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【コラム】イングランドに「黄金世代」到来の予感…ユースの各世代で“金の卵”が躍動

2017.06.15

U20W杯を制したイングランド代表 [写真]=FIFA via Getty Images

 韓国で開催されたFIFA U-20ワールドカップは、イングランドの初優勝で幕を閉じた。6月11日に行なわれた決勝戦の相手はU-20ベネズエラ代表。堂安律(ガンバ大阪)や久保建英(FC東京)らを擁したU-20日本代表を16強で破った南米のダークホースを1-0で撃破した“サッカーの母国”は、1966年ワールドカップ以来、51年ぶりにFIFA主催の世界大会で頂点に立った。

 そんなチームを牽引したのが、過去にアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(2005年)やフランス代表MFポール・ポグバ(2013年)も受賞したゴールデンボール賞(大会MVP)に輝いたU-20イングランド代表FWドミニク・ソランケだった。彼はプレミアリーグ出場歴こそ「0」だが、今回と同じくイングランドが優勝した2014年のU-17欧州選手権で得点王に輝き、7歳から在籍したチェルシーのアカデミーでは各カテゴリーでゴールを量産し、ジョゼ・モウリーニョ監督時代には17歳でクラブ史上最年少でのチャンピオンズリーグ(CL)デビューも果たした逸材で、熱心なイングランド・フットボール好きにとっては知る人ぞ知る存在だった。

 19歳のソランケは今大会中の5月30日に、チェルシーからリヴァプールへ移籍することが発表されたが、それを合図に大爆発。準々決勝メキシコ戦の決勝弾、準決勝イタリア戦の2ゴールを含む計4得点を挙げ、チームを栄光に導いた。そのプレーを見るに、ソランケはただの点取り屋ではない。“10番”やワイドでのプレーも器用にこなし、柔らかいタッチで巧みにボールをキープできて、前線からの守備などハードワーク精神も持ち合わせている。リヴァプールのプレッシングスタイルに適応できる素地は整っており、新シーズンは“若手大好き”なユルゲン・クロップ監督の下で少なからずチャンスをもらえそうだ。

イングランド

U20W杯を制したイングランドの精鋭たち(左から ルイス・クック、フレディ・ウッドマン、ドミニク・ソランケ、ドミニク・カルバート・ルーウィン、アデモラ・ルックマン) [写真]=Getty Images

 ソランケ以外にも、今回のU-20イングランド代表には目を見張る活躍を見せた選手が多かった。決勝で相手のPKをストップし、ゴールデングラブ賞に輝いたGKフレディ・ウッドマンは昇格が決まっているニューカッスルで来季のプレミアデビューを虎視眈々と狙う。

 その決勝で優勝決定ゴールを決めたFWドミニク・カルバート・ルーウィンと、ソランケに次ぐ大会3ゴールを挙げたFWアデモラ・ルックマンのエヴァートン・コンビも注目株だ。彼らはともにロナルド・クーマン監督の抜擢に応えて今季のプレミアでもゴールを決めており、来季はさらなる飛躍が期待できる。同じくエヴァートンからは右サイドバック(SB)のジョンジョ・ケニーも、現地メディアで元イングランド代表DFジェイミー・キャラガーからお褒めの言葉をもらっていた。お隣のリヴァプールからも、負けじと快速MFシェイ・オジョがスーパーサブとして何度も試合の流れを変えていた。

 中盤ではトッテナムのジョシュ・オノマーがセントラルMFとして攻守にダイナミックな働きを見せた。20歳の彼はクラブですでにプレミア13試合に出場しているが、若手起用に積極的なマウリシオ・ポチェッティーノ監督の下でさらに出場機会を増やしたい。またキャプテンと司令塔の重責を果たしたMFルイス・クックも、今季のボーンマスではケガに泣いて6試合の出場に留まったが、来季はエディー・ハウ監督が掲げる攻撃サッカーの中で本格ブレイクの予感が漂う。

 晴れて世界王者となったU-20代表に限らず、いまイングランドの新世代は非常に盛り上がっている。今年5月に行なわれたU-17欧州選手権でもスペインに次ぐ準優勝であり、またU-20 W杯と同時期に開催され、主に18歳以下のメンバーで臨んだトゥーロン国際大会でもグループステージで日本を破って勝ち進み、優勝を果たしている。

 そしてヤング・ライオンズの夏はまだ続く。6月16日からはポーランドでU-21欧州選手権が、さらに7月にはジョージアでU-19欧州選手権が控えており、イングランドはいずれの大会でも予選を突破し、本大会での躍進が期待されているのだ。

 1997年1月1日以降に生まれた選手を対象としたU-20 W杯に対し、予選開始時の年齢が基準のため1994年1月1日以降に生まれた選手が対象となるU-21欧州選手権には実質23歳以下の選手が出場するが、特にこちらは今季のプレミアでもお馴染みだった顔が目白押しだ。

U21イングランド代表

U21欧州選手権で注目されるイングランド代表の選手たち(左からジャック・スティーヴンス、ジョーダン・ピックフォード、ナサニエル・チャロバー、デマライ・グレイ、カラム・チェンバーズ) [写真]=Getty Images

 降格したサンダーランドで孤軍奮闘し、プレミアで大きく名を上げたU-21イングランド代表GKジョーダン・ピックフォードを筆頭に、サウサンプトンのジェイムズ・ウォード・プラウズやネイザン・レドモンドらはすでにA代表招集歴がある選手たち。育成の名門“セインツ”(サウサンプトンの愛称)からは日本代表DF吉田麻也とコンビを組んだDFジャック・スティーヴンスもメンバー入りしているし、アーセナルからは今季終盤に3バックの一角を担ったロブ・ホールディングや、ミドルズブラで武者修行していたカラム・チェンバーズ、さらにレスターからは岡崎慎司の同僚であるデマライ・グレイ、ベン・チルウェルなど、プレミア好きなら見知った名前が並ぶ。

 またU-20にも不動のセンターバックコンビ(フィカヨ・トモリ&ジェイク・クラーク・ソルター)を送り込んでいた若手の宝庫チェルシーからは、U-21にもナサニエル・チャロバー、ルイス・ベイカー、タミー・エイブラハムの3選手がエントリー。アントニオ・コンテ監督の下でプレー済みのチャロバーは有名だが、ベイカーもジョゼ・モウリーニョ元監督がソランケと並べて「数年以内にイングランド代表になる」と太鼓判を押したMF、ただひとりU-20からの飛び級で登録メンバーに入ったエイブラハムは、チェルシーの下部組織で件のソランケと黄金コンビを組んでゴールを量産してきた、こちらも楽しみなアタッカーだ。

 残念ながら負傷中のルーベン・ロフタス・チーク(チェルシー)やハリー・ウィンクス(トッテナム)が欠場予定で、さらにはA代表の一員としてW杯予選を戦ったジョン・ストーンズ、エリック・ダイアー、デレ・アリ、ラヒーム・スターリング、マーカス・ラッシュフォードも出場資格はあるが育成年代はもう“卒業”済み。それでもいいメンバーをそろえられるのだから、ドイツやスペイン、フランスと比べて「育成に疎い」と言われてきたイングランド・フットボールが徐々に変わりつつあるのはたしかだろう。

 実際、U-20の躍進によって最近の英国メディアには「黄金世代」という言葉がちらほら見られる。もちろん、大事なのはU-20やU-21の面々が今後のプレミアリーグでもっと出場機会を増やし、各クラブの主力に成長することだ。国外から次々とスターがやってくる金満リーグではいばらの道だが、競争を勝ち抜いてA代表に昇格してくる選手が多ければ多いほど、彼らがアンダー世代の国際大会で培った勝負強さや“勝ち癖”がワールドカップやユーロで生きてくる。スリーライオンズはそのとき、「大舞台に弱い」というレッテルをようやく剥がすことができるかもしれない。

(記事/Footmedia)

By Footmedia

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

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