光り輝くCLとELとのトロフィーだが… [写真]=Getty Images
2018-19シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)とヨーロッパリーグ(EL)の決勝カードはトッテナムvsリヴァプール、チェルシーvsアーセナルに決定。プレミアリーグ勢が独占し、4クラブが同国となるのは史上初の出来事となった。
特にイングランドの人たちにとっては歴史的な試合になるはずだが、“主役の一人”が置いてきぼりになってしまう恐れがあり、危惧されている。
決勝進出チーム決定後、欧州サッカー連盟(UEFA)は各クラブに向けて、観戦チケットの割り当てを発表。CL決勝の2チームに対しては16613枚ずつ、EL決勝の2チームに対しては6000枚ずつが配券された。
CL決勝の舞台となるスペインのワンダ・メトロポリターノと、EL決勝の舞台となるアゼルバイジャンのバクー・オリンピックスタジアムは、両スタジアムとも総キャパシティが約68000席。CLでは半分に満たない数、ELに至っては5分の1ほどしか、サポーターで埋められない計算となる。しかも両クラブ合わせて、だ。
CL決勝チケットは全世界のファン向けに4000枚がカード決定前に販売済。その他はUEFAや各協会、スポンサー関係、放送局、さらには関係者へ配券される。各クラブの家族や友人に対してはそれぞれ300枚ずつが渡される。
『BBC』など各メディアは、チケット転売サイトで決勝チケットが定価の10倍以上の価格で取引されていることや、ホテルの事前予約が勝手に解除され、問い合わせると法外な価格で再予約を求められるなどのトラブルが発生していること、渡航費の急騰を伝えている。
トッテナムを率いるマウリシオ・ポチェッティーノ監督ですら、アルゼンチンに暮らす親類や友人のためにホテルを予約しようとしたが、「予約は難しかったし、価格が異常」と認め、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督もサポーターを慮った発言をし、こういった現状に憂慮している。
トッテナムとリヴァプールのサポーターグループは連名で声明を発表。配券の透明性や整合性、チケットおよび移動・宿泊費の高騰への対策を求め、「ファンに、どれだけ高い忠誠心を持っているかを求めるのはやめよう。決勝とは1度ある試合ではなく、長い1シーズンの集大成であり、ファンはその間、チームをサポートするために多くのお金を使い、素晴らしい雰囲気を作ってきた。それはテレビ放映においても重要な役割を果たしていたはずだ」と、憤りを示している。
アーセナルのサポーターグループもこの声明を全面支持。「ファンに対するUEFAの姿勢を根本的に見直す必要性がある」としている。
CL決勝はスペインのマドリードだが、EL決勝はヨーロッパの東端と言っていいアゼルバイジャンのバクーで開催ということで、チェルシーとアーセナルのサポーターが訪れるには困難をさらに抱える。
チェルシーのサポーターグループ幹部であるティム・ロールスさんは『BBC』の取材に対し、「バクーはイギリスからの渡航が困難な都市のひとつ。直行便は無く、チャーター便も高騰している。アウェイゲームの開催地として最悪な場所だ」と怒りのコメント。自身は隣国のジョージアに飛行機で入り、そこから7時間をかけて陸路でバクーを目指すようだ。ちなみに、イギリスから陸路で目指すとなると往復で10日間近くは必要になる。
UEFA側はバクーでの開催を2年前に決めており、「どのクラブが決勝に上がるか予測はできない」とし、「開催都市では空港の位置や輸送能力を鑑みる必要があり、約15000人の国外からの来訪者に対応できるとみなされた。我々は、ファンがバクーに適切な形で訪れることができるという保証をしなければならない。それ無しにチケットの枚数をさらに増やすという選択をすることは責任あるものではなかった」と、各クラブに対しての配券が6000枚だけになった“言い訳”をしている。ファン以外の人間も多数国外から訪れるはずなのに、だ。
すでにトッテナムは本拠地のトッテナム・ホットスパー・スタジアムで、CL決勝のパブリックビューイングを実施すると発表済。ロンドンにある“サッカーの聖地”ウェンブリー・スタジアムは同日にBTS(防弾少年団)のコンサートがあるため使用できないが、その他施設を使ってのパブリックビューイング実施もあるかもしれない。
UEFAはCL、ELの大会フォーマット変更を検討していると報じられており、国際サッカー連盟(FIFA)や国際オリンピック委員会(IOC)も商業主義の拡大を指摘されて久しい。フットボールとは誰のものか。主役は選手とクラブのために日々働いているスタッフ、そして毎日クラブを想い、スタジアムで声を枯らすサポーターのものでなければならないはずなのだが…。
文=小松春生
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長