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トッテナムは「最悪の時期」を乗越えられるのか…準Vチームの現在地と壮大なる冒険

[写真]=Getty Images

 トッテナムのファンならば、今季一度は自問自答したことだろう。果たしてスパーズは成長しているのか――。

「トッテナムでの5年間で最悪の時期」とは?

エリクセン

エリクセンが移籍を希望するなど、穏やかではないオフを過ごした [写真]=Getty Images

 今夏、チャンピオンズリーグ(CL)の準優勝チームは大いに揺れた。司令塔のMFクリスティアン・エリクセンが、残り1年となった契約を更新せずに移籍を希望したのだ。プレミアリーグの最近6年間で最も多くのアシスト数とチャンス演出数を記録した選手の移籍志願である。奇しくも、宿敵アーセナルを率いていたアーセン・ヴェンゲルの数年前の予言が的中することになった。高騰する移籍金がステップアップのネックになるため「多くの選手が契約満了を選ぶだろう」と。

 エリクセンだけではない。守備の要であるヤン・フェルトンゲンとトビー・アルデルヴァイレルトも契約最終年を迎えたのだ。加えて、移籍市場の“時間差”もスパーズを悩ませた。リーグ戦の開幕前に市場が閉まるプレミアリーグとは違い、国外のリーグは9月2日まで補強が許された。この空白の3週間は、トッテナムにとって、とりわけマウリシオ・ポチェッティーノ監督にとっては辛すぎた。

 だから「トッテナムでの5年間で最悪の時期」と漏らしたのだ。クラブ史上最高額でリヨンからフランス代表MFタンギ・エンドンベレを獲得できた夏だというのに――。

 アルゼンチン人指揮官が「最悪」と口にしたのは、ここ1年間で2度目のこと。1度目は昨年10月のことだった。“ゼロ補強”やスタジアム移転の延期が相まって「最悪の気分だ」と述べたのだ。とはいえ、その時はプレミアでクラブ史上最高のスタート(7勝2敗)を切っており、同情は買ったものの、そこまで心配されなかった。それでも、わざわざ「最悪」と表現したのには理由がある。CLのグループステージで最初3試合に1つも勝てず、敗退の危機に瀕していたからだ。ポチェッティーノとは、そういう男なのだ。

“ボーナス”にめっぽう強い勝負師

マウリシオ・ポチェッティーノ監督

ポチェッティーノ監督は「ここぞ」の場面でチームを勝たせる勝負師だ [写真]=Getty Images

 クラブ首脳陣からすれば、スタジアム移転の費用を回収するためにCLは「出場すること」に意義がある。至上命令は、CLでの好成績ではなくCL出場権の確保なのだ。そのため、来夏フリーでの流出も覚悟してエリクセンを留まらせてプレミアでトップ4死守を目指すのだ。だからCLでの成績は、ある意味で“ボーナス”に近かった。ファンは嫌がると思うが、今のスパーズはトップ4にしがみついていた一時期のアーセナルと似ているのだ。

 だが決定的に違う部分もある。スパーズには“ボーナス”にめっぽう強い勝負師がいる。準優勝したとはいえ、昨季CLのシーズン成績を振り返れば5敗(6勝2分け)も喫した。準々決勝のマンチェスター・C戦、そして準決勝のアヤックス戦では、絶体絶命の窮地にも立たされた。それでも彼らは勝ち上がって見せたのだ。時には名を捨てて実を取る。そうやってポチェッティーノは勝利をもぎ取ってきた。

 9月初めのプレミア第4節のノースロンドンダービーも良い例だ。トッテナムはカウンター狙いに徹して勝ち点1を獲得した。消極的な戦術に映ったかもしれないが、練りに練られたゲームプランであった。カイル・ウォーカー・ピーターズの怪我で穴が空いた右SBには、本職がCBのダビンソン・サンチェスを起用した。少しそこを狙われる形になったが、試合後に指揮官は「彼はコロンビアのナシオナル時代に何度かサイドバックでプレーしていた」と反論。そして、アーセナル戦までの1週間はずっとSBで練習させていたという。

