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【サイゴンFCの野望 #4】ウ・サンホ「ここにいるのには理由がある。経験をチームに還元したい」

2021.03.12

 サッカー界がコロナ禍による財政難に苦しむ中、今オフには長年Jリーグのクラブで活躍してきたベテラン選手たちの退団・引退報道が相次いだ。そんななか、39歳の元日本代表MF松井大輔をはじめとするJリーグ経験者4人(松井大輔/元横浜FC、高崎寛之/元FC岐阜、ウ・サンホ/元栃木SC、苅部隆太郎/元FC岐阜)を相次いで獲得して注目を集めた東南アジアのクラブがある。サイゴンFCだ。

 この連載では、急激に“日本化”が進み、にわかに注目を集めるサイゴンFCの野望に迫る。第4回では、FC岐阜、愛媛FC、栃木SCの3クラブを渡り歩いた北海道出身の在日韓国人フットボーラー、ウ・サンホにインタビューを実施。豊富な運動量を武器に中盤を駆け回り、すでにチームにとって不可欠な戦力となっている彼に、ベトナムでの挑戦の日々について聞いた。

文・写真=宇佐美淳

異文化に身を置くことで、人間的に成長できる

――サイゴンFC移籍の経緯を教えてください。
ウ・サンホ 昨シーズン終了前くらいのタイミングでお話をいただいて、家族とも相談のうえで移籍を決めました。

――ウ・サンホ選手はプロデビューがモンテネグロ(OFKペトロヴァツ)。その後、韓国(大邱FC)、日本(FC岐阜、愛媛FC、栃木SC)と渡り歩き、現在はベトナム(サイゴンFC)でプレーしています。こうした経歴からは新しい環境にどんどん飛び込んでいこうという精神が感じられますが、こうしたチャレンジ精神が身についた背景には何がありましたか?
ウ・サンホ 最初にモンテネグロに行ったときは、大学卒業後にJクラブからのオファーもなかったですし、失うものはないという状態で、とにかく行ってみようという感じだったんです。いざ行ってみると、意外に自分に合ってるなと感じました。異文化で、何もかもが違う環境に身を置くことで、人間的にも成長できますし、サッカーの幅も広がって考え方も変わってきます。だから、最初に異文化に飛び込んだとき、チャレンジするのは大事なことだなと思いました。

――各国を渡り歩く中で、それぞれプレーするときの難しさは感じましたか?
ウ・サンホ そうですね。国によってスタイルとか考え方が全然違いますからね。日本は、やっぱり戦術とか技術的な部分が長けていて、韓国はお隣の国ですが、それでも違いは感じ取れました。どこに行っても自分のストロングポイントを生かせるというのはいいことだと思いますが、それぞれの環境やサッカーに適応するというのも大事です。

――コロナ禍でベトナム入国後2週間の隔離措置を受けましたが、どのように過ごしましたか? その間、何か困ったことはありましたか?
ウ・サンホ 隔離中はけっこう快適でした。午前、午後とZoomを使ったトレーニングをして、食事も朝昼晩届きますし、デリバリーも取れました。部屋も広かったですね。

――開幕から3試合フル出場。チームは2勝1敗。サンホ選手は豊富な運動量で攻守にわたり貢献していますが、手応えは感じていますか?
ウ・サンホ 正直、自分の中ではまだまだだと思っていて……。外国人助っ人として来ているので、もちろん試合で勝つことも重要なんですが、松井(大輔)選手や高崎(寛之)選手に及ばないながらも、自分が培ってきた経験を他の選手やチームに還元することも大切な仕事です。現状、そういう部分はまだまだなので、もっと出来るはずと感じています。

――監督からはどんな役割を求められていますか?
ウ・サンホ 攻守にわたって貢献するのはもちろんですが、一対一の局面やハードワークの部分で違いを見せること。あとはゴールも決めてくれと言われているので、1試合目と比べて2試合目、3試合目のほうがゴールに向かう気持ちが出せたかなと。まだゴールは奪えてないですけどね。

――2試合目(疑惑の判定でノーゴール)と3試合目(飛び出しから強烈なシュートを放つも、相手GKがセーブ)は惜しいシーンがありましたね。
ウ・サンホ 次は決められるようにしたいです。

――サイゴンFCではここまで何度かゴール前で決定機に絡んでいますが、以前からシュート意識は高いほうだったのでしょうか?
ウ・サンホ これまでのチームだと守備のタスクが大きかったので、ゴール前まで出ていくシーンはあまり多くはなかったですね。

チームを底上げし、結果にもこだわりたい

――3試合を終えて見えてきたサイゴンFCが抱える課題は何でしょうか?
ウ・サンホ すべてにおいてクオリティの部分を上げていかないといけません。戦術眼とか相手との駆け引きの部分を向上させていけば、もっとボールを持って主導権を握れるサッカーができると思っています。

――現在のシステムでは、中盤はウ・サンホ選手、カオ・バン・チエン選手、松井選手との関係になることが多いかと思います。皆、特徴が異なるタイプですが、それぞれどんな役割を果たしていますか?
ウ・サンホ ご存じのとおり松井選手はクオリティが高いですし、ボールを持てば何でもできます。チエン選手は運動量があって、相手の攻撃の芽を摘みつつ、攻撃のビルドアップにも参加できる。中盤はバランスが大事になってくるので、僕は運動量でカバーして、みんなが気持ちよくプレーできるよう心がけています。

――第3節ソンラム・ゲアン(SLNA)戦では、ウ・サンホ選手のロングスローが決定機を演出しました。すでにサイゴンFCの武器になっていますが、戦術の一つとして取り入れられているのでしょうか?
ウ・サンホ 練習でも投げていますし、その際の動きの確認もしています。ゴールにつながってくれるといいなと思います。

――これまで所属した日本のクラブでもロングスローを投げていたのですか?
ウ・サンホ 今までのチームはあまりロングスローを多用するところがなかったんですが、栃木にいた頃はけっこう投げていました。

――ロングスローというと、今年の全国高校サッカー選手権大会で物議を醸したことが記憶に新しいですが、ロングスローの有用性をどう感じていますか?
ウ・サンホ 全部が全部ロングスロー頼りになるのは賛否両論あると思いますが、戦術の一つにはなると思います。サイゴンFCには大柄な選手もいますし、ベトナムではあまりロングスローを投げる選手がいないため対策ができておらず、投げられたほうは混乱しますからね。

――サイゴンFCは昨年FC東京と提携し、今年はFC琉球とも提携関係を結びました。計画では年内にもFC琉球に選手を送り出すとのことですが、チームの中で可能性を感じる選手はいますか?
ウ・サンホ それこそチエン選手は代表経験もありますし、個人的にはチャレンジしてほしいと思っています。性格的にも黙々と努力する真面目なタイプですし、ベトナムサッカーの成長のためにレベルが高いJ1やJ2を肌で感じて、その経験をチームに還元してもらいたいです。

――今シーズンの目標を教えてください。
ウ・サンホ チームとして上を目指していきたいです。助っ人には松井選手をはじめクオリティの高い選手がいるので、チームを底上げしたうえで結果にもこだわっていきたい。僕がここにいるのには理由があるわけで、もっともっとチームに還元できるものがあると思っています。

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