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【コラム】19歳FWに高まる期待、CLの舞台で「未知のムバッペ」に出会えるか

2018.09.18

 これは、始まりに過ぎない――なんて言われたら、どうしたって、ドラマの「続き」が見たくなる。フランスの超新星キリアン・ムバッペのことだ。

 冒頭の「これ」とは、この夏のロシア・ワールドカップにおける華々しいドラマである。わずか19歳で優勝国のジョーカーとなり、4ゴールをマーク。クロアチアとの決勝でもダメ押しの一発を豪快にねじ込んだ。

 10代の選手がW杯決勝でゴールを記録するのは1958年スウェーデン大会のペレ(ブラジル)以来、実に60年ぶり。今後、どんな高みへ上り詰めるか、ムバッペの熱心なファンでなくとも、気になるところだろう。

 差し当たっては今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)である。オフに移籍話も飛び交ったが、パリ・サンジェルマン(パリSG)に残留。どうやらクラブ史上初の快挙を成し遂げたい、との野心でいっぱいらしい。何しろ、フランス勢のCL制覇は1992-1993シーズンのマルセイユだけだ。前身のチャンピオンズカップ時代は一度も優勝していない。リヨンやモナコを含むフランス勢にとっては、大いなる挑戦と言っていい。

 そこで、ムバッペである。

 CLの舞台では、モナコ時代の一昨シーズンに「大暴れ」済みだ。前半戦はスーパーサブとして、後半戦はスタメンの一角で計6ゴールを量産。モナコをベスト4へと導く動力源となった。当時18歳。この頃から、すでに『怪物』だったわけである。

 時速37キロ――とも言われる「鬼足」が売り物ながら、縦一本槍の凡庸なスピードスターとはモノが違う。狭いスペースを苦にしない器用さも備え、フィニッシュへ持ち込むパターンも実にバラエティーに富んでいる。

ムバッペ

17歳でデビューしたムバッペ。アンリが持つモナコの最年少得点記録を抜いた [写真]=Getty Images

 また、チームメイトを含む現役のプロはもちろん、識者や専門家が指摘する成熟ぶりも特筆もの。無理やムダが少なく、まるでベテランのような落ち着きと手練手管で、相手を煙に巻いてしまう。あまりにも手際の良い仕事ぶりが、かえって物足りなさを感じさせるくらいだ。

 俺が、俺が――という自意識過剰とも無縁。周囲の思惑を敏感に察知する「忖度上手」でもある。チャンスの場面で味方に手柄を譲ることもいとわない。不遜と謙遜の間で、巧みに立ち回ってみせる。ネイマールのようなクセの強い先輩たちに可愛がられるのも納得できる。

 現代では少数派に属する「右利きの右翼」という役どころをこなせるのも万能人、いや大人の証か。カットインからのシュートを狙いにくい――などと文句も言わない。縦にぶっちぎっての折り返しでアシスト役に回ったり、別の手段でフィニッシュへの道筋を切り開いたりする。しかも、ゴール前に居座るカバーニの「縄張り」を荒らすことなく、である。おそらく『量産型ムバッペ』の完成(最終形)は、もう少し先の話だろう。

 サッカー界のル・ロワ(王様)へ脱皮する頃には、最前線のド真ん中にポジションを移しているかもしれない。それこそ、フランスの先達ティエリ・アンリのように。そこで2トップの一角を担ったモナコ時代のようなゴールラッシュを演じることになるのではないか。

 カバーニ、ネイマールと『MCN』を継続するうちは「三権分立」に近い。ポジションは同じでも、中央に絶対的なストライカーが存在しないフランス代表とでは置かれた立場が違っている。パリSGでは真っ先に戦犯扱いされることは少ないだろう。批判の矛先はまず、カバーニやネイマールへ向かうはずだ。

ムバッペ

リーグ随一の得点力を誇るトリデンテ。リーグ・アンの得点王争いからも目が離せない [写真]=Getty Images

 根は優等生だろうが、MCNの「三男坊」として、伸びのびと、大胆不敵に――と期待したくなる。ちなみに、フランス・リーグアンでは5節終了時点で4ゴール。その4点目を記録したニーム戦で手荒いファウルに激高し、相手の選手を突き飛ばして、一発退場を食らった。

 結果、3試合の出場停止。これ幸いとばかりに今後、挑発行為へ走る輩が出てくるだろう。報復が癖になったら考えものだが、敵の襲撃を恐れるヘタレでも困りもの。当代随一、さらに歴史に名を残すようなレジェンドへの道のりには「仁義なき刺客」が付きモノだからだ。

 それに伴う最大の懸念はケガだろう。好事魔多し――と言うが、ロシアW杯直後のシーズンだけに、落とし穴が口を開けて待っているかもしれない。それを、うまく回避できるか。今シーズンのCLは例年どおりの群雄割拠。パリSGも候補の一角に数えられるが、新監督のトーマス・トゥヘルが個性派ぞろいのチームをどこまで掌握できるか、未知数な部分も多い。さらに、ムバッペの才能を最大限に引き出すことが、新生パリSGのたった1つのコンセプトというわけでもない。

 それでも、何かすごいことをやってのけるのではないか。そんな期待、妄想がふくらむばかりだ。それくらい、成功物語のプロットは凡人の想像をはるかに超えるスピードとインパクトをもって書き進められてきた。

 ロケットのような勢いでピッチを駆け抜け、フィニッシュに絡む姿は見ものだが、何よりの楽しみは「未知のムバッペ」に出会うことだ。これまで目にしてきたプレーの数々は彼の持つ才能の、ほんの一部という気がする。

 見るたびに、新しい。

 そこにムバッペの底知れない可能性と魅力があるように思う。言わば、開けてビックリ玉手箱。アーセナルの前監督であるアーセン・ベンゲルを含め、大昔を知る人々の間で盛んにペレの名前が引き合いに出されるのも、早熟だけが理由ではないはずだ。
この先、記憶のミュージアムに飾っておきたいような「新作」をいくつ拝めるか。もうすぐ幕を開けるCLでも、語り草となるような伝説のシーンを目撃することになるかもしれない。たとえ、それがファイナルでなくても――。

文=北條聡

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