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【CL展望】ポジティブな雰囲気と新時代到来の予感が漂う|バイエルン

2020.02.25

[写真]=Getty Images

 2月15日に発売となった雑誌『SOCCER KING』3月号では、チャンピオンズリーグのラウンド16を完全プレビュー! 決勝トーナメントをより楽しむためのコンテンツをWebで一部公開します。

 グループステージでは昨シーズンのファイナリストであるトッテナムとの熾烈な首位争いが予想されたが、フタを開けてみれば堂々の首位通過を決めたのはバイエルンだった。ドイツ勢としては史上初となる6連勝を飾り、アウェーのトッテナム戦では7-2の歴史的勝利。得失点差「+19」というグループステージ史上最高の戦績を残している。

 とはいえ、ここまでの道のりが平坦だったわけではない。チャンピオンズリーグでは「過去10シーズンでベスト4以上が7回」とコンスタントに好成績を残してきたが、昨シーズンはリヴァプールに成す術なく屈した。このインパクトが強く残り、イギリスの大手ブックメーカー『ウィリアム・ヒル』による優勝予想では全クラブ中7位という結果となった。それは決して見当外れな数字ではない。国内リーグではライプツィヒやボルシアMGの後塵を拝し、フロントや監督、選手の間に不協和音が生じているという声も聞こえ始めた。

 転機が訪れたのは昨年11月、クラブはニコ・コヴァチ監督の退任を発表し、今シーズンよりアシスタントコーチを務めていたハンジ・フリックを暫定監督に据えた。フリックにトップチームを率いた経験はなかったが、公式戦10試合を8勝2敗で乗り切る好スタートを切り、正式監督に昇格。2月1日のマインツ戦ではリーグ戦6連勝を挙げて首位に浮上するなど、“監督交代ブースト”だけでは説明できない快進撃を見せている。

 指揮官の交代によって、何が変化したのだろうか。エースのロベルト・レヴァンドフスキは、公式戦29試合35得点と驚異のペースでゴールを量産し、両ウイングのセルジュ・ニャブリとキングスレイ・コマンも昨シーズン限りで去った“ロベリー”の穴を埋めて余りあるパフォーマンスを見せている。だが端的に言えば、前政権の弱点は彼ら3人の個の力に依存しすぎていたことだろう。攻撃が手詰まりになった際の変化に乏しく、結果としてカウンターをモロに受ける場面が多かった。フリックが施した一つの変化は、トーマス・ミュラーとレオン・ゴレツカの重用だ。どちらかと言えばオン・ザ・ボールに秀でるフィリペ・コウチーニョやチアゴ・アルカンタラよりも、攻守両面でスペースを埋める動きに長けた彼らを起用することにより、中盤の強度とダイナミズムを増した。

 また、ニクラス・ズーレとリュカ・エルナンデスの負傷欠場によるセンターバックの穴は、ハビ・マルティネスとダヴィド・アラバが埋めた。パス能力に優れる彼らによって、最終ラインからのビルドアップ精度が向上するという相乗効果も生まれている。アラバに代わる左サイドバックの位置では19歳のアルフォンソ・デイヴィスが起用され、躍動感あふれるプレーでチームに勢いをもたらしている。何より規律重視だったコヴァチと異なり、選手との対話を重視する新指揮官の柔軟な姿勢は、クラブに明るいムードを取り戻した。

 フリックとは今シーズン限りの契約だから、シーズン後にクラブが新しい指揮官を迎え入れる可能性もある。だが、たとえ暫定政権であってもヨーロッパ王座に就くことはできる。バイエルンは、そのことを身を持って知るクラブだ。11-12シーズン、アリアンツ・アレーナで迎えたCL決勝で、バイエルンはPK戦の末にビッグイヤーを逃すという屈辱を味わった。彼らを下したチェルシーを率いていたのは、シーズン途中に就任したばかりのロベルト・ディ・マッテオだった。

 決勝でチェルシーに敗れた1年後、ユップ・ハインケスに率いられたバイエルンは、圧倒的な強さで3冠を達成して見事にリベンジを果たした。逆境でこそ本領を発揮するのがドイツ王者たる所以である。そして現在のクラブの雰囲気は、当時と比較されるほどに良好だ。ピッチ外でもクラブの顔だったウリ・ヘーネス会長の退任が決まり、OBのオリヴァー・カーンを役員に据えるなど、新たな時代を迎えつつある。だからこそ、バイエルンはここで負けるわけにはいかないのだ。

【PLAYER FOCUS】FW 25 トーマス・ミュラー

[写真]=Getty Images

 前政権下では6 試合連続で出場機会を得られず悲嘆に暮れていたが、フリック就任後は再び欠かせない存在となった。2014 年のブラジル・ワールドカップでコーチと選手という間柄だったフリック監督は、ミュラーの持ち味を最も理解している指導者の一人だ。先のシャルケ戦でアリアンツ・アレーナでの通算100ゴール目を決めるなど、点取り屋の印象が強いが、もとより攻守に幅広く貢献できるチームプレーヤーでもあり、中盤での起用にも応える。「自分がトップスコアラーかどうかは、もう重要ではない」。シュートを打てる場面でもパスを選択することが増え、リーグ戦では8 アシストを記録してランキングのトップに躍り出た。

 ラウンド16 の相手チェルシーは、2012年の決勝戦で自ら先制点を奪いながらも追いつかれ、PK戦の末に敗れた因縁がある。しかし、「同じクラブ同士であること以外に(当時との)共通点はない。抽選結果に満足している」と、不敵なコメントを残した。先頃、公式戦500試合出場を達成した“バンディエラ”の復調は、覇権奪還への追い風以外の何物でもないだろう。

文=志原 卓

『SOCCER KING』2020年3月号

The Champions! チャンピオンズリーグ ラウンド16 完全プレビュー

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