2018.08.06

リーグ優勝4回を誇る名門…武藤嘉紀が移籍したニューカッスルってどんなクラブ?

武藤嘉紀
ニューカッスルに移籍した日本代表FW武藤嘉紀 [写真]=Newcastle United via Getty Images
欧州フットボールをこよなく愛するライター/エディター

 2018年8月2日、日本代表FW武藤嘉紀が、正式にニューカッスルの一員として紹介された。

「ピッチでいいパフォーマンスをしてチームに成功をもたらし、ジョーディを喜ばせたい。トゥーン・アーミーが誇りに思えるようなハードワークをしたい」

 クラブ公式SNSの紹介ムービーで、武藤は英語を使ってこう所信表明をした。「Geordie(ジョーディ)」はいわゆる“ニューカッスルっ子”のことで、ジョーディ訛りの英語と言えば聞き取りづらい方言として有名だ。そして「Toon Army」はファンの愛称。「Town」がジョーディ訛りで「Toon」となり、街の軍団、転じてクラブのサポーターを意味している。入団直後にこうしたフレーズを抑えてくるあたり、ファンに向けての“つかみ”はバッチリだ。

 クラブのホームタウンであるニューカッスル・アポン・タインは、イングランド北東部、ノースイーストと呼ばれる地域の中心都市だ。その名の通り街には中世に建てられた城が残っていて、映画『ハリー・ポッター』のロケ地となった場所もある。19世紀末頃は炭鉱や造船業で栄えた工業都市で、当時からの石造りの歴史的な建造物も現存し、風情を醸し出している。ちなみに「アポン・タイン」は「タイン川沿いの」という意味で、壮大な川にかかるいくつかの橋も観光名所だ。なお、クラブには「Magpies(マグパイズ)」という愛称もあるが、これはクラブカラーのホワイト&ブラックが、タイン川を渡るカササギと同じ色だったことに由来している。

 そんな街を歩けば、たとえ試合がない日でも、白黒縦縞のレプリカシャツを着た地元民をよく見かける。1893年に創設され、リーグ優勝4回、FAカップ優勝6回を誇る名門フットボール・クラブは、この街のシンボルなのだ。もし、この街にとってフットボールとマグパイズがどれほど大きな存在であるかを知りたかったら、2000年に公開された『シーズンチケット』という映画を観てほしい。地元生まれのやんちゃな子供たちが、愛するニューカッスルの試合を生で見るために、あの手この手でシーズンチケットを手に入れるべく奮闘するという、フットボール愛にあふれた良作である(同じニューカッスルが出てくる映画でも『GOAL!』よりこっちが断然オススメだ)。

 街の中心地にそびえる本拠地セント・ジェイムズ・パークには、週末ごとに熱狂的なジョーディたちが集まる。数え切れないほどスタジアムが点在するイングランドの中でもトップクラスの規模と格式を誇り、常時およそ5万人を集客するビッグ・スタジアムだ。ここにやってくるファンは多くが労働階級の男性で、彼らは凍える冬でも時には半裸になって、野太い声で選手たちにゲキを飛ばすのがお馴染みだ。かつてクラブを率いた名将サー・ボビー・ロブソンは、「(タイン川の河口にある)美しい海辺に連れて行って女の子を見せて、そのあとスタジアムを見せれば、どんな選手だって加入に前向きになる」と言い、その熱気や雰囲気の素晴らしさを表現したことがある。

ニューカッスル

スタジアムでは熱狂的なファンが素晴らしい雰囲気を作り出す [写真]=Getty Images

 国内有数の“ハコ”と強力なファンベースを持ち、歴史もタイトル獲得経験もあるニューカッスルは、当然ながら長く強豪として君臨してきた。プレミアリーグ創設初期、1990年代〜2000年代の初頭には上位の常連で、95-96シーズンにはマンチェスター・Uと激しい優勝争いを演じたこともあった。元ストライカーのケヴィン・キーガンが監督を務め、レス・ファーディナンド、ダヴィド・ジノラ、ピーター・ベアズリーといった名アタッカーが並んだ攻撃的かつ魅力的なチームは年明けまで首位を独走していたが、策士アレックス・ファーガソンの挑発に乗ったキーガン監督がテレビカメラの前で我を忘れてブチ切れてしまい、それをきっかけにチームが失速。最後は大逆転で赤い悪魔に優勝をかっさらわれた出来事は、プレミア史に残る“事件”として今も語り草だ。

