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【アジア最前線:タイ #5】今季唯一リーグ戦無敗。BGパトゥム・ユナイテッドの快進撃の理由

2020.11.06

[写真]=Getty Images

バンコク・グラス時代からセレッソ大阪と提携

 新型コロナウイルスの影響による長期中断を経て、ようやく再開されたタイリーグは、第11節までを終えた。首位に立っているのは、近年の「2強時代」を築いてきたブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドでもなければ、昨シーズンの王者チェンライ・ユナイテッドでもない。開幕から9勝2分けと、唯一無敗をキープしているBGパトゥム・ユナイテッドだ。

 このところ、BGパトゥム・ユナイテッドの名を日本のメディアでも目にする機会が増えてきた。昨年は同クラブからタイ代表MFティティパンが大分トリニータに移籍し、今シーズンは元セレッソ大阪のMF丸岡満が同クラブに加入。さらに、先日は清水エスパルスのタイ代表FWティーラシン・デーンダーが移籍する可能性も報じられた。

 これまで、BGパトゥム・ユナイテッドというチーム名に聞きなじみがなかったのは当然だ。この名称になったのは昨シーズンのこと。それ以前のチーム名は「バンコク・グラス」で、さらに遡れば2000年代にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に3度出場した名門「クルンタイ・バンク」が前身となる。本拠地はバンコク・グラス時代からバンコクに隣接するパトゥムターニー県だから、「BGパトゥム・ユナイテッド」への変更は実態に即したものとも言える。

「バンコク・グラス」であれば聞き覚えがある、という人も多いだろう。もともとタイリーグでは上位を争うクラブの一つで、2015年にはACLのプレーオフステージにも出場している。日本とのつながりも強く、2012年からセレッソ大阪とクラブ間提携を結び、多角的な交流を継続してきた。相互に人的な交流も行われていて、2014年には茂庭照幸、2017年には池田樹雷人がバンコク・グラスへ移籍している。

 セレッソ関連以外でも、これまで複数の日本人選手たちがプレーしてきた。タイリーグにおける日本人の価値を高めた選手の一人である猿田浩得をはじめ、滝澤邦彦、大久保剛志らJリーグでのプレー経験のある選手たちもバンコク・グラスのユニフォームに袖を通した。昨シーズンから今シーズン途中にかけても、タイリーグでの実績が豊かな馬場悠企と小島聖矢の2人が所属していた。

1部復帰シーズンのリーグ初制覇も

 バンコク・グラスとしての最後のシーズンとなった2018年には、クラブ史上初となる2部降格の屈辱を味わった。しかし、昨シーズンは圧倒的な強さで2部リーグを制し、1シーズンでの1部復帰を果たしている。つまり、今シーズンのBGパトゥム・ユナイテッドは2部からの昇格組ということになるが、開幕からの快進撃はサプライズとは言えない。

 開幕前にはティティパンの復帰をはじめ、ローカル選手、外国人選手ともに積極的に補強し、開幕時点ですでに1部でもトップクラスの戦力を有していた。さらに、リーグ戦の中断期間中にも、タイ代表MFサーラット・ユーイェンをムアントン・ユナイテッドから、元ベネズエラ代表DFアンドレス・トゥネスをブリーラム・ユナイテッドから獲得するなど、果敢に戦力の強化を進めてきた。

 194センチのブラジル人DFヴィクトル・カルドソ、188センチのシンガポール代表DFイルファン・ファンディ、187センチのトゥネスと並ぶ大型3バックに、タイ代表GKチャチャイ・ブップロムで固める守備陣は、10試合でリーグ最少の6失点と安定。サーラット、ティティパン、スマンヤー・プリサーイら高水準のローカル選手をそろえる中盤の質もリーグ屈指で、ここまで攻守に安定した強さを見せている。

 後半戦に向けては、2015年から2018年にかけてブリーラム・ユナイテッドでリーグ通算101ゴールをマークしたブラジル人FWジオゴ・ルイス・サントの加入も見込まれている。さらに、ティーラシンの獲得まで現実のものとなれば、悲願のリーグ初制覇へ向けて戦力は盤石のものとなる。

 約10年間にわたって続いたタイリーグの「2強時代」は、昨シーズンのチェンライ・ユナイテッドの初優勝によって終止符が打たれた。近い将来、ACLの舞台でJリーグ勢の難敵となる可能性のある新勢力が、また一つ生まれようとしている。

文=本多辰成

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