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【日本とアジアをつなぐひと】チャナティップ(札幌)「第2、第3の僕が生まれることを願って」

2020.07.06

[写真]=J.LEAGUE

 日本で活躍するアジア人選手が“母国への思い”を語る連載「日本とアジアをつなぐひと」。海外でプレーする外国人選手たちは、文化や言語の違いに苦労する。それでも結果を残し、母国へ貢献することに対する思いは人一倍強い。新型コロナウイルスの拡大により、一時的に世界からスポーツが消えた。その間、選手たちはより母国への思いを馳せる時間が増えたはず。彼らは何を思い、どんなことをしていたのか。第1回は、2017年にタイから日本へ渡ってきたチャナティップに話を聞いた。

※取材はJリーグ再開前に実施

EPISODE

1. 西野監督は明るくよくしゃべる人。個人的なこともよく話す
2. 監督にはいつも「いいプレーをするだけではダメだ」と言われていた
3. 自分のプレーが通用したことは自信につながった

西野監督は明るくよくしゃべる人。個人的なこともよく話す

 
【PROFILE】
#18 チャナティップ(北海道コンサドーレ札幌/MF)
1993年10月5日生まれ、タイ・ナコーンパトム県出身。2012年にBECテロ・サーサナでトップデビューし、1年目ながらリーグ年間最優秀若手選手賞を受賞する。その後、2016年に活躍の場をムアントン・ユナイテッドに移し、翌年に札幌へ期限付き移籍で加入。2019年2月に完全移籍した。身長158センチと小柄だが、切れ味鋭いドリブルを得意とし、昨季は28試合出場4ゴールを記録している。今回はオンラインでの取材に応じてくれた。

――新型コロナウイルス禍によるJリーグの中断期間は、どのように過ごしていましたか?
チャナティップ しっかりと食事をとったり、自宅でトレーニングをしたりしてコンディションの維持に努めていました。今は100パーセントと言ってもいい状態です。世界的に広がっているウイルスなので仕方がないことですが、中断期間は時間を浪費しているという部分ではもったいないとも感じていました。サッカー選手としての人生は短いですからね。

――J1リーグは7月4日に再開します。一方でタイリーグは、9月の再開とシーズンの秋春制への移行という大胆な決定を下しました。
チャナティップ 選手にとっては少し中断期間が長いような気がしますね。日本の場合は、スポンサーのことなども考えて7月に再開するという選択をしたんだと思います。

――10月には2022 FIFAワールドカップ カタール予選も再開される予定ですが、タイリーグでプレーしているタイ代表の選手には、コンディション面に影響が出るのでは?
チャナティップ 日程も過密になりますし、疲労が溜まっていく可能性はあると思います。ただ、これも仕方のないことなので、Jリーグでプレーしている自分たちも、タイリーグの選手たちも、できる限りコンディションをいい状態に保つ努力をしながらプレーするしかありません。

――タイ代表は現在、アジア2次予選でグループ3位です。2大会連続となる最終予選進出のためには、負けられない状況ですね。
チャナティップ 残り3試合、簡単な試合は一つもありません。全力でやるしかないですね。

W杯アジア2次予選でベトナム、インドネシア、UAE、マレーシアと同組となったタイ代表は、5試合を終えて2勝2分け1敗のグループ3位。今年10月にインドネシア戦、11月にUAE戦とマレーシア戦が予定されている [写真]=Getty Images

――そのタイ代表は、昨年7月から西野朗監督が率いています。チャナティップ選手から見て、彼はどんな監督ですか?
チャナティップ Jリーグでも日本代表でも結果を残してきた、日本でトップクラスの指揮官です。とてもいい監督だと思います。明るくよくしゃべる方で、タイ代表で招集されたときは個人的なこともよく話します。

――タイ人監督との違いは?
チャナティップ 難しい質問ですね。日本人監督は規律に厳しいイメージがありますが、西野監督はそれほどでもないんです。代表の場合、一緒に練習する時間が短いので、イメージをきちんと共有することに力を注いでいる印象です。プレー自体は自由にやらせてもらっていますが、チームミーティングは頻繁に行いますし、練習前にもボードを使って一つひとつの意図を説明してくれます。

――西野監督はタイ国内で高い支持を得ています。彼の下で、タイ代表はさらに進化できると思いますか?
チャナティップ それは、選手も含めた問題ですね。まずは選手一人ひとりが成長しなければいけませんし、西野監督のサッカーをしっかりと表現することができれば、いい結果につながると思います。

監督にはいつも「いいプレーをするだけではダメだ」と言われていた

タイを離れ、日本では2017年7月からプレー [写真]=J.LEAGUE

――北海道コンサドーレ札幌に加入して、昨季まで2シーズン半をプレーしてきました。日本へ来る前は、Jリーグで成功できるかは「やってみなければ分からない」と話していましたが、2018年にはJリーグ年間ベストイレブンに選出されるなど、見事な結果を残しています。
チャナティップ 正直、自分でも驚いています。Jリーグで成功したいという夢を持って日本へ来ましたが、ここまでの結果が残せるとは思っていませんでした。ただ、これは個人レベルのことで、チームとしてはまだ十分な結果を残せていません。今後は個人としてはもちろん、チームとしてもさらにいい結果が出せるように頑張りたいと思います。

――Jリーグでの成功の要因はどこにあったと思いますか?
チャナティップ 自分だけの力ではなく、チームみんなの力があったからこその結果です。チームメイトや監督、スタッフの助けがなければ難しかったと思います。