 続く96年の夏には、そのマンチェスター・Uからある1人のストライカーを強奪したことで話題を振りまく。それがアラン・シアラーだ。ブラックバーンでリーグ優勝と得点王獲得を経験した実績を買われてファーガソンから誘われた元イングランド代表FWは、マンチェスターで住む家を決め、あとは契約書にサインするだけという段階で「やっぱり生まれ育った地元でプレーしたい」と心変わりし、ニューカッスルに移籍した。生粋のジョーディである彼をトゥーン・アーミーは大歓迎し、その期待に応えるようにシアラーは1年目からリーグ得点王に輝いた。プレミア通算260ゴールという今も破られていないリーグ記録を持つシアラーだが、うち半分以上の148ゴールはニューカッスルのシャツを着て挙げたものだ。ネットを揺らし、右手を上げてファンの方へ走っていくゴールパフォーマンスはプレミアの風物詩だった。

シアラー

クラブのレジェンド・シアラー [写真]=Getty Images

 シアラー全盛期のニューカッスルはチャンピオンズリーグにも出場しており、元コロンビア代表FWファウスティーノ・アスプリージャがバルセロナ相手にハットトリックを達成した試合など、欧州でも記憶に残る名勝負を演じていたものだ。

 ところが、シアラーが2005-06シーズンに現役を引退した頃から、クラブは徐々に下降線をたどっていくことになる。シアラーの後継者としてレアル・マドリードから呼び寄せたマイケル・オーウェンが相次ぐ故障に悩まされたことも影響し、クラブ伝統の攻撃力が鳴りを潜めると、拙い守備ばかりが目立つようになっていき、08-09シーズンにはとうとう2部降格。このシーズンの終盤は英雄シアラーを監督に引っ張り出して奮起を促したものの、それもむなしく北の古城は崩壊してしまった。

 その後は1年でプレミアに舞い戻り、昇格2年目の11-12シーズンはデンバ・バとパピス・シセのセネガル代表2トップが躍動してプレミア5位と躍進したものの、やはり一度壊れた城の修繕は一朝一夕でいくものではなく、ハリボテはすぐにボロが出た。翌シーズンから再び残留争いを強いられるようになり、15-16シーズンには2度目の降格を余儀なくされた。

 サッカーのスタイルや哲学も曖昧なら、コロコロと首がすげ替わる監督選びも一貫性がなく、寄せ集めに走りがちな補強策も失敗続き。07年にクラブを買収したオーナー、マイク・アシュリーとサポーターの関係も悪化の一途を辿り、お家騒動もひっきりなし。クラブは文字どおり無秩序な状態から抜け出せなくなり、いつしか「いるべきではないポジション」が定位置になっていってしまった。

 狂信的な古参のファンは認めたくないだろうが、なんとも気まぐれなシーズンを重ねてきた現在のニューカッスルはもはやビッグクラブとは呼べない。資金力もチーム力も上位6強クラブとは離される一方で、2度目の降格後も1年でプレミアに復帰したとはいえ、トップリーグで優勝を争えるようなパワーはカケラもない。

 ただ、16年3月に就任したラファエル・ベニテス監督の下、華やかな攻撃サッカーという伝統を捨てて堅守速攻で勝負する現在の姿を見ていると、過去の遺産やプライドを捨てて足元を見つめなおし、「裸一貫」でクラブを再建しようという決意も感じられる。たとえば昇格1年目で10位と健闘した昨シーズンは“ミッドテーブル仕様”の割り切ったカウンター戦術で、特に年明け以降は安定して勝ち点を積み上げることができていた。新シーズンもベニテスの下、その戦い方が踏襲されていくだろう。

ベニテス

クラブ再建を託されたベニテス監督 [写真]=Getty Images

 そんな中でベニテスに請われ、マインツから加入した武藤に期待されるのは、やはりゴールである。昨シーズンのチーム総得点は1試合平均1ゴールをかろうじて上回る「39」。ドワイト・ゲイルやホセルといったFW陣が軒並み不発だったチームには、カウンターをフィニッシュに結びつけるエースがいなかった。今のニューカッスルには、そう多くない決定機を生かす“蜂のひと刺し”が必要なのだ。

 ブンデスリーガの中では同じく我慢のチームだったマインツで武藤が示してきた勝負強さや決定力に、ベニテスは期待している。「往年のシアラーみたいに」とまでは言わないが、目の肥えたジョーディをうならせ、セント・ジェイムズ・パークをより熱くするような武藤のゴールを、ぜひ見たい。

文=大谷駿

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