 さらに快速FWの韓国代表ソン・フンミンをアーセナルのCBと孤立させて一対一の状況を作り出したり、少し低い位置でハリー・ケインにロングボールを競らせてマイボールにしたりと、相手が嫌がることをやってみせた。結果としては引き分けだったが、勝つシナリオは用意していたのだ。

グループステージ突破を確信させる選手層

トッテナム対アストン・ヴィラ

エースのケイン、新加入のエンドンベレなど戦力は充実している [写真]=Getty Images

 無論、スパーズは指揮官だけのチームではない。彼らには欧州随一の決定力を誇るFWハリー・ケインもいる。大舞台に強く、CLでは過去19戦で14ゴールの数字を残しており、調子の良し悪しに関係なくゴールを保証してくれる。先日の代表戦では珍しくPKを止められたが、PK失敗は1年半ぶりのこと。両足と頭、それからPKまでも信頼できる完成されたストライカーだ。本人は意識していないと思うが、13年ぶりとなるメッシ、ロナウド以外のCL得点王だって目指せるはずだ。今季のグループステージでは、バイエルンのロベルト・レヴァンドフスキとの“コンプリートストライカー”頂上決戦に注目が集まるだろう。

 それから今季はフランス代表MFエンドンベレも加わった。今年1月にスパーズを退団した元ベルギー代表のムサ・デンベレの進化版であり、中盤からの馬力あるドリブルに加え、フィニッシュに絡むこともできる。さらに今夏は、攻撃のアクセントとなるジオヴァンニ・ロ・チェルソ(ケガで離脱したが)、将来が嘱望されるライアン・セセニョン(19歳)も加入してかなり選手層が厚くなった。

 これならば、バイエルン、オリンピアコス、ツルヴェナ・ズヴェズダと同居するグループBで2位以内は堅いはずだ。初戦のオリンピアコス戦(アウェイ)で不覚を取らなければ、90%は突破が決まったとも言える。あとはバイエルンとの一騎打ちだが、スパーズはあまり1位通過にこだわらないはずだ。決勝トーナメントでは、どこが相手でも目の前の勝負に徹するというスタンスでいくだろう。

スパーズはキャリアの終着駅ではないが…

昨シーズンは奇跡の勝利の連続で初のCLファイナル進出を果たした [写真]=Getty Images

 しかし、昨季のようなファイナル進出は期待できないかもしれない。シーズン終盤になれば、プレミアリーグの激しいトップ4争いに巻き込まれ、心身ともに疲弊する。何より、それまでに解決していなければエリクセン等の去就問題が再燃することになる。

 申し訳ないが、やはりトッテナムは世界的スター選手のキャリアの終着駅に思えないのだ。少なくとも現時点では思えない。もちろん世界的なビッグクラブではある。だが、上には上がいるのだ。ならば、どうやってステータスを上げるのか。もちろんピッチ上の成績は重要である。毎年のようにCLに出続ける必要がある。だが、好成績を残しても一朝一夕では何も変わらない。むしろ昨季優勝していたら、それこそ主力は「思い残すことはない」と出ていったかもしれない。

 だからこそ、今年4月に移転を果たした新スタジアムだったのだ。選手たちが骨を埋めたくなる真のエリートクラブになるために、誰もが羨むスタジアムが必要だった。そうやってクラブの歴史を1つ1つ築き上げ、レアル・マドリードやバルセロナの域に辿りつけばいい。それには時間が必要だ。

 さて、冒頭の問いに戻るが、答えは当然「イエス」である。勝負にこだわる監督がいて、壮大な夢を実現させる会長がいる。例え主力がチームを去ることになっても、例え今季のCLで成績が下がったとしても、スパーズは成長している。それだけは断言できるだろう。

文=田島大(フットメディア)

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