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【アジア最前線:タイ #11】日本人監督のニーズが高まる一方、長期政権を阻害する要因も

2021.05.12

[写真]=Getty Images

来季続投はサムットプラカーン・シティの石井監督のみ

 タイリーグ1部のサムットプラカーン・シティは先日、石井正忠監督との契約を来季まで延長したことを発表した。石井監督体制1年目となった2020ー21シーズンは14勝5分け11敗の成績で、順位は前年と同様の6位。クラブとしての目標であったAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得はならなかったが、シーズンの中盤から着実にチームを作り上げていった手腕が評価されて続投が決まった。

 タイ代表を率いる西野朗監督が現地で高い人気を集めていることも影響してか、昨シーズンはタイリーグにおいても日本人監督が増えた。1部ではサムットプラカーン・シティの石井監督に加えて、前年王者のチェンライ・ユナイテッドを率いてACLでも指揮を執った滝雅美氏。2部では2013年からタイリーグの複数クラブで監督を務めてきた神戸清雄氏がコンケーン・ユナイテッドを率い、三浦雅之氏がシーズン途中からウタイターニーFCを率いた。

 結果として、契約延長となった日本人監督はサムットプラカーン・シティの石井監督のみ。チェンライ・ユナイテッドの滝監督はコロナ禍による日程変更前のシーズン終了時期であった昨年10月をもって契約満了となり、コンケーン・ユナイテッドの神戸監督もシーズン最終盤に退任。12月に就任したウタイターニーFCの三浦監督もわずか7試合の指揮でチームを離れた。

 しかし、これは必ずしも石井監督以外の日本人監督の成績が振るわなかったことを意味してはいない。実際、滝監督は9月のリーグ戦再開後にチームを2位まで浮上させて続投のオファーも受けていたが、「権限や役割、責任などの面で折り合わなかった」という理由で契約を延長しなかったにすぎない。神戸監督については3部からの昇格組であったチームで1部昇格争いを演じている最中、終盤戦で数試合勝利から遠ざかったことを機として突然の解任劇となった。

タイクラブの頻繁な監督交代と日本人監督のニーズ

 日本人監督に限らず、タイのクラブでは監督交代が頻繁に行われる傾向にある。成績が振るわなければ早めに見切りをつけることが多く、オーナーと反りが合わないといった成績以外の要素によって解任されるケースも珍しくない。タイという国には階級社会の側面もあるためオーナーの一声で物事が決定される傾向が強く、こういった状況が生まれやすい。ブリーラム・ユナイテッドのようにワンマン体制で大きな成功を収めたクラブもあるが、タイサッカーのさらなる成長を阻害する要因であると指摘する声も少なくない。

 そうした背景もあり、タイのクラブでは一人の監督が同一クラブで長期政権を築くケースはまれだ。常に一定の需要がある日本人監督も例外ではなく、日本人がタイのクラブを率いてきた例は多いものの、同一クラブで継続して2シーズン以上指揮を執った監督となると限られる。8年前からタイで監督を務めている神戸氏もこれまで5つのクラブを率いており、来季もすでに6つ目のクラブとなる2部のラヨーンFCの監督に就任することが決まっている。

 昨季に1部のチェンライ・ユナイテッドとラヨーンFCで監督を務めた滝氏は、新シーズンに向けて同じく1部に所属するプラチュワップFCの監督に就任。さらに、来季は2012年からタイリーグの複数クラブでコーチを歴任してきた加藤光男氏が2部のネイビーFC、2011年から2018年まで選手としてタイでプレーしていた樋口大輝氏が3部のソンクラーFCの監督に就任することも発表された。タイでの豊富な経験を持つ日本人指導者が、監督としてチームを指揮するという新しい波も生まれ始めている。

 来季のタイリーグでは、現時点で1部と2部それぞれ2名ずつの日本人監督が指揮を執ることが決まっている。サムットプラカーン・シティを率いて悲願のACL出場を目指す石井監督を含め、いずれもすでにタイリーグを経験している日本人指導者ばかりだ。現在、タイ代表は男子を西野監督、女子を岡本三代監督と日本人の指揮官が率いているが、来季はタイリーグにおいても各カテゴリーで日本人監督の活躍に期待したい。

文=本多辰成

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