――2018シーズンはJ1で8ゴールをマークしました。タイリーグ時代のシーズン最多は4ゴールでしたが、日本へ来てゴールへの意識が変わったのですか?
チャナティップ 監督のミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ)のおかげです。監督にはいつも、「いいプレーをするだけではダメだ」と言われていました。数字に表れる結果、つまりゴールやアシストが必要だということです。そう言われ続けたことでゴールへの意識が変わり、8ゴールという結果につながったんだと思います。

2018シーズン終了後には札幌の選手投票でMVPに選出され、東南アジア出身選手初のJリーグベストイレブンにも選出された [写真]=J.LEAGUE

――以前、J1で初のタイ人選手として「これから日本へ来るタイ人選手に道を開きたい」と話していましたが、その通りになっていますね。
チャナティップ 実際にタイ人選手に興味を持っているJリーグのクラブもありますし、そういった役割が果たせているのかもしれません。Jリーグへの移籍は挑戦でしたが、この2シーズン半で「タイ人選手も日本で活躍できる」ということが証明できました。今は複数のタイ人選手がJ1でプレーしていますし、彼らも結果を残していけば、さらにJリーグとタイのいい架け橋ができると思います。

――Jリーグでの経験を踏まえて、今後、タイのサッカーがさらに成長するためには何が必要だと思いますか?
チャナティップ 個人能力は十分にあるし、タイリーグも強くなってきていますが、戦術面は突き詰めていく必要がありますね。あとはもっと日常生活からプロ意識を持つこと。長期的に見れば一番大事なのは育成ですが、Jリーグも含めて海外のチームに移籍して経験を積むことが即効性のある方法だと思います。

――以前、Jリーグで成功することが一つの夢で、もう一つはヨーロッパでプレーすることだと話していましたよね。最近はスペインやイングランドのクラブが興味を示しているという報道も出ていますが、ヨーロッパへの移籍についてはどう考えていますか?
チャナティップ チャンスがあれば挑戦してみたい気持ちはありますが、実際に移籍するにはタイミングが重要です。もしヨーロッパでも成功することができれば、これからの若いタイ人選手に可能性を示すことにもつながってくるでしょうね。

――今、ヨーロッパに移籍したとしたら、やれる自信はありますか?
チャナティップ それはJリーグに来るときと同じです。実際にやってみないと分からない。ただ、学べることがたくさんあるのは間違いないですし、行って損はないはずです。

自分のプレーが通用したことは自信につながった

ムアントン時代のチャナティップ [写真]=Getty Images

――タイリーグ時代のことについても聞かせてください。チャナティップ選手はBECテロ・サーサナ(現ポリス・テロFC)とムアントン・ユナイテッドで計6シーズンを戦っています。そのなかで、特に印象的なシーズンはありますか?
チャナティップ やはりチャンピオンになった経験は印象深く残っています。まずはプロとして初めてプレーしたBECで、リーグカップのタイトルを手にすることができた2014シーズン。もう一つが、現在Jリーグでプレーしているティーラシンやティーラトンとともに、リーグ優勝を果たすことができた2016シーズンです。

――BECでリーグカップを制した2014年当時は、元日本代表の岩政大樹さんとチームメイトでしたね。
チャナティップ 最初の頃は壁を感じていましたが、話しかけてみるといろいろと教えてくれて、学ぶことは多かったです。リーダーシップの面やプロフェッショナルとして何をすべきかといった部分は、特に大きな影響を受けました。

――ムアントンでの最後のシーズンはAFCチャンピオンズリーグに出場し、ホームでは鹿島アントラーズに勝利しました。その経験はJリーグに移籍してからも生きましたか?
チャナティップ そうですね。自分のプレーが通用したことは自信になりました。鹿島は戦術的にも非常に洗練されたチームですし、僕たちは日本のトップチームに対抗するために十分にコンディションを整えて対策を練っていました。結果的にプラン通りの試合運びができて、勝利につながったのでうれしかったです。

2017年2月のACL鹿島戦。チャナティップはフル出場し、2-1の勝利に貢献した [写真]=Getty Images

――タイに戻ったときにはどんなことをしていますか?
チャナティップ タイに帰るのはだいたいタイ代表の試合があるときなので、自由な時間は1日か2日程度しかありません。時間があるときは、できるだけ家族と過ごしています。

――故郷のナコンパトム県に私費で「チャナティップ・スポーツクラブ」を建設しました。これはどういった思いからだったのでしょう?
チャナティップ この施設は、父やタイへの恩返しがしたくて作りました。父は昔からサッカーが好きで、幼い頃によく教えてくれていたんです。今の自分があるのは父のおかげです。現在もここに通う子供たちを指導しています。この場所から「第2のチャナティップ」、「第3のチャナティップ」が生まれてくることを願っています。

――今後、Jリーグではどんなキャリアを築いていきたいと考えていますか?
チャナティップ まずは今季、Jリーグで優勝することです。簡単なミスで失点をしなければ優勝できると思っています。

――最後に、日本とタイのファンにメッセージをお願いします。
チャナティップ 今季はチームの成功を目指して頑張っているので、日本のファンもタイのファンもコンサドーレを応援してくれるとうれしいです。それから、Jリーグでプレーするほかのタイ人選手たちの応援もよろしくお願いします。

取材・文=本多辰成


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