2015.12.05

プレミア新記録を樹立したヴァーディ…終わらない“シンデレラ・ストーリー”

ヴァーディ
マンチェスター・U戦でプレミアリーグの新記録を樹立したヴァーディ [写真]=Getty Images
サッカー総合情報サイト

 2012年5月、後にイングランド代表まで上り詰めるジェイミー・ヴァーディは、カンファレンスプレミア(5部相当)のフリートウッドから、当時チャンピオンシップ(2部相当)のレスターへと異例のステップアップを果たした。それからわずか3年半――。世界最高峰のリーグの一つ、プレミアリーグで旋風を巻き起こすヴァーディの“シンデレラ・ストーリー”はまだ結末を迎えそうにない。

 11月28日に行われたプレミアリーグ第14節で、日本代表FW岡崎慎司が所属するレスターはマンチェスター・Uと対戦し、1-1で引き分けた。この試合でレスターのFWヴァーディは、プレミアリーグ新記録となる11試合連続ゴールを決めた。

 ヴァーディは前節のニューカッスル戦で10試合連続ゴールを記録し、マンチェスター・UのOBで元オランダ代表FWルート・ファン・ニステルローイ氏が持つリーグ記録に並んでいた。また、第13節終了時点ではチームもマンチェスター・Cやアーセナルといった強豪クラブを抑えて首位に立ち、多くのフットボールファンを驚かせた。記録更新に期待がかかる中で2位との首位決戦を迎えたヴァーディは、そのプレッシャーを物ともせず、24分にあっさりとプレミアレコードを更新。試合後には「自分でも信じられないよ。二度と繰り返すことはできないだろうね」と喜びを爆発させた。

 満面の笑みを浮かべるヴァーディがこれまで辿ってきたキャリアは、決して華々しいものではなかった。イギリス、サウス・ヨークシャー州シェフィールド出身のヴァーディは、16歳の時に地元の名門クラブ、シェフィールド・ウェンズデイの下部組織を追われた。スタートからいきなりつまずいたのである。さらに、その後加入したストックスブリッジ・パーク・スティールズやハリファクス・タウンは7部や8部をさまよう小クラブで、表舞台とは程遠い場所だった。決して恵まれた環境ではなかったが、そこでストライカーとしての基本を身に着け、しっかりと結果を残して2011年8月に5部のフリートウッドへの移籍を勝ち取った。

 フリートウッドではさらにその勢いを増し、リーグ戦36試合に出場して31ゴール、17アシストを記録。チームをカンファレンス・プレミア優勝とフットボールリーグ2(4部相当)昇格へ導いた。この功績が認められ、5部から2部という大きなステップアップ、異例中の異例とも言うべき前述のレスター移籍を果たしたのだ。レスターが獲得に費やした金額は100万ポンド(約1億9000万円)からオプションを含めた170万ポンド(約3億2000万円)と推定され、ノンリーグ(5部以下)の選手の移籍金としては史上最高額となった。

 鳴り物入りで加入したレスターでの1年目は、リーグ戦26試合で4ゴールと不完全燃焼。終盤戦はベンチを温める日々が続いた。それでもヴァーディの成長は止まることなく2年目で本領を発揮する。2013-14シーズン開幕戦のミドルスブラ戦でいきなりシーズン初ゴールを決めると、中盤戦以降は完全にチームの得点源となり、37試合で16ゴール10アシストをマーク。イングランド最高峰のプレミアリーグへの挑戦権を手に入れた。

 初挑戦のプレミアでも21試合連続ノーゴールとスランプに陥った時期もあったが、終盤戦にかけて調子を取り戻し、ラスト10戦では4ゴール4アシストと爪あとを残した。すると今年5月にイングランド代表初招集を受け、今シーズンの大ブレイクにつながっている。

 屈強なDFたちがそろうプレミアリーグの中で、ヴァーディは178センチ、76キロとごく“平凡”な体格。そんな彼の得点パターンは主に2つある。相手DFの裏に抜け出す形と、バイタルエリア付近でボールを受けてドリブルでシュートまで持ち込む形だ。その両方で最大の武器となっているのは、一瞬で相手を置き去りにするスピードに違いない。イギリスメディア『スカイスポーツ』が9月に発表したトラッキングデータでは、リーグ最速の時速35.44キロを記録し、数字の上でもその速さが際立っている。

 また、ここまで挙げた14ゴールの内訳は、利き足の右で7ゴール、左足で2、頭で2、PKが3本と、ある程度バランスよくどの部位でも得点を奪えている。また、特別足下の技術が優れた選手ではないが、リーグ第10節のクリスタル・パレス戦ではGKと一対一の場面でボールを浮かし、GKをかわして得点を決めるなど、ゴール前での冷静さも兼ね備えている。こうした一つ一つの長所が上手く噛み合い、11試合連続ゴールという偉業につながったのだろう。

 その連続ゴールについて、他のリーグに目を向けるとこんな数字があった。『UEFA.com』によると、ポルトガルのプリメイラ・リーガとセリエAの記録は、それぞれ10試合連続の元ポルトガル代表FWフェルナンド・ペイロテオ氏(当時スポルティング)と11試合連続の元アルゼンチン代表FWガブリエル・バティストゥータ氏(当時フィオレンティーナ)が保持。フランスのリーグ・アンに正式な連続ゴール記録はないが、1960年代に活躍したFWセルジュ・マスナゲッティ氏(当時ヴァランシエンヌ)の13試合連続ゴールがトップとされる。ブンデスリーガの記録を持つのは元ドイツ代表のゲルト・ミュラー氏。バイエルン時代に16試合連続ゴールをマークし、“爆撃機”の愛称で知られたその得点力を数字の上でも証明している。

 そして、欧州主要リーグの頂点に立つのは、現在『世界最高の選手の一人』と評されるバルセロナのリオネル・メッシだ。4度のFIFAバロンドール(旧バロンドールも含む)を手にし、名声をほしいままにするアルゼンチン代表FWは、2012年11月11日のマジョルカ戦から2013年5月5日のベティス戦まで、出場したリーガ・エスパニョーラの21試合すべてでゴールを決めてみせた。その間のゴール数は驚異の33。飛び抜けた数字を残している。

 ヴァーディがメッシの持つ記録を更新するには、あと10試合連続でネットを揺らすことが求められる。当然、この“異常な”記録を上回ることは容易ではない。ヴァーディは一人で試合を決定づけてしまうような絶対的な存在ではないし、個人技で相手を圧倒するタイプの選手ではないからだ。しかし、レアル・マドリードやバルセロナも注目するという彼が、どこまでその数字に近づくことができるのかは見ものである。ヴァーディに記録を破られたファン・ニステルローイ氏はマンチェスター・U戦の前にこう語っていた。

「彼にとっては素晴らしいことになるだろう。記録は破られるためにあるんだ」

 来年1月に29歳の誕生日を迎えるヴァーディのキャリアは、今まさにピークを迎えつつある。ビッグクラブへステップアップするに相応しい実力を示すのか。それとも一過性の“ビッグシーズン”のままで終わってしまうのか。まずは5日に控えたリーグ第15節のスウォンジー戦でゴールを奪うことが、さらなる偉業、そして新たな舞台への一歩となるはずだ。数段飛ばしで階段を駆け上がってきた“シンデレラボーイ”にどんな未来が待っているのか、世界中から注目が集まっている。

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