルコ代表DFチャグラル・ソユンクだ。プレー映像を見ながら、改善点を細かくトゥーレに説明されたという。だから、サポーターは「誰がマグワイアなんて必要か。俺たちにはソユンクがいる」と大声でチャントを歌う。

 レスターは、主力にケガ人さえ出なければ、ビッグ6の牙城を崩せるはずだ。それどころか、“ミラクル・レスター”の第二幕が開演するかもしれない。

『SOCCER KING』2019年12月号

What’s Going On? 異変だらけの序盤戦、36の「なぜ?」

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By サッカーキング編集部

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