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【アジア最前線:タイ #3】リーグ初の日本人監督はチームを連覇に導けるか

2020.09.03

今季からチェンライ・ユナイテッドで指揮を執る滝監督 [写真]=本多辰成

存在感を見せる日本人監督

 昨シーズン、タイリーグではチェンライ・ユナイテッドという新チャンピオンが誕生した。近年のタイリーグをリードしてきたブリーラム・ユナイテッドを最終節で逆転しての劇的なタイトル獲得。それは、10シーズンにわたって続いていたブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドによる「2強時代」が終わりを告げた瞬間でもあった。

 悲願のリーグ初制覇を果たしたチェンライ・ユナイテッドは今シーズン、日本人の滝雅美氏を新監督に迎えた。タイ代表を率いる西野朗監督が現地で高い人気を誇っていることも影響してか、今シーズンはサムットプラカーン・シティの監督に元鹿島アントラーズ監督の石井正忠氏が就任するなど、タイリーグにおいても日本人監督が存在感を見せている。

 Jリーグでも実績のある石井氏の就任は日本でも注目を集めたが、タイリーグの新王者チェンライ・ユナイテッドの監督にも日本人が招聘されたことは、知らない人も多いのではないだろうか。これまでにもタイリーグのクラブを日本人監督が指揮した例は複数あるものの、前年度優勝クラブを率いてAFCチャンピオンズリーグの本戦にも出場するケースは初となる。

 滝氏は2009年にリーグ初の日本人監督としてタイにやってきた。当時2部リーグに所属していたタイ・ホンダFCの監督を2シーズン務めて退任したが、チームが3部リーグに降格したあとの2014年に復帰。1年でチームを2部に昇格させると、2016年にはGMの立場でチームを10シーズンぶりの1部昇格に導いた。

 その後はタイリーグ1部のパタヤ・ユナイテッド(現サムットプラカーン・シティ)のGMを務め、2018年に帰国。日本では藤枝MYFCの強化部兼アカデミーダイレクターやセレッソ大阪サッカースクールコーチなどを務めた。そして今シーズン、リーグ連覇を狙うチェンライ・ユナイテッドの監督に就任する形で電撃的なタイリーグ復帰を果たした。

群雄割拠の時代に突入

前季のリーグ王者とカップ戦王者が戦うタイランドチャンピオンズカップ。今年2月のプレシーズンに行われた一戦では、チェンライ・ユナイテッドが勝利を収めた [写真]=本多辰成

 チェンライ・ユナイテッドにはもう一人、日本人のスタッフがいる。2013年からタイリーグのクラブでGMなどの職を務め、チームの強化などを担当している鈴木勇輝氏だ。タイのクラブには選手や指導者だけでなく、フロントやトレーナーといったポジションでも複数の日本人が活躍し、これまでにも「日本流」を前面に出したチーム作りをするクラブがいくつか存在した。

 2014年に和田昌裕監督が率いて優勝争いを演じたチョンブリーFCもその一つだ。このクラブで「日本流」のチーム作りが行われたきっかけは、ヴィタヤ・ラオハクル氏がチームに深く関わっていたことにある。ヴィタヤ氏は選手として日本リーグ時代のヤンマーと松下電器でのプレー歴があり、指導者としてもガンバ大阪コーチやガイナーレ鳥取監督などを歴任。同氏は常々、「タイにも日本のような規律が必要」と口にしていた。

 タイ代表の指揮官に日本人が選択されたように、タイのサッカー界には「自分たちに欠けているものを日本人に植え付けてもらおう」という発想が少なからず存在する。タイリーグの新チャンピオンとなったチェンライ・ユナイテッドも、そんな背景があるなかで日本色の濃いチームになりつつある。

 滝監督率いるチェンライ・ユナイテッドは、今シーズンももちろん優勝候補の一角に挙がる。保有戦力はリーグ屈指の質を誇り、西野監督就任後はA代表でも不動のボランチとなっているピティワット・スクチタマクンや、20歳のアタッカーでタイの次代を担う至宝として期待されるエカニット・パンヤー、さらには10番を背負う技巧派MFのシワコーン・ティアトラクンといったA代表の主力級のタレントがそろっている。彼らにはJリーグのクラブも獲得に興味を示していると噂されており、その意味でも注目の存在だ。

 ブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドが引っ張ってきたタイリーグの勢力図は今、大きく変わろうとしている。今シーズンのタイトル争いはチェンライ・ユナイテッド、ブリーラム・ユナイテッド、バンコク・ユナイテッド、ポートFC、BGパトゥム・ユナイテッドあたりを中心に混戦となることが予想される。群雄割拠の時代に突入したタイリーグで、日本人の指揮官がチームを連覇に導くことはできるだろうか。

文=本多辰成